パロディ『石泥集』(短歌・エッセイ・対談集)

百人一首や近現代の名歌を本歌どりしながら、パロディ短歌を披露するのが本来のブログ。最近はエッセイと対談が主になっている。

2018事件簿1 トランプ政権1周年

2018-01-23 10:11:59 | パロディ短歌(2018事件簿)
(画像はトランプがあやかりたいレーガン大統領)

      トランプはパックス・アメリカーナを目指す
 トランプ大統領が就任してから1周年…とあって、いろんな分析が盛んである。
 概してトランプには否定的な評価が多いが、彼が約束した公約から、この1年に実行したものを取り上げると、着実に成果を上げていることが分かる。詳しくは後で述べよう。

 彼の評価を分けているのは、グローバリズムへの態度である。グローバリズムが如何にして生まれたか、人々は記憶しているだろうか?
 第二次世界大戦後、世界は長い間、アメリカを盟主とする自由主義陣営とソビエト連邦・中華人民共和国を頭とする共産主義・社会主義陣営に分かれて「冷たい戦争」を戦ってきた。1991年にソ連が崩壊し、CHINAが変質して(似て非なる)資本主義に転ずると、世界は一つ…という理想の意味を込めて、グローバリズムが叫ばれるようになった。そこには、

① 従来の共産主義では面倒を見切れなかった東ヨーロッパやアジアに、新しい労働者があふれ出て、安い賃金で雇用することが可能になった労働市場の側面
② この労働市場を利用したグローバル企業と新興国の発展という経済的側面
③ 欧米の価値観で世界を統一するという文明の側面

があった。一口で言えば、グローバリズムとは資本と労働の自由な移動だったのである。加えて、資本主義に加われば、あの野蛮なロシアやCHINAが、自由と人権を認める欧米型の国家になってくれるのではないかとする期待もあって、グローバリズムは一世を風靡した…というのが私の解釈である。中東からの難民を受け入れたのも、人道上の観点という修飾語がついていたが、労働市場に空きがあるからこそ、そうした美辞麗句が通用したまでであって、市場が狭くなれば軋轢が生じるのは避けられない。他の経済体制より優れているとはいえ、資本主義は万能ではないのである。

 トランプは言論人を「口説の徒」として深く軽蔑しているはずである。経団連などに属する日本の経営者も同様であろう。経済は生き物であって、現実そのものである。現実で戦っている者から見れば、マスメディアほどお気楽に見える職業はないであろう。トランプがフェイクニュースのランキングを発表したのをみて、言論人への軽蔑の度合いが尋常ではないことに気づいた。

 「トランプは気まぐれで予想不可能」というのが大方の評である。彼のツイッターなどを指して言っているのだろうが、ツイッターなんぞ、はなから無視すればいいだけのことである。トランプだってストレスが溜まるだろう。そのはけ口として利用しているのだから、その言葉に一喜一憂する必要なんか全くない。

 政治家の実績を見るには、その言動でなく、実行した政策を検証すべきである。前任のオバマが非核宣言をしてノーベル平和賞を受けたが、これは彼の政治家としての実績であろうか? むしろ政治家としての無能の証なのではないか?

 その点、トランプには100点満点とはいえないまでも、さまざまな実績がある。思いつくままに記すと、
経済の復興(大幅な法人税減税の実施が大きい) 
② 難民のうち、犯罪者などの強制送還・災害難民の一時滞在停止(今まで野放しであった犯罪者の追放は正当、ただし、災害難民については両論あり)
イスラム国の壊滅(マスメディアはイスラム国がなくなってもテロを全世界にばら撒くだけ…という間違った予測で、いかにもイスラム国壊滅が無意味かのように宣伝した。オバマは米軍撤退が第一の方針だったから、お義理の攻撃でお茶を濁していた。トランプが本気で号令をかけた結果が、イスラム国壊滅である。イスラム国の非道ぶりが明らかになって、偽りの原理主義には中東全体が深く幻滅したのである。テロの脅威は明らかに減った)
④ TPPやパリ協定からの離脱(この功罪については、二国間交渉の結果を見ないと分からない)
⑤ エルサレムをイスラエルの首都に(アメリカファーストの結果、アメリカは自由な政策をとれるようになった。一部の識者は「対立と戦争を招く」と非難するが、トランプは「中東を中東に」解放した、と見ることも可能である)

 トランプをあくまで支持する…という岩盤支持層はより保守的に傾き、トランプは不倶戴天の敵…とするリベラル層は、より過激にトランプ排斥を訴え、両者の差は広がるばかりという報告もある。アメリカ人のトランプ嫌いの一側面が、日本にいては分からない。アメリカ大統領は大統領という職務を持ちながらも、一方では国家元首なのである。元首としてトランプは品がない…多くのアメリカ国民がそう感じている。この失望が如何に大きいかは、エリザベス女王があのようなツウィッターを流した場合を想像すればよく分かる。元首は何時いかなる場合でも、品位を失ってはいけないのだ。

