パロディ『石泥集』(短歌・エッセイ・対談集)

百人一首や近現代の名歌を本歌どりしながら、パロディ短歌を披露するのが本来のブログ。最近はエッセイと対談が主になっている。

パロディ短歌(2007年事件簿6・万能細胞の巻)

2013-06-13 14:13:51 | パロディ短歌(2007年事件簿)
            パロディ短歌(2007年事件簿5・天晴れ万能細胞の巻)

 様々な細胞に成長できる可能性を持った「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を、人の皮膚からつくるという快挙を、京都大学の山中伸弥教授が世界に先駆けてなしとげた。これまでは生殖細胞を使っていたのを、普通の細胞を使うことで、全く違う次元の話になったわけである。「臨床をやっていたので、一日も早い実用化をめざしたい」と話す山中教授のお人柄にも、拍手喝采。

人の皮膚から万能細胞生成に世界初の成功(京大・山中教授)
幹としてすべての細胞は見上げ居り ねがわくは移植の細胞となれよ
父としてすべての患者は見上げ居り ねがわくは移植の細胞となれよ
(本歌 父として幼き者は見上げ居りねがわくは金色の獅子とうつれよ     佐々木幸綱)
(蛇足)快挙である。インタビューでの謙虚なお人柄にもうれしくなってしまう。医療に限らず、最前線を垣間見る機会があるのは頼もしく、また楽しいものである。

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パロディ短歌(2007年事件簿5・大連立の巻)

2013-06-13 14:11:03 | パロディ短歌(2007年事件簿)
                パロディ短歌(2007年事件簿5・大連立の巻)

 2007年9月26日、福田康夫内閣が発足した。およそ一ヵ月後の10月30日、福田首相と小沢一郎・民主党代表が国会内で密かに会談をした。大連立騒動の幕開けである。黒幕はご存知、ナベツネこと渡辺恒雄・読売新聞会長。11月2日には第二回目の会談があって、どうやら福田・小沢の間では密約ができたらしい。
 しかし、小沢代表が民主党本部にもちかえったところ、反対論が続出。まさかの事態にへそを曲げた小沢は、11月4日には代表辞任を表明。しかし、民主党幹部の慰留を受けて、6日には代表続投が決った。新しい代表選挙で亀裂を生みたくないのと、直近の参議院選挙で示された小沢の選挙上手を見込んでの決着だが、高校の生徒会の方が、もう少しマシな劇を見せてくれたのではなかろうか。

政局の大転換に血がたげり(ナベツネ)
衆を見よ衆に自民照る 参を見よ参に民主照る いざ連立を君
(本歌 山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇(くち)を君    若山牧水)
(蛇足)自民・民主両党の大連立を斡旋したのは、ご存知ナベツネ氏であった。確かに、ねじれ国会は頭が痛かろう。しかし、小泉劇場で自民党に大信任を与えながら、それを引き継いだ安倍内閣に致命傷を与える、国民の揺れ方は一体なんでしょう? 

党の路線を自分の一存で決めようとして(小沢代表)
このたびは党もとりあへず大連立 民主の諾否(だくひ)俺のまにまに
(本歌 このたびは幣もとりあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに     菅家)
(蛇足)小沢氏の考え方を推測すると、まずは政権の中に入って政治の現実を民主党員に学ばせる。時期を見て教条的な左派を切る、というスケジュールだったのではないだろうか。過去の言動からすると、この行き方が最も小沢氏らしい。ところが…

内閣名簿まで詰めながら不本意に終わり(小沢代表)
大臣の名を十あまり紙に書き 連立をやめて帰り来れり
(本歌 大といふ字を百あまり砂に書き死ぬことをやめて帰り来れり    石川啄木)
(蛇足)内閣名簿を作ったという話は、自民党、民主党双方が否定しているが、火のない所に煙は立たない。党の説得に自信満々の小沢氏なら、そうとう突っ込んでいくはず。何故、自信満々なのかといえば、小沢さんというのはそういう人なのだよ。自信がありすぎて、周りが見えなくなるといえば、分かる人も多いのではないか。それが…

