しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

高い城の男 フィリップ・K・ディック著 浅倉久志訳 ハヤカワ文庫

2013-12-20 | 海外SF

ユービック」を読んでディックが気になり、本棚に眠っていた本書が目につき手に取りました。

12年ローカス誌オールタイムベスト22位、1962年発刊。
ローカス誌のランキングではディック作品での最上位となっていますし、ディック唯一のヒューゴー賞受賞作品です。

手持ちのもの昭和59年7月発行の初版です。
私が中三のとき購入ですね。

帯を見ると。(珍しく残っていた)

その頃ちょうど新訳が出たんですね。
ディック唯一のヒューゴー賞受賞作品ですしSFというカテゴリーで見ると、帯にもあるとおりディックの最高傑作といえるかもしれませんね。

本書、当時から有名作でしたがこの新訳版が出るまで入手困難な作品でした。
そのため本屋で見つけたときとてもうれしかった記憶があります。
(前にも書きましたが、間違って同じハヤカワから出ている「高い砦」を買ったりしていた...。)

もっとも当時の私はこの作品の「第二次世界大戦で日本とドイツが勝った世界」という設定に興味をもっていただけでディックが何者かは全然知りませんでした。

歴史ものに興味を持っていた時期で、SFだと「モンゴルの残光」やら「タイム・パトロール」とか「闇よ落ちるなかれ」など、ミステリだと「時の娘」や高木彬光の「成吉思汗の秘密」などを読んで喜んでた記憶があります。

対して本作は今回読んで思いましたが、「歴史」「改変」テーマが主題ではない感じです。
(ディック作品らしい?)

内容(裏表紙記載)
アメリカ美術工芸品商会を経営するロバート・チルダンは、通商代表部の田上信輔に平身低頭しながら商品を説明していた。 すべては1947年、第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わった時から変わったのだ。 ここサンフランシスコはアメリカ太平洋岸連邦の一都市として日本の勢力下にある。 戦後15年、世界はいまだに日本とドイツの二大国家に支配されていたのだった!―――第二次世界大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に現実と虚構との間の微妙なバランスを、緻密な構成と迫真の筆致で見事に描きあげ、1963年度ヒューゴー賞最優秀長編賞を受賞した、鬼才ディックの最高傑作、遂に登場!

というわけで、昔1回は読んだはずなのですが、見事に内容を覚えていませんでした。
感想すら記憶にないので、中学の時の私はまぁ表面だけを流して読んでいたのでしょうね。

本作をパラレルワールド的なエンターテインメント小説(「プロテウスオペレーション」とか)と捉えるとなんとも「食い足りない」という感想になるかと思います。

歴史が改変されていること自体の状況設定は現実感がなく、その辺突っ込むならいくらでも突っ込めそうです。(日本人やら、ドイツ支配下の地域状況とか)
まぁでもそこはディック、現実感のない世界での人間を追いかけるのが得意なんでしょうね。

ただ「現実感のなさ」ぶりは「ユービック」の方が上で、未整理で冗長な感じも受けました。
主人公もはっきりしない群像型のお話でもありますし。

解説には「ディックの作品としては心理描写など丁寧に書き込んでじっくり仕上げている」という評価もあるようで好みの問題かもしれません。

あと作中頻繁に出てくる、「易経」というか「易」と「道(タオ)」を説く日本人像などは鼻につく人もいるかとと思いますが、気にしなければまぁ流せると思います。(私は)

というと悪口をいっているようですが、場面場面とても印象深い作品ではありました。

「ユービック」同様、感想が書きづらいですが、本作の軸の一本は人間の「成長」「尊厳」じゃないかなぁなどと感じました。

本作の主要登場人物、美術商のチルダン、通商代表部 田上、職人のフランク、その元妻ジュリアナ、スパイのバイネスは作中でそれぞれ事件に巻き込まれ、それに立ち向かう中で自分の立ち位置の再確認と自身の「尊厳」の再確認を迫られます。

結果として自己を確立していく。(成長...ともいえるような)

タイトルの「高い城の男」は、「第二次世界大戦で連合国側が勝った」設定の小説を書いた男で、主要登場人物は皆その小説を読みなんらかの影響を受けるのですが最後まで登場しません。
その小説によりドイツ政府に睨まれ、襲撃を恐れていて「高い城」と呼ばれる完全防備の家に住んでいるという噂の思わせぶりな男ということで、期待感たっぷりに登場するのですが...。

ネタバレになると思いますが、.。

登場した「高い城の男」は「高い城」に住んでおらず、ホームパーティを平気で開催しているる思いっきり普通の人として描かれています。

著作も実は「易」で占ったものをそのまま書いただけというのも明らかになり...。

苦難を超え「尊厳」を確立した登場人物と、「現実とはなにか?」というのがぐらりとしている状況がなんとも....。

味わい深いです。

なお解説でディックも本作を書くのに一部「易」を立てて先を決めたと言っているとの商会がありました、う~ん。

他、「ユービック」でディックの書く女性が魅力的と書きましたが本作でもその才能は発揮されています。
ということでちょっと紹介。

主要登場人物であるジュリアナについて
元夫フランクの回想シーン
「彼が結婚した最高の美人。真黒な眉と髪の毛。微量に混じったスペイン系の血が純粋な色彩として、唇にまでいきわたっている。ゴムのような、音のしない歩き方。」
「黒い髪と白い肌、憂いを含んだ激しいまなざし・・・・・・ちょっときつめのグレーのセーターを着てあらわな胸にかかった銀のネックレス、それが息づかいに合わせて上下に動く・・・・・・。」

美術商チルダンが梶浦夫人と会っての印象。
「このほっそりとした体。日本女性のスタイルはまったくすばらしい。ぶよぶよした贅肉ってやつがない。ブラジャーもガードルもいらない」
「浅黒くきめの細かい肌、黒い髪、黒い瞳。これに比べたらわれわれ白人は生焼けだ」

いやいや人種関係なくすばらしい筆力です。(笑)

「日本人女性って魅力的だよなぁ」などと改めて感心してしまいました。


どんな状況でも成長するぞ!というあなた、やっぱり日本女性が...というあなた。
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2 コメント

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Unknown (さくら)
2013-12-25 21:45:39
通りすがりの初コメントです。
無知ながらも「海外SFといえば浅倉久志訳!」と思いつつ
フィリップ・K・ディックは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』しか読んでいないことに気付きました。

『高い城の男』、とても読みたくなりました!
最近は本屋でなんとなく選んで読むことが多かったので久々に読みたい本ができて嬉しかったのでコメントしてみました。
ありがとうございました。
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Unknown (しろくま)
2013-12-26 22:00:47
さくらさん
コメントありがとうございます。
(当ブログ初コメントでかなりうれしいです。)
さくらさんの本選びに拙文が役立ったならうれしいです。
海外SFを翻訳者で選んで読んでいる方結構いるようですね。
浅倉久志氏、伊藤典夫氏などは海外SFの紹介への貢献大なんでしょうねぇ。
私はディックは読んでいてなんだか不思議な気分になります。
何冊か入手済みなのですがなかなか手がつきません....。
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