詩などを創るのが好きな旅する者のブログ

自分が創った詩や絵などの紹介

泥沼

2013-02-18 19:06:48 | 

いつだったでしょうか

ある町をぶらぶら歩いていました

何軒もの店を越えた遠くの方に

太陽がきらきら反射しています

眩しいほどのあの場所へ向かって

体が動いていました

湖です 湖だったのです

透明な水の煌めき

その中に美しい女性が立っていました

僕は引き込まれるようにして湖に浸かり

気がついた時には

もう好きになっていたのです

何度か会う内に その女性の気紛れに

胸の痛くなる夜が多くなりました

眠れない切なさに震えていました

やがて透明だった湖は濁り出し

茶色をした真実が僕を囲み始めました

一途でない彼女の行為がそうさせたのです

泥沼と化した湖に沈んでゆく自分がいました

手を伸ばせば まだロープに届きます

あのロープに摑まりさえすればいいのです

摑まりさえすれば

でもそうしませんでした

一歩踏み込んだのであれば どうなろうとも

結果が出るまでは沈みたかったのです

どんどん どんどん 沈みながら

もう湖に戻ることはありませんでした

まるで視界のない死海

泥沼の底にいました

見事に負けたのです

だけど本当に負けたのではありません

それから必死で這い上がろうと

僕は地上を目差したのです

何日も何日も 傷口の痛みをこらえ

幻影にうなされながらも

思いを振りかざし

そしてついに太陽の笑顔を見た時

僕は勝ったのです

そこには強くなった自分がいました

 (1996年 「詩集 輝きの下へ」より)