民主党全体の反対にあひ(小沢代表)
叱らるる身をば思はず誓ひてし 連立のいのちの惜しくもあるかな
(本歌 わすらるる身をば思はず誓ひてし人のいのちの惜しくもあるかな    右近)
(蛇足)小沢党首は民主党幹部を説得できると踏んでいた。ところが、予想に反して総すかんをくってしまった。彼の怒りと無念は燃え上がる。

大連立不成立を嘆きながら(小沢代表)
ナベツネのしのぶ連立 たれ故に乱れそめにし我なら辞任
(本歌 みちのくのしのぶもぢずりたれ故に乱れそめにしわれならなくに   河原左大臣)
(蛇足)プッツンした小沢氏は、「やーめた」と逆噴射した。

辞任表明後ホテルにこもり(小沢代表)
思ひわびさても連立はあるものを憂きにたへぬは若造なりけり
(本歌 思ひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり    道因法師)
(蛇足)ホテルにひきこもったとき、彼が党をどう思っていたか。おそらく「小僧たちめ!」と舌打ちしていたに相違ない。鳩山幹事長は反対で、菅党首代理は積極的な意見を控えていた。

独断専行、人の意見を聞かなかった党首が役員の慰留工作に翻意し
辞任といふ字を百あまり放送し 辞めるをやめて帰り来れり
(本歌 大といふ字を百あまり砂に書き死ぬことをやめて帰り来れり    石川啄木)
(蛇足)11月4日に代表辞任を表明して二日後、小沢氏は代表続投を受け入れた。結局、大連立の話は何もなかったと同然になった。ひとまわりして元に戻ったのだ。

大連合に未練の残っていそうな(福田総理)
たち別れ民主の党の峰の小沢 まつとし聞かばいま帰り来む
(本歌 たち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かばいま帰り来む   中納言行平)
(蛇足)一方の福田総理の心中を忖度(そんたく)すると、未練が残っていそうだなあ。マスコミから「だきつき戦法」といわれた、民主党への「呼びかけ路線」の総仕上げが大連立だろう。そりゃそうだよ。対決しても立ち往生するだけ。これから後の国会党首討論で、彼はさんざん恨み節をのべることになる。

世紀の斡旋に失敗し(ナベツネ)
(小)沢をはやみ福(田)にせかるる連立の われても末にあはむとぞ思ふ
(本歌 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ    崇徳院)
(蛇足)懲りない面々、というのがあるが、この御仁も懲りないことにかけては名うての名物男だ。総選挙後にも彼は狙うだろう。
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パロディ短歌(2007年事件簿4・オソマツ大臣の巻)

2013-06-13 14:08:21 | パロディ短歌(2007年事件簿)
            パロディ短歌(2007年事件簿4・第一次安倍内閣オソマツ大臣の巻)

 2006年9月16日、小泉内閣の後を受けて、安倍内閣が発足した。52歳の若い総理である。しかし、この内閣はつぎつぎにオソマツ大臣を生み出す。どの内閣でも、大臣に登用するまでに、スキャンダルがないかどうか、銭勘定に怪しいところがないか、など身元調査をする。これを称して身体検査というらしいが、その調査が甘かったという噂はある。「おともだち内閣」という呼び方は、「検査が甘い」といっているわけだ。
 オソマツ大臣をかばっているうちに、内閣支持率はどんどん下がり、2007年7月29日の参議院選挙では大敗を喫し、参議院では野党が過半数を占める、いわゆる「ネジレ国会」になってしまった。内外の風圧が強まるなかで、9月12日に首相辞任表明。これについても、色々と批判を浴びた。

失言に批判の矢を雨あられと受け(厚生労働大臣)
「産む機械」 不信任案の立つまでに ふぶくゆふべとなりにけるかも
(本歌 最上川逆白波のたつまでに ふぶくゆふべとなりにけるかも    齋藤茂吉)
(蛇足)女性を「産む機械」とたとえたのでは、かばいようがない。そもそも、世の中を機械で説明するのは十九世紀の思想である。いかにアナクロニズムがこの国を覆っているか、寒気がするくらいである。機械論でものごとを推論するから、議論が一方通行になりやすい。それは大臣や国会議員に限ったことではない。かつてパロディ百人一首『石泥集』で批判した還元(イデオ)主義(ロギー)もそうだ。行き過ぎたジェンダー論、人権主義など機械論的な思考法で、私としてはこれを「ロボット思考」と名づけたい。

