パロディ『石泥集』(短歌・エッセイ・対談集)

百人一首や近現代の名歌を本歌どりしながら、パロディ短歌を披露するのが本来のブログ。最近はエッセイと対談が主になっている。

パロディ短歌(2014年事件簿4・スタップ細胞の巻)

2014-05-04 11:01:59 | パロディ短歌(2014年事件簿)

             スタップ細胞は迷宮入り?

 2014年早々、イギリスの権威あるNATURE誌に載った一つの論文が世界中をかけめぐった。スタップ細胞の生成と発見の大ニュースである。スタップ細胞とはいろんな細胞に分化できる根幹の細胞で、ノーベル賞を受けた山中伸弥教授のiPS細胞も同じであるが、スタップ細胞は「弱酸性の液体に25分間つける」だけ、という阿呆みたいに簡単な方法でつくった、という。生物学の常識を根底からひっくり返す大発見だという訳で、この研究のチームリーダー・小保方晴子氏は一躍「時の人」になった。30歳の若き才媛である。
 しかし、1か月が経過すると、この論文には様々な疑問が指摘されるようになった。いわく、スタップ細胞の作り方の説明は海外の別の論文をコピーし、ペーストしたものではないのか(これはコピペと略称され、彼女の博士論文にも頻繁に出てくるらしい)、いわく、万能細胞が生成された証拠の写真が別の論文の使い回しではないか、などというものである。論文発表後、いろんな研究者が同じ方法で、スタップ細胞を作ろうと試みたが、誰一人成功しないのも変だといわれた。
 そして4月1日、小保方さんの所属する理化学研究所の調査チームが「小保方氏の論文には捏造と改ざんがあった」と、衝撃的な発表をする。論文は撤回すべきである、とも言及した。大発見は一転して大スキャンダルに発展した。
 皆の関心は、小保方さんの会見に集中。4月10日、彼女は自分の「未熟さ」を詫びながらも「スタップ細胞は存在する」と言い切り、「200回以上、生成に成功している」とも断言した。しかし、専門家の反応は冷たかった。主張を裏付けるデータを、彼女は何一つ示さなかったからだ。
 筆者が見ても、主張は顧問弁護士の筋書きに沿ったもので、彼女の言いたかったことは、調査委員会が結論を出した写真の「捏造」が単なる「ミス」であって「故意ではない」ということに尽きる。科学論争というよりは、要するに研究者としての生活を絶たれまいとする法廷闘争の色に染まっているのである。
 4月16日には、彼女の上司に当たる笹井芳樹・副センター長の記者会見が行われた。スタップ細胞は仮説の段階である―つまり、可能性はあるが、まだ実証されていない、と彼は言った。結論が出るには1年かかるという。
 不思議なのは、小保方が再提出したという万能細胞の証拠写真が公開されていないこと。写真そのものは提出されているのであるが、それが実験の結果生じた万能細胞である、という元のデータがはっきしないというのだ。実験ノートの不備らしい。
 しかし、この間に事態をさらに紛糾させる出来事が発覚した。スタップ論文の一部を「捏造」と決めつけた調査委員会の石井井俊輔委員長に、論文の画像加工の事実が出てきたのだ。「これは改ざんには当たらない」といいつつ、彼は調査委員長の座を降りた。科学的な真実からは遠く離れ、話は混迷の度合いを深めてきたのである。
 関係者の間では、問題はすでに決着しているのではないだろうか。わかる人にはわかるはずである。小保方氏はかなり特異な性格に見える。例の記者会見のとき、私が真っ先に連想したのは、なんと松田聖子だった。ヒタと見つめるような目の表情が同じである。しかも、その目がカメラを見据えているのではなく、どこか宙を見据えているのも同じである。彼女には「オボちゃん」の愛称で、ファンクラブができているとの噂もあるが、さもありなん。慌て者の男は、あの眼は誠実の証とみるであろうが、私は違う。彼女は支援を必要とする(特に人間関係で)人なのではないか。頭がいいのに、あの世間知らずとの落差は尋常ではない。そこへ理研の不手際が重なって、事態をややこしくしているだけ、というのが私の解釈である。スタップ細胞が幻である可能性はかぎりなく大きい、と断言しておこう。彼女が深刻な精神状態に置かれているのは事実であろう。騒動は早く切り上げるに越したことはない。しかし、この騒ぎをのりこえたら、2,3年後に彼女が(たとえば)アメリカの大富豪夫人として再登場しても、私は驚かない。

表面にあらわれた関係者の証言を総合すれば…
これやこの行くも帰るもわかれては知るも知らぬもスタップ細胞
(本歌 これやこの行くも帰るもわかれては知るも知らぬも逢坂の関  蝉丸)
(蛇足)共著者の中でも、対応は分かれているが、大発見がすごく怪しいことになってきたのは事実。

万能細胞の写真は、大学の博士論文のものだという
忍ぶれど色に出でにけりわが写真 捏造でないかと人の問ふまで
(本歌 忍ぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで  平兼盛)
(蛇足)いくらなんでも、大学の博士論文の写真と間違えるなんて、あり得ないでしょ。というのが、調査委員会の言い分。ただ、「捏造」と決めつける前提―すなわち「故意」を証明する材料に欠けているのも、その通りである。急ぎすぎ。

従って、小保方さんに言わせるとこうなる
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき報告書かな
(本歌 明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな  藤原道信朝臣)
(蛇足)「捏造」と断定されたら、科学者の世界では犯罪者と指名されたに等しい。必死の抵抗もむべなるかな。

謝罪の一方で、スタップ細胞については譲らない
「スタップがあるよ」と君が言ったから四月十日はスタップ記念日
(本歌 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日  俵万智)
(蛇足)本当に記念日ができたら、「世紀の大発見」プラス「世紀のぬれぎぬ」ということになるが…。

実際は迷宮入りでウヤムヤ、という線が濃いのではないか
めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにしスタップ細胞
(本歌 めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月影  紫式部)
(蛇足)理研では、小保方氏の再実験を認めていない。自分だけにしか分からない、判じ物のような実験ノートの記述などに、根本的な不信を抱いているから。一方でハーバード大学のバカンティ教授は、全面的に小保方氏を支持し「ハーバードに戻っておいで」と優しい言葉をかけている。まるで芥川龍之介の小説『藪の中』の世界だ(知っている人は知っているだろうが、この小説を下敷きにして、黒澤明のつくったのが映画『羅生門』)
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