しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

夜来たる アイザック・アシモフ著 美濃透訳 ハヤカワ文庫

2017-05-31 | 海外SF
ミクロの決死圏」の感想でも書きましたが私の読書のターゲットのひとつに邦訳されているアシモフのSF全作品読破があります。

短編集は本書と本来一対であった「サリーはわが恋人」と「変化の風」「ゴールド」を読めばほぼ制覇と思っております。(上記三冊入手済。)

上記以外では「コンプリート・ロボット」(1982年刊行・2004年邦訳出版・ソニーマアジンズ社)の中の4作品が他短編集未収録のようでそれをどうするか….。

Amazonではプレミアがついて1万円近い価格になっておりこの4作だけのために購入するふんぎりがつきません。(うち1作品はイライジャ・ベイリもので「ミラー・イメージ」、読みたいは読みたいのですが…)

本書「夜来たる」も紙の版は絶版になっていて、永らくAmazonの古本価格も3,000-4,000円とお高めでしたがKindle版が出たためか、1,000円台と購入しやすい値段になったため入手しました。

今は余程の珍書でない限りお金さえ出せば本を買えるので便利です。(ある意味SF的世界だ…)

本書はアシモフの出世作でタイトルでもある「夜来たる」を含む5作品が収録されています。
元々は"Nightfall and Other Stories"として有名でありながら短編集に未収録であった「夜来たる」とその他19作品を合わせた20作を一冊として1969年に発刊されたものです。
後に2分冊となって出された前半部分の"Nightfall One"が本書です。(後半部分の"Nightfall Two"は前出の「サリーはわが恋人」としてハヤカワで邦訳出ています。)

「夜来たる」は現在でも’12年ローカス誌オールタイムベスト中編で2位(1位は中編版の「アルジャーンに花束を」)と評価の高い作品であり、かつアシモフが一流SF作家への階段を踏み出すきっかけとなったとされる作品です。

ただこの「夜来たる」に対してアシモフ本人は複雑な思いがあったようで、発表時21歳のときの作品がいつまでも「ベスト」と言われることに不満を感じていたようです。
本書(「夜来たる」「サリーはわが恋人」)では短編集未収録の作品を発表年代順に収録して「果たしてアシモフに進歩がなかったのかどうか読者に判断してもらおう」という趣旨とのこと。(自身が序文で書いています。)
なお解説によるとアシモフ自身が選んだベスト短編は「最後の質問」「バイセンテニアルマン」「停滞空間」で本書収載の「人間培養中」が7位、「夜来たる」が10位とのこと。
「最後の質問」はマルティバックもので(「停滞空間」収載)私にはピンと来ませんでしたが「停滞空間」と「バイセンテニアルマン」は名作ですね・・・。

なお‘12年ローカス誌オールタイムベスト中編では本書収録の「人間培養中」は87位にランクインしています、「バイセンテニアルマン」は4位、「停滞空間」がランクインしていないのは「???」です。

本書も他のアシモフの短編集同様作品の前に著者自身による作品の成り立ち紹介がありこちらも楽しめるようになっています。

内容紹介(裏表紙記載)
2千年に1度の夜が訪れたとき、人々はどう反応するだろうか…六つの太陽に囲まれた惑星ラガッシュを舞台に、“夜”の到来がもたらすさまざまな人間模様を描き、アシモフの短篇のなかでもベストの評価をかち得た、SF史上に名高い表題作はじめ理想的な植民惑星に見えたセイブルック星にひそむ恐るべき陥穽をスリリングに綴る「緑の斑点」、ほかの知的生命体と異なりなぜ地球人のみが不死でないのかを研究する異星人がたどりついた皮肉な結論「ホステス」など、バリエーション豊かな短篇の数々を著者の軽妙な詞書きにのせて贈る、アシモフの面目躍如たる傑作短篇集!