農林水産大臣で二度も蹴つまづき
松(岡)去れば赤城の坊やおとづれて安倍のまろ屋に秋風ぞ吹く
(本歌 夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く    大納言経信)
(蛇足)膨大な事務費の使途に「ナントカ還元水」をあげた松岡大臣。彼が自死した後に、絆創膏の赤城大臣とは。「まろ屋」とは粗末な仮小屋のこと。

訳の分らない行動が多うございました、この方(赤城農水大臣)
忍ぶれど顔にいでにけり絆創膏 空気読める?と人の問ふまで
(本歌 忍ぶれど色にいでにけりわが恋は ものや思ふと人の問うふまで   平兼盛)
(蛇足)マイクの前でぼーっと突っ立っていたこの御仁。何を考えているのか、本当に分らなかった。政策面では優秀だという評もあったが、その前に立ち振る舞いを知らない。不真面目でもなさそうで、要するに勉強だけしていた坊やという印象である。

仏頂面(ぶっちょうづら)で記者会見にのぞみ(農水大臣)
見せばやなガーゼの白と絆創膏 「なんでもない」と答えかはらず
(本歌 見せばやな雄島のあまの袖だにも濡れにぞ濡れし色はかはらず    殷富門院大輔)
(蛇足)絆創膏が悪いわけではない。事務所費の問題も、絆創膏も説明すりゃーいいのよ。大臣の仏頂面がテレビを通じて流れたことで、2007年7月の参院選で、自民党は少なくとも5議席減らしたという説もある。

大臣の度重なる失言に失速し(安倍総理)
ももしきや古き小泉しのぶにも なほあまりある失言なりけり
(本歌 ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり     順徳院)
(蛇足)小泉前総理時代があまりにも上手く行きすぎたので錯覚があった。失言した大臣をあくまでかばってやり過ごそうとしたのも前政権と同じ手法である。にもかかわらず、今回はそれが強権的だと見られた。社会的弱者にまで「応分の負担」を課してきた小泉改革。そのツケを払わされた、ともいえよう。

歴史的惨敗を喫し、唖然呆然(自民党)
バンザイを叫ぶ候補者 数を絶え行方も知らぬ党のみちかな
(本歌 由良の門を渡る舟人かぢを絶え行方も知らぬ恋のみちかな    曾禰好忠)
(蛇足)2007年7月29日の参院選。当選者数37は、宇野内閣の36に次ぐ負けっぷりである。民主党は60議席を獲得したため、参議院では完全に与野党逆転となる。自民党の行方だけではない、国政全体の行方も不透明になってきた。

郵政解散選挙で大活躍した当選のバラもしぼみ(自民党)
いにしへの郵政選挙の八重のバラ けふパラパラとにほひぬるかな
(本歌 いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな    伊勢大輔)
(蛇足)イケイケどんどんの選挙風は、前回、郵政改革を標榜した自民党に吹き、今回は「生活を守る」民主党に吹いた。当選を示すバラの景色は全く逆になった。

ねじれ国会に万策尽きて辞任(安倍総理)
「逢はない」と小沢党首が言ったから 九月十二日はヤーメタ記念日(本歌 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日    俵万智)
(蛇足)身体がいうことをきかなくて、もうもちません。われわれの言葉でいえばこうなる。総理ともなると、いろいろ脚色しなければならないらしい。国会の代表質問の当日で、タイミングも最悪、さらに国民への詫びの言葉がない、と批判された。

もともと丈夫でなかったといわれるが
しのぶれど腹にいでにけり負け戦 修羅場にどうかと人の問ふまで
(本歌 しのぶれど色にいでにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで    平兼盛)
(蛇足)安倍総理は政治家として三代目である。人のいい、アクのない人柄であったと聞くが、修羅場の経験はあきらかに少なさそうだ。普通のわれわれに近すぎたのか。恥知らずでしぶとい諸先輩は多いだろうに。

