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奇跡とは?

2017年02月01日 | 日記


辻仁成さんの小説に「ミラクル」という作品があります。

アルは10歳前後の少年。
母はジャズ・シンガーだったが、アルの出産時に命を落としている。
ジャズ・ピアニストの父、シドは、妻の死という現実を受け入れられず、
酒に溺れて、生活も荒んでしまっている。
シドは、息子のアルに「ママは雪の降った日に帰ってくる」と嘘をついている。

子供だけが姿を見ることができる幽霊のダダとエラソーニは、
いつもアルを慰めてくれる存在。
「現実に振り回される生き方を選んだ瞬間から、自分たちの姿は、君には見えなくなる」
と語る。

同世代、同じ境遇の少女キキに
「君はパパにだまされているわ。ママは死んじゃっているわね。」
と言われ、アルの心は揺らいでいる。
「パパ、本当のことを教えてよ。ママは生きているの?死んでしまったの?」
父に詰め寄るアル。
「生きている」
アルコールを煽りながら、父は嘘を重ねてしまう。。。

クリスマス・イヴ、南の街に30年ぶりに雪が降る。
生まれて初めて見る雪に興奮したアルは叫ぶ。
「ママが帰ってくる!」

シドは仕事仲間の女性シンガー、ミナに1日だけ母親役を演じてくれ、と強引に頼み、
その夜、ミナをアパートに連れて行く。
ドアを開けた時、アルは、父とミナを見て
「おばさん、いらっしゃい」
と言う。

驚いた父とミナに、アルは、
「さっきママがここに帰って来たんだ。」
父は込み上げてくる感情を抑えきれず、アルを抱きしめて優しくうなずく。
二人を見つめるミナも涙を流す。
「ママは、パパの身体のことを心配していたよ。また雪が降ったら帰ってくるから、って。」
アルはそう話すのだった。

小さな奇跡はアルの心の中に起きていた。


高校2年生の国語の授業で、この小説の読解を終えて、
主題解釈に関するディベートを行います。
「アルは母に会った」
「アルは母に会っていない」
の2派に分かれて、本文から根拠をあげての論戦です。

「目に見えるものだけが全てではない。アルは母に会ったのだ。」
「アルは父をかばうほどに大人になったのだ。アルの成長こそ奇跡だ。」
生徒たちからは様々な意見が出て、大変興味深い話し合いになります。
毎年、この話し合いを終えると、
生徒たちの論理的思考力、物語の深淵を読み解く力の向上を感じます。

さて、あなたなら、どちらの解釈をしますか?