各編概要と感想
○夜来たる 1941.9
六つの太陽に照らされた惑星ラガッシュはその空には常にどれか一つ以上の恒星が輝いていて夜が訪れることはありませんが約二千五十年間隔で日食が起こることがわかり…。

現代的視点でみてオールタイムベストで2位に入る作品かどうかは正直疑問には思いました。

そもそも天文学まで発展している知的生物が暗くなったくらいでそれほどパニックになるかに納得感がないのですが…。
そこは異星人ですので計り知れないものもあるでしょうし、その辺の常識を疑った所が本作の価値でしょうね。
なにやら宿命的な事件でそこそこ発展した異星人の文明が壊れてサイクルを繰りかえすという発想はその後の「神々の目の小さな塵」「最果ての銀河船団」でも同様なシチュエーションが出てきますし、その手の発想の元祖かもしれません。

○緑の斑点 1950.11
惑星セイブルックの生命体はすべてが共同体を形成しており、彼等の惑星を訪れた人類を哀れみ孤独で哀れな地球生命を、自分達の共同体に組み入れようとして…。

「共同生命体」の概念の素晴らしさとと、その共同生命体が生殖細胞に働きかけて異星人にも自由に自分の遺伝子を組み込んだ子供を作らせ得るという事態の怖さが素晴らしいです。
この辺うまく膨らまでせれば長編も書けそうですが、あっさりした昔話の「サトリ」系ラストで終わらせています。発想が素晴らしい作品です。

○ホステス 1951.5
生物学者ローズは、異星の客を自宅に招き警察官の夫は受け入れに難色を示し…。
やがて明らかになった事実とは….。

思いっきりネタバレですが…「人類」=「男性」=「寄生体」という発想が楽しい!!
ミステリタッチなのもアシモフならではの良作です。

○人間培養中 1951.6
ある警察署に「自分で自分を殺そうとしているが、死にたくないので留置所に入れて欲しい」という男が現れ、男の正体は天才的物理学者でしたが…。

「核」「原子力」に対する恐怖が普遍的であった時代らしい作品。
その他設定も古く感じる作品なのですが、よく考えると「核」の恐怖はあまり変わっていないんですよね。
麻痺している自分がコワイ...。
果たして人類に今もペニシリンは効いているんだろうか?

○C-シュート 1951.10
地球へ向かっていた商船が戦争中の異星人に拿捕されました。残された六人の乗客は…。

パニックに陥った六人の心理描写が秀逸な作品です。
C-シュートをたどっていく場面描写がすばらしかったです。
ただラストは…よくわからなかったです。(汗)
コンプレックスと郷愁のなにやら事件をもじっているのか???

通して読んで全編アシモフらしい「SF」的発想とサービス精神にあふれた作品集だと感じました。

1941年の「夜来たる」から1951年までその点変わらないのは感心ですが…。
変わらないのが逆に「どうかなぁ」というところなのかもしれません。

「文学的」とか「マニアックさ」と無縁なのがアシモフですのでその辺が現時点でディックなどと比べて評価の低い原因なんでしょうね。

特に短編の場合話をあまりふくらませないで凝らずに勢いで書いてしまっている感がありますが「緑の斑点」や「ホステス」などこのアイディアで長編書けそうなすばらしい着想だと思いました、もったいない・・・。

本短編集の中では上記2作品が一番好きで、どちらか1作選べといわれれば「ホステス」かなぁ。
アシモフの「頭のいい女性」好きなところがよくでている作品でもあります。

「最新のSF」を読みたい人にはお勧めしませんが、「SF入門編」及び「古き良きSF」を読みたい人にはいい作品集だと思います。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Yuri)
2019-06-05 11:57:14
こんにちは。突然なんですが、この本「夜来たる」譲って頂くことはできないでしょうか…?
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Unknown (shirokuma_2007)
2019-06-08 20:22:46
Yuri 様
こんにちは。すいませんがおゆずりできません。
よろしくお願いいたします。
しろくま
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