呆気にとられながら(国民)
国会を渡る総理かぢを絶え 行方ははっきり慶応病院
(本歌 由良の門を渡る舟人かぢを絶え 行方も知らぬ恋のみちかな     曾爾好忠)
(蛇足)突然の辞任で国会は一ヶ月近く空転した。百人一首とは様変わりして、総理の行方だけははっきりしている。そして…

次期総裁選びに、おっとり刀で馳せ参じ(派閥親分)
さびしさに党の本部をながむれば いづくも同じ派閥の領袖
(本歌 さびしさに宿を立ち出でてながむればいづくも同じ秋の夕暮    良暹法師)
(蛇足)福田総理が誕生した経緯。どこかで見たなあ、と思った人も多かったに違いない。森内閣のデジャヴだね。2007年9月26日、福田内閣が発足。
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パロディ短歌(2007年事件簿3・食品偽装の巻)

2013-06-13 14:06:05 | パロディ短歌(2007年事件簿)
             パロディ短歌(2007年事件簿3・食品偽装の巻)

 2007年には様々な食品の偽装が発覚した。シュークリーム、土産物の有名ブランド、食肉、肉まん、そして高級懐石料理にまで及んだのは、なにか食欲を失わせるような事件であった。偽装にはいろんな動機がありそうだ。一つは長引くデフレで、販売実績が上がらないことに加え、利益率が極端に減っていること。なんとか商売を軌道に乗せたいあまり、悪事に手を染めるケース。ミートホープ社がその例であろう。いいものを安くしてくれる…と信じた消費者や取引先も大歓迎するので、一度手を染めると、もう二度と元へは戻れない。
 中国での食品偽装は確信犯的である。そもそも真似が何で悪いの?ちょっと誤魔化すくらい、誰でもやっているさ、という土壌があるように見受けられる。それにしても、ダンボール肉まんの報道には驚いた。やらせである、という説もあるようだが、中国ではどんなことでも起こり得る、と考える人も多い。
 船場吉兆のケースは、欲に駆られた事件のように見受ける。「吉兆」ののれんわけを受けた五人の娘の間には競争意識もあっただろうし、経営者として生きている世界が狭すぎたのでしょう。記者会見の席上、いい歳をした息子(社長)に、おかみはマイクの脇から返答を口移しに教えていた。その姿に不気味な妄執を感じて引いてしまった人も多かったろう。

肉の偽装にとどまらず、箱や期限の偽装にまで手を染め(ミートホープ社)
偽箱に偽肉詰めて店先にうっふんうっふん肩を並べる
(本歌 白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる    俵万智)
(蛇足)2007年7月に発覚した食肉偽装。豚肉のみならず、内臓、兎肉までミンチにして混ぜ、色をつけるため血を加えていたという悪質さ。「安い肉を求める消費者にも責任」という発言が当の社長から出る(撤回したが)のは、負のバブルここに極まれり。うっふんうっふん、ほくそ笑んでいた社長も年貢を納める羽目になった。

日本でも中国でも偽装肉まんあいつぎ
肉まんはかなしからずや 偽肉にダンボールを詰めてただよふ
(本歌 白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ    若山牧水)
(蛇足)北海道のミートホープ社の偽装にも驚いたが、中国発のダンボール肉まんにはもっと驚かされた。その後、ダンボール肉まんは北京テレビの「やらせ」であるというニュースが流れたが、真偽はにわかに決しがたい。ここではとりあえず、噂として扱っておく。

北京ではこんな光景が生まれたでしょう
夕焼けてゆく速度にてダンボールが肉屋の奥で揚がり始める
(本歌 夕焼けてゆく速度にてコロッケが肉屋の奥で揚がり始める    俵万智)
(蛇足)北京当局はテレビの報道番組に捏造があったとして、番組制作に携わったアルバイトスタッフを拘束した。世界の反響に驚いた当局が、隠蔽にのりだしたという見方もあって、真相はまだ藪の中である。過去の所業からして、当局の措置がそのまま信用されないのは、平気で政治的な隠蔽や偽装を繰り返してきた中国共産党の自業自得であろう。

