つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

帯の文句に負けました(笑)

2012-03-16 22:21:59 | ミステリ
さて、本屋はすでに図書館で借りる本を探す場と化しているの第995回は、

タイトル:万能鑑定士Qの事件簿Ⅰ
著者:松岡圭祐
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'10)

であります。

ミステリと言うと、人がばたばた死んでいくイメージがあってあまり好きなジャンルではありません。
なので、死人が出まくりの「金田一少年の事件簿」より、人が死なない場合もある「名探偵コナン」のほうが好きで、だから日常のミステリを優しく描く加納朋子さんが大好きです。

本書の場合、書店に平積みされていた帯に「人の死なないミステリ」とあってので、読んでみることにしました。
ストーリーは、

『角川書店の週刊誌「週刊角川」の記者、小笠原悠斗は、銀座から始まったと言われる「力士シール」の謎を記事にするために活動を行っていた。
ただ太った中年男を描いただけのような「力士シール」――そのサンプルを持ち帰るために、シールをはがそうとしている区役所の職員に声をかけ、短いやりとりのあと、ガードレールの波板を借りることでサンプルを得ることができた。

しかし重い波板を持ち帰った編集部で待っていたのは、頼りにしていた鑑定士の鑑定依頼拒否の連絡と、他紙より先んじて記事にすべしとの編集長の言葉。
サンプルは入手したが肝心の鑑定士がいない。――誰か他の鑑定士がいないかと一縷の望みをかけてネットで検索をかけて見つけたのは「万能鑑定士Q」

そこへシールのサンプルである波板を持ってその事務所に出向いた小笠原は、先客らしい男と対応に出た若い女性と会う。
名前から鑑定士の寄り合い所帯のようなものを想像していたのだが、事務所には若い女性――凜田莉子だけしかいなかった。
先客の男も小笠原と同じように考えていたようで、話にならないとばかりに帰ろうとするが、莉子はそれを押しとどめ、依頼品である絵画の鑑定を行う。
すると淀みなく絵画に施された偽装を見抜いていく莉子。
結果に満足して帰って行った先客の男のあと、小笠原は手首にしていた時計からその実力を試そうとするが、着ている服や持ってきた波板などから莉子は小笠原の勤めている会社や週刊角川の記者であることまで見抜いてしまう。
その観察眼に脱帽するしかない小笠原は、よほどの秀才かと想像するが……。

莉子は、高校時代、おちこぼれだった。普通科目の通知表はオール1。高校入学、進級ですら奇跡としか言いようのない成績だったが、性格だけは前向きでよかった。
そんな莉子は、沖縄の波照間島の出身で高校卒業後は上京して働こうと考えていた。
とは言え、致命的に成績の悪い莉子がすんなり就職できるはずもなく、生活は苦しくなっていくだけ。

転機が訪れたのはあるリサイクルショップのキャンペーンだった。そこで出会ったリサイクルショップの社長、瀬戸内陸。
莉子の感受性の高さを見て取った瀬戸内は、莉子に知識を得る方法、計算する能力などを、見聞きしたり経験したりしたことから莉子に教えていく。
その甲斐あって莉子は片っ端から知識を得、瀬戸内の計らいで働くことになったリサイクルショップで観察眼を磨き――万能鑑定士を名乗ることになったのである。

そして小笠原の持ち込んだ「力士シール」の鑑定に挑むことになった莉子は……』

1巻で終わらないのかよ、このエピソード……。
正直、最後に注記された「(「万能鑑定士Qの事件簿Ⅱにつづく。次刊このエピソード完結)」にはがっくり来ました。
まぁ、裏表紙の紹介にも「シリーズ第1弾」とあるのだから「2につづく」もありだとは思うけど、シリーズがおもしろいかおもしろくないかを判断する1冊目。個人的には解決してもらったほうが判断しやすいと思うんだけどなぁ。
まぁ、中途半端に終わるから続きが気になる、と言う見方もできるけど、気にならない程度ならそれまでの話だし。

で、本書の場合ですが、正直続きが気になります(笑)
私にしてはかなーり珍しく、オチなしでも許容できるくらい、読める作品でした。

ストーリーは、力士シールの謎から始まりますが、おちこぼれだった高校時代のエピソードや、ふとしたことで知った輸入業者の犯罪を見抜く事件、ハイパーインフレに陥った未来などが、細かい章立てで描かれています。
時系列が前後したりと、読みにくい箇所はあるものの、ストーリーの流れが破綻するほどではないので許容範囲内。
瀬戸内が莉子に知識を得るための方法を教授する場面や科学的な説明など、説明的な文章がうざったいこともありますが、まぁ、これは仕方がない面でもあるでしょう。ミステリですし、莉子が万能鑑定士を名乗るきっかけにもなるエピソードだったりするのですから、大目に見ましょう。

文章も過不足なく書かれていて読みやすいほうでしょう。
キャラが薄い印象がありますが、各キャラの個性や行動原理と言ったものはしっかりしているので、大きなマイナスにはなっていません。
他にも出版社の内実を描写した場面など、リアリティがありますし、解説によると莉子が万能鑑定士を名乗れるほどになった原因も論拠のあることのようですから、よく調べ練られたものであることが窺えます。

……と、いいところも気になるところもありますが、やっぱり「続きを読みたい気にさせた」という点で、シリーズ1作目としては成功していると言っていいでしょう。
これまた解説によると、莉子の指南役としてしか描かれていない瀬戸内も2冊にかかるエピソードに絡んでくるようですし、力士シールの謎やハイパーインフレに陥った近未来などを2巻でどのように解決させてくれるのか、興味は尽きません。

と言うわけで、気になるところはあるものの、それは些細なこと。
総評としては良品と言っていい作品だと思います。
もちろん、オチが気になるので2巻も読みます。――もっとも、図書館頼みで予約が数件入っていたので、2巻が読めるのはいつになるかはわかりませんが(笑)


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