詩などを創るのが好きな旅する者のブログ

自分が創った詩や絵などの紹介

ホームレスの老人

2013-02-04 19:47:30 | 

元日の夕暮れどき

ゴーストタウンに変わった大和町が

不安げな表情でひっそりとしている

砂ぼこりの舞う無人の道を降りながら

喜びもなく俯いていた

ずっしりとした一本の大木が

公園からこちらを覗いている

見返した視界に入ってきたのは

ホームレスの老人だった

ベンチからいきなり転げ落ちると

地面に叩きつけられた

しばらく動かない

予期せぬ衝撃が全身を走る

金縛りで脈打つ向こう側で

老人は起き上がり始めた

何度も手を伸ばしながら

何度も尻をつく

あわてて公園に走り 手を差し出した

その手を横目で見ると

決して握ろうともせず

「独りでやるから 気にしないでくれ」と

起き上がれそうもない体をまた動かし始めた

途方もない不屈の意志

また己の弱さを突きつけられた

ホームレスの老人にとって

ホームレスになったその日から

自分しか頼れないのは分かりきったこと

その日その日が生きている証

崖っ縁のプライドだったのかもしれない

 (1996年 「詩集 輝きの下へ」より)