肉まんを食する前には、まず中身を確かめましょう
牛肉のつれなく見えし偽装より 肉まんばかり憂きものはなし
(本歌 有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし   壬生忠岑)
(蛇足)そういえば、なにか硬い筋が入っていたことがあったっけなあ。すじ肉ならいいが、作業合羽の紐でも入っていたらどうしよう。

毒入り食品や菌入り食品をせっせと製造し(悪徳商人)
名を騙(かた)り毒をいとはぬ偽物の ばれても末に儲かるとぞ思ふ
(本歌 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ   崇徳院)
(蛇足)2007年5月以降、中国産の食品や玩具などに、毒や菌の入ったものがあるとして、米国や日本で摘発が続いた。新聞報道によると、うなぎ・なまず・えびに禁止されたマカライトグリーン、スナック菓子原料にサルモネラ菌、おもちゃに鉛。このほか咳止め薬、練り歯磨き、ペットフード原料、スイッチコード、DVDプレーヤーとオールスターキャストの賑わいである。また、あんこうと称した魚から、ふぐ毒が検出されたという。

相変わらず偽ブランドの多い中国、罪の意識が全くありません
黄金(こがね)さす世界のブランド尊くて偽ブランドは生(あ)れやまずけり
(本歌 あかねさす昼の光の尊くておたまじゃくしは生(あ)れやまずけり    齋藤茂吉)
(蛇足)日本では、一攫千金を狙う商人は「山師」とよばれて尊敬されない。しかし、世界の常識は一攫千金を狙って当り前である。ただ、そのために偽物も許されるという感覚は、中国特有のものだろう。真似して何が悪いの?という感覚である。したたかな、あのロシア人に、石入り、葉っぱ入りの布団を平気で売りつけたという話にはびっくりさせられる。(福田和也『おばはんでもわかる世界情勢』新潮文庫)

集音マイクの優秀さに気づかず(船場吉兆の母)
忍ぶれど声はいでにけりわがマイク 「頭が真っ白に」と人の聞くまで
(本歌 しのぶれど色にいでにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで   平兼盛)
(蛇足)母から口うつしの一部始終がマイクに入り、その通り繰り返す息子の代表取締役。喜劇の一場面でも、ここまで見事に演じられるかしらん。

偽装に加えて幼稚を世間に公表してしまった(船場吉兆)
声も低く内容もうすらに口うつしの聞こえてありぬ憂しや吉兆は(本歌 瀬もあさく藍もうすらに多摩川のながれてありぬ憂しや二月は    若山牧水)
(蛇足)この場面が印象に残りすぎて、船場吉兆に何があったか覚えていますか? えーと、たしか刺身の使い回しがあったね、それを料理長の責任にしたのだっけ。それから、九州の肉を但馬牛と偽ったね。結局は店をたたみました。
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パロディ短歌(2007年事件簿1・社保庁の巻)

2013-06-13 14:01:19 | パロディ短歌(2007年事件簿)
          パロディ短歌(2007年1・無責任社会保険庁の巻)