 トランプの存在はアメリカの泣き所なのである。アメリカには名誉と品位を何よりも重んじた中世の歴史がないのである。そう思ってアメリカを見ると、なるほどと納得してしまう。かすかな違和感である。戦争の敗者に対するいたわりのなさ。南北戦争という内戦においても、勝った北部が負けた南部に課した制裁は、同胞へとは思えないほど厳しいものだった。南部が合衆国に復帰してからは、奴隷制廃止への態度が曖昧になって、KKK(クークックスクラン)など白人至上主義者の台頭を許すのもアメリカ。ただし、メキシコからテキサスを奪った際やフィリピンの独立運動を弾圧した際には、住民の虐殺に全く躊躇がない。アメリカの戦争や裁判には、宗教戦争・宗教裁判の色合いがついて回る…と、故渡部昇一氏も指摘されている。要するに、騎士道や武士の情けがないのである。

 禁酒法に象徴されるように、アメリカ社会は極端に傾きやすい。黒白の二元的思考はキリスト教の神と悪魔の二元論をなぞった印象である。トランプの二極評価は、共和党と民主党の溝がますます広がっていることを示しているのだろう。アメリカナイズされた日本も、二極分化の危険にさらされている。憲法改正がいい例だ。アメリカに生まれた溝について、心配する声も上がっているが、これはアメリカ国内の問題である。われわれ日本人が働きかけてどうなるものでもない。ただし、理念で見ると黒白でも、実際の姿はほとんどがグレーだ…という「事実」をアメリカ人には教える必要はある。

 トランプはアメリカファーストと言いながら、実は一昔前のパックス・アメリカーナ(アメリカによる世界平和)を狙っている…というのが私の見立てである。歴史を昔に戻す…という意味で彼の政権は「反動」だと言われるのであろう。ただし、多くの人々が懸念するような、第二次大戦勃発の直接的な原因となった「ブロック経済」に進む可能性はゼロであろう。いくら政治家が馬鹿だといっても、歴史上の間違いをそのままなぞることはできないからである。

 パックス・アメリカーナの基盤は、シェールオイルガスにある。アメリカはこの開発で、産油国の生殺与奪の権利を確保した。原油価格が1バレルあたり50ドルに張り付いたら、中東もロシアも青息吐息になってしまった。アメリカ政府は実験をしてみたのではないかと勘ぐりたくなるほどの成果である。金のない中東にはもうテロを起こす資金もない。イスラム国の腐敗が知れた今はなおさらである。中東難民の生活水準を上げなければテロは防げない…としたグローバリストの意見は間違いだったことになる。逆に経済面から締め上げたのが正解だった。世の中では、常識と非常識が入れ替わっていることもある。

 アメリカ国防総省は2018年の国防方針から、テロの危険を最下位に落とした。代わって脅威の筆頭に上げられたのがCHINAで、第2位はロシアである。アメリカが「自由と民主主義」の伝道師として、再び君臨したいという野望が透けて見える。アメリカは往々にして無礼だが、とりあえずパックス・アメリカーナに私は賛成である。自由も民主主義もないCHINAやロシアが覇権を握るなんて、想像しただけで反吐が出そうだ。

教養のあるアメリカ人の反応は
● 知もあさく品(ひん)もうすらにツイッターの流れてありぬ憂しやトランプは
(本歌 瀬もあさく藍もうすらに多摩川の流れてありぬ憂しや二月は  若山牧水)
(蛇足)われわれはトランプが国家元首だということを忘れがちになる。なるほど、国家元首としては、恥ずかしいわけだ。

イスラム国を壊滅してオバマを笑う(トランプ)
● 戦闘のあつき血汐にふれも見で さびしからずや核を説く君
(本歌 やは肌のあつき血汐にふれも見で さびしからずや道を説く君  与謝野晶子)
(蛇足)オバマの第一選択肢は戦場からの撤退だった。トランプは通常通りの戦闘を命令した。ロシアの野望もかみあい、イランの思惑も手伝って、イスラム国は壊滅に追い込まれたのである。「核を説く君」とは「核廃絶を呼びかけただけでノーベル賞を得た口説の徒=オバマ」を指している。

レーガン以来の法人税減税に
● 久方の光のどけき減税にしづこころなく株は上がれり(本歌 久方の光のどけき春の日にしづこころなく花の散るらむ  紀友則)
(蛇足)トランプはレーガンをだいぶ意識しているようだ。今度の減税も「レーガン以来」という触れ込みだし、政権発足当時「ハリウッドの二流俳優に何ができる?」とボロクソに言われていたことも共通する。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