つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

空中分解

2006-06-14 23:20:35 | 小説全般
さて、やはりこの方とは相性悪いかも知れない第561回は、

タイトル:からくりからくさ
著者:梨木香歩
出版社:新潮文庫

であります。

最初に警告。
ここ最近毒吐きまくりの私ですが、この作品も例外ではありません。
よって、この作品が大好き! という方はLINNのレビューを読むことをオススメします。(この記事の最下段にリンクあり)

祖母が亡くなって五十日、蓉子は主人を失った旧家を訪れた。
窓という窓を開け、家の掃除を行い、〈りかさん〉を起こしに行く。
桐の箱を開け、彼女に呼びかける……だが、返事はなかった。

覚醒しない〈りかさん〉を連れて帰ると、父母から一つの提案が出た。
祖母の住んでいた日本家屋を下宿として貸し出ししたい、と言うのだ。
蓉子は一つの条件を付けた――私もその下宿人の一人にしてくれるなら。

友人のマーガレット、女子学生の紀久に与希子、と下宿人はすぐに決まった。
四人の最初の顔合わせの日、蓉子は勇気を持って話し出す。
これから生活を共にする人形〈りかさん〉に心があることを――。

この時点で、
「ごめんなさい、私、これ以上ついていけない」
と言いたくなるんですが、そこは我慢。

染織工房の外弟子である蓉子が糸を染め、紀久と与希子が機を織り、マーガレットが帰ってきた所で、刈った草を調理して食事にする――そんな四人の女性の共同生活を、ゆったりと描いた作品です。
四人の中心には常に物言わぬ〈りかさん〉がおり、彼女を心から愛する蓉子のみならず、他の三人も少なからず影響を受けている、というのが基本設定。

特徴は、旧家に漂う〈空気〉にかなりの描写を裂いており、全体的に優しいカラーが感じられるところ。
この雰囲気が好きになれるか、なれないかで作品の評価はガラリと変わるのではないかと思います……残念ながら私は後者。
汚い物を切り捨て、綺麗な物だけ箱庭の中に閉じこめたような閉塞感があり、どうにも居心地が悪かった。(これは『西の魔女』にも言える)

序盤は、四人+1の紹介ということもあってかなり楽しめました。
蓉子が〈りかさん〉に対する想いを伝え、他の三人が戸惑いながらもめいめいの解釈でそれを理解しようとする所は、個人のキャラもちゃんと立ってたし。
特に、マーガレットが本質的には〈りかさん〉を受け入れることができないと判明するシーンは秀逸でした。

ただ……四人とも居心地のいい箱庭に溶け込んでしまい、ひたすら日常を描いているだけのパートになると退屈。
キャラクターは自分の好きなジャンルの話をしているからノリノリなんだろうが、読んでいるこっちはテンションが下がるばかり。
ま、これは染物や植物に興味のない私の問題もあるんだろうけど。

その後、りかさんを作ったと言われる人形師の話、その彼に関係のあるお蔦騒動の話、与希子と紀久の祖先の話など、ラストの複線となるパーツがいくつも出てくるが、どれも個々のエピソードとしての魅力に乏しく、書き方も冗長極まりない。
唯一、神崎という男性が引き金となって、紀久とマーガレットがすれ違うことになるエピソードはキャラクターが前面に出てきて面白かったけど、結局これも消化不良で終わっています。

ただしこの作品、オチがとにかくいい。
三人で合作すると決めた箇所には馴れ合いに近いものを感じたが(紀久のキャラも死んでしまっている)、最後の土壇場に物凄い隠し球を出し、四人のキャラクターにきっちりとケリを付けているのは見事。
美しいとしか言いようがないラストであり、正直、これだけは絶賛するほかありません。

この方、最初と最後はいいんだけど、途中がどうにも合わない……。
単に私が冷めてるとか?(爆)


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら


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