 2007年5月、納めたはずの国民年金保険料の納付記録が、社会保険庁のデータ(年金記録)にないという「消えた年金」問題が発覚。厚生年金でも、給料から天引きされた年金が記録になかったり、減額されていたりするケースが多数出てきた。
 調べてみると、でるわでるわ、ずさんな記録の取り扱い、いい加減な漢字カナ変換システムによる名前の消失など、なげやりな仕事ぶりが次から次へと報じられて、国民の怒りは頂点に達した。名前が消えるとはこういうことだ。「裕子」という名は女性の中でも多い方だと思うが、読み方としては「ゆうこ」があり「ひろこ」がある。ところが、漢字カナ変換システムでは、自動的に「ゆうこ」となる。なる、というより、それ以外は認めないわけ。そんな阿呆な変換をすると、「ひろこ」さんも「ゆうこ」になってしまう。そこで何がおきるかというと、もともと「○○ひろこ」の名で年金を納めていた人は、別人の「○○ゆうこ」になって、二人と認識される。もちろん、年金は「○○ひろこ」の分しか支払われない。
 こんな問題がおきることは、小学生でもわかるはず。それを指摘した役人が一人もいなかったというのは信じられない。想像するに、気のついた人はいるはず。しかし、その声が組織に反映されない。あるいは気の付いた人も投げやりで、口を開かないという怖さ。組織がすでに死んでいるわけで、敗戦間近の大日本帝国と変わりがないんじゃないか。
 いまも組織が変っていない証拠を一つ。消えていた年金記録がみつかった。やれやれ、めでたい。本当は元に戻っただけなので、めでたいわけではないのだが、愚かな政府に率いられた国民もおめでたくなってしまうのだ。年金記録が見つかれば、即座に支払われると思うでしょ? そうはいかないのさ。まず、計算に手間どるらしい。以下は実際の問答。
―そんなもの表計算ソフトを使えば、誰でもできるでしょ? 
―確かに計算はできます。しかし、東京の本部のオンラインにデータをのせなければ、支払いには至りません。
―それに、どれだけ(時間が)かかるの?
―以前は6、7ヶ月お待ちいただいたのですが、いま、データが地方からぞくぞく送られてきていて、10ヶ月くらい待っていただくことになります。
―それは本部でしかできないことになっているのかね?
―その通りで。
―そんな馬鹿なシステムは今どき、どこも使ってないぜ。新幹線の切符はどこからでも買えるでしょ? 日本全国どこからでも入力できるのが当り前では?
―まことに申し訳ありません。
―(はよ、死ねや)とこれは心の声でした。

歴代の社会保険庁長官に(国民)
名前を見よ名前に洩れある掛金を見よ掛金に洩れある いざクビを君
(本歌 山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇(くち)を君    若山牧水)
(蛇足)官公庁および外郭団体の不祥事を見るたびに思うことは、絶対に責任を問われない官僚システムの理不尽さである。社会保険庁の場合は、厚生労働省から出向してくるキャリア組、社会保険庁で採用するノンキャリア組、地方の事務所で採用される一般職員の三層にわかれ、交流が全くなかったという。無責任体制の見本みたいな組織なのだ。

多分のんびりした庁内だったでしょうね
社保庁の光のどけき春の日に しづこころなく年金(かね)の散るらむ
(本歌 久方の光のどけき春の日に しづこころなく花の散るらむ   紀 友則)
(蛇足)「消えた年金」は六千万件にのぼる。自民党政府も民主党政府も、解決に尽力するといっているが、実際には手のつけようがなくて、いつギブアップ宣言をするかが焦点になっている。

年金保険の未記入、未照合が六千万件以上にのぼり
ももしきや古き台帳しのぶにも なほあまりある未記入なりけり
(本歌 ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり     順徳院)
(蛇足)社会保険庁の労働組合は、もともとオンライン化に反対だった。オンライン化で合理化が進めば、雇用が失われるという理由からである。コンピューターが導入された後も、四十五分の端末操作で十五分の休憩、キータッチは一日五千回以内、などという覚書がかわされ、問題発覚まで踏襲されてきた。オンライン化への非協力的な態度は怠慢に変わり、氏名のカタカナ管理を導入した際に、漢字を勝手な読み仮名で変換して平気だった。「裕子」さん以外にも例はある。「シュンイチ」とも「トシカズ」とも読める「俊一」さんは、みな「トシカズ」さんにされちゃった。よくも平気でいられたものだ。

社会保険庁のずさんな年金処理に泣きて
年寄りはかなしからずや 古への記録も領収も見えずただよふ
(本歌 白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ    若山牧水)
(蛇足)発覚した後の対応も悪かった。皆忘れないでおきましょう。未記録、未照合など、自分たちのいい加減な仕事ぶりを棚に上げて、「領収書を持ってこい」だの、「当時の記録を証明しろ」だの、役人根性丸出しだった。ふざけるんじゃない!
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