かばん持ちのO君(短編)
とある小学校。
6年J組。
クラスには、47人の子どもたちがいる。
ボスは、T君。そして、その子分に、C君とK君とS君がいる。このボスグループに逆らう子はいない。
唯一、OSちゃんだけがT君に逆らおうとしている。
で、一番小柄で、のんびりしていて、少し顔立ちのはっきりとしたO君は、このクラスの中で一番弱い存在である。
ボスのT君のお父さんは、この町の市長さんで、なかなか誰も逆らえない。頭もよく、またお金もいっぱいもっている。
しかも、T君は、担任の「霞が関先生」にも慕われていて、信頼も絶大である。
O君は、いつもこのボスグループの「かばん持ち」をさせられている。
「おい! O! お前は、俺たちに守ってもらっているんだからな。かばんくらい持てよ! お前は、俺たちが守らないと、他のクラスの奴等にいじめられるんだからな。だから、俺たちの言うことを聞けよ!」
「…分かったよ、、、」
O君とT君グループの関係は、ずっとこんな感じだった。
***
だが、、、
この6年で一番恐れられているのは、A組の連中である。
A組の連中は、金持ちが集まっており、日々トレーニングもしており、とにかく強い。
学校全体で恐れられているクラスである。
A組の連中に逆らう者は、みなボコボコにされる。
しかも、このクラスの親たちは、T君のお父さんでも逆らえない国家官僚たちの子どもたちだ。
T君も、クラスの中ではいばっているけど、A組の子たちには、絶対に逆らえない。
根本的に勝てる相手ではないのだ。
***
ところが、、、
最近になって、C組の子どもたちが強くなってきた。
A組の面々は、C組を警戒するようになってきた。
「C組の奴等を、これ以上、いい気にさせてはいけない」
そう、J組の子どもたちにも言うようになってきた。
C組とJ組は、もともとはとても仲の良い関係だった。
幼稚園の頃は、みんなで遊んでいた仲間だった。
しかし、小学生になり、色んな地域から子どもが集まってきて、A組の子どもたちが入り込むことで、子どもたちのパワーバランスも変更を余儀なくされることになったのである。
C組の子どもたちは、A組の言うことばかりを聴くJ組の子どもたちに不信を感じている。
J組の子どもたちも、自分の立場、ポジションを守るために、必死にA組といい関係を築こうとしている。
そのA組に、媚を売るJ組の姿が、C組の子どもたちには許せない。
J組は、新たに台頭してきたC組が嫌いで嫌いでしょうがない。
「C組のくせに、偉そうな顔をするな」、と。
***
O君は、今日もT君たちの「かばん持ち」をさせられている。
T君たちは、「俺たちがお前を守っているんだからな。ちゃんとかばんを持てよ」、と。
霞が関先生は、それを知りながらも、黙視している。
「今の状態が、一番クラス運営においてベストだから。O君には我慢してもらって、なんとか頑張ってもらおう」
O君は、思う。
「いつまで、こんなかばん持ちをしなきゃいけないんだろう。クラスの他のみんなも、見て見ぬふりばっか。TやCやKやSも酷いけど、みんな、酷いよ。OSちゃんだって、僕のことには全然無関心。いいことはいうけど、全然助けてくれない。いつまで、かばん持ちを続ければいいのかな」
***
J組でいいように使われているO君。
そこに目をつけたのが、C組の子どもたちである。
「おい、僕らの組の仲間になれよ。きっと、みんな、仲良くしてくれるよ!」
だけど、O君は、C組に行きたいわけではない。
J組の中で、他の子どもたちと同じように、普通に学校生活を送りたいだけなのだ。
でも、46人のクラスメートは誰も、そのことを分かってくれない。
「僕は、J組の中で、かばん持ちなんかしないで、みんなと普通に勉強がしたいんだ」。
「みんな、自分のかばんくらい、自分でもってよ。僕のかばんは僕がもつからさ」
でも、誰も、その小さなO君の声に耳を傾けようとしない。
おしまい。