しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

3001年終局への旅 アーサー・C・クラーク著 伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫

2015-02-24 | 海外SF
2001年宇宙の旅」シリーズ完結編です。
1997年刊。
ブックオフで去年購入しておいたものを読みました。

2010年宇宙の旅」のラストでは終局は「20001年」と暗示されていましたが、「2061年宇宙の旅」で「あまりに遠い未来を見通すのが難しい」ということで「3001年」が終局ということに設定しなおされています。
といいながらも….前作発刊から10年間おいての出版です。

クラークの体調も前作書いた辺りからすぐれなかったようでその辺が影響しているんでしょうかねぇ。
クラークは共著ではこの後も作品を出していますが単独著作では本作が「最後」?という作品です。

内容紹介(裏表紙記載)
31世紀初頭、海王星の軌道付近で奇妙な漂流物が発見された。それこそは、宇宙船ディスカバリー号の船長代理フランク・プールだった。はるか1000年前、宇宙船のコンピュータ、HAL9000によってディスカバリー号から放りだされたプールは、冷凍状態で星の世界へ向かっていたのだ。地球の軌道都市スター・シティで蘇生させられたプールがたどる究極にして最後の宇宙の旅とは…『2001年宇宙の旅』に始まるシリーズ完結篇。


内容紹介にもある通り今回の主人公は「2001年」でディスカバリー号から放り出されたフランク・プール。
「そうきたかぁ...。」という意外な展開です。

木星軌道から流されると1000年間で海王星軌道辺りに到着するんですねぇ…..。
試しに計算してみると…。
木星軌道から海王星軌道まで37.2億km。
1000年=365,000日=8,760,000時間。
から、425km/h=118m/s...。

速いか遅いか見当つきませんが(笑)クラーク氏なりにこの速度根拠あるんでしょうねぇ。

その1000年間眠っていたプールの眼からみた「3001年」の地球文明と、旧友ボーマンと旧敵(?)HAL9000との1000年ぶりの再会が最大の見どころの作品です。
後者はシリーズものならではの見どころなわけですが安直といえば安直でかすねぇ…。

このシリーズの物的主役である「モノリス」ですが「2001年」でえらく神秘的だったのが本作ではかなり大衆化してしまいます。
(シリーズものの性ですかねぇ…シリーズ最後の方で「シェー」をやらされていたゴジラを思い出しました)

ともかく全体的な感想としては、作者が余裕たっぷりに楽しんで書いているなぁと感じました。

せっぱつまってこの有名なシリーズを「雄大に終わらそう」などという気合いを殆ど感じませんでした。
作中ハインラインの「異星の客」のパロディ的な描写や、さりげなくスーザン・キャルビン女史(アシモフのロボットシリーズの重要登場人物)を実在の人物にしていたりと遊び的な要素が随所にちりばめられています。
他にも詳しい人が読めば昔のSFのパロディ的描写は見つけられるのかもしれません。
(あとがきでも今はなき盟友アシモフ・ハインラインを偲んでいる感じがありました)

残念ながらクラークの想像した3001年の世界ではキャルビン女史は陽電子ロボットは開発しなかったようですが...。
ロボットの代わり的存在としては遺伝子的に操作された恐竜が子守をしていたりします。

その他作中の3001年の世界描写には金星のテラフォーミングやら、宇宙エレベーターで地上とつながった静止軌道にリング上に建設された都市などクラークが「こんなのできたら楽しいだろうなぁ」というようなものを、実現したような説得力のある描写で書いておりかなり楽しんでいるんだろうなぁと感じました。

作中「西暦1001年に生きていた人が2001年の世界で感じるほどの驚きは、2001年の人が3001年に来ても感じないだろう」とありますが。
基本現在の技術の延長線上での未来が書かれています。

執筆された1997年という時代を反映してコンピューター関係のお話もかなり盛り込んでいます。
サイバーパンクも出てきて(陳腐化も?)いましたし意識したんでしょうが「負けないぞ」なのか「パロディ的」に書いているのかは?ですがこの辺はさすがのクラークも宇宙開発など得意分野と違い切れは今一つでした。

一方で社会的なもの、例えば犯罪者の扱い等の部分はちょっと理想的すぎるかなぁとも感じました。

本シリーズはそれぞれ「パラレルワールド的設定」とされているとおり「2061年宇宙の旅」ではエウロパにヘイウッド・フロイドの分身も存在するように書かれていましたが…。
本作ではいないことになっていたりと設定はいろいろ異なっているようです。

前述もしましたが「2001年宇宙の旅」では「絶対的」で人知ではいかんともしがたい存在として描かれていた「モノリス」ですが、本作では人間の力でなんとかなる存在となってしまっています。
小学生時代に手の届かない存在として眺めていた神秘的な美少女が、30年経って話は面白くていい人なんだけもどこにでもいるおばちゃんになってしまったというような….なんとも言えない感慨感じました。

「2001年」には絶対的存在だったモノリスを「3001年」にはなんとかしてしまう地球人とそのテクノロジーという発想は「科学の進歩」=「明るい未来」というなんとも楽天的な発想ですねぇ…。
巨匠クラークが「科学万能」だけの人とは思えないですが、この辺意図的に楽天的にしたんでしょうか?
ラストでのプールの幸せな老後っぷりといいい、この脳天気感は(作品にもよるのでしょうが)ハインラインっぽい感じもしたので意図的にまねたのでしょうか?
(上記あくまで私の独断と偏見です)

ということで「科学的予見性」ではSF界随一の巨匠クラークが余裕たっぷりに予想して描いた3001年の世界を楽しめますし、モノリスの謎解きもされていてシリーズの終わりとしてすっきり感のある作品ではありました。
ただ「2001年」の壮大なスケールを思い浮かべて読むとがっかりする人はいるかもしれません(笑)

私的にはいろんなSFの「パロディ的作品」としてけっこう楽しんで読めました。
クラークによるセルフパロディと思えばモノリスのだらしなさもなかなか面白いです。
そういう話であればフロイド博士ももう一度だしてあげればよかったのにねぇ。

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