「緊急下の女性(Frauen in Not)」とは、いったいどんな女性たちなのだろうか。
まず、確認しておきたいことは、「学歴」である。
児童相談所に保護された子どもの親のほとんどが中卒か高卒だ、という事実である。学歴と人間性は全く関係ないと思ってはいるが、実際のデータや情報を鑑みると、学歴の低い女性の子どもが、児童相談所に保護される、という実態が見えてくる。
中卒・高卒・高校中退という現実から見えてくる女性の苦悩や悲劇を、われわれはどう考えたらよいのだろうか。無学ゆえに、我が子の育児に行きづまるとしたら…
ただ、こうした「学歴」は、今や、親の所得や知性や文化と大きくかかわっている、ということも明らかにされつつある。「文化的再生産」という概念や、「ペアレントクラシー」という概念から、親から相続される知的文化は、決して無視できるものではない。この前提に立てば、学歴の低い人を、その人自身のせいにすることができなくなる。学歴の低さは、「個人の能力」とは別のところから生じている、という視点が欠かせない。
生まれによって、学歴や知性が決められる、というのはやや言い過ぎかもしれないが、事実、親からの影響は計り知れない。離婚にせよ、虐待にせよ、親がしたことをそのまま子どもも繰り返す、ということは決して驚くことではなく、いろいろな研究で明らかにされているところでもある。必ずしも「遺伝的」にそうだ、とはいえないまでも、後天的に(かつ必然的に)親から強い影響を受けている、ということは間違いないだろう。子どものあらゆる問題の背後に親や家族(あらゆる親密圏)の問題が潜んでいる。(教育学はこれまでこの点への視座が欠けていた)
緊急下の女性の多くは、その女性自身、成育歴に問題や悲劇があるケースが多い。「必ず」というわけではないが、緊急下の女性の多くが、女性自身の家庭に問題があった、という報告は多々ある。
学歴と出生元となる家庭、この両者が、「緊急下の女性」に多大な影響を与えている、と考えられそうである。
これと関連して、考えねばならないのが、「貧困」であろう。緊急下の女性の多くが、生活困窮下にある場合が多い。赤ちゃんポストに子を預けた主な理由に、生活苦・貧困・困窮がトップにきていることも確認したい。夫の稼ぎが悪い場合もあれば、離婚している場合もあれば、もともと結婚さえしていない女性もいる。いずれにせよ、金銭面での問題が、女性を追いつめ、苦しめている、ということは知っておきたいところである。
このように、学歴、親、貧困の問題の果てにあるのが、「緊急下の女性たち」である。彼女たちは、あらゆる不遇を背景にして、(愛情や金銭を求めて)男性と交わり、妊娠し、追いつめられていく。(*僕がブログで異性愛の困難さを説く理由はここにある。彼女たちに必要なのは、異性愛ではなく、フィリアだったりアガペーだったり、あるいは母性愛だったりする)
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問題を抱える親に育てられ、中卒、高卒、高校中退し、貧困にあえぐ女性たちがいる、ということを、いったいどう考えたらよいのだろうか。「救われない女性たち」と言ってもよいかもしれない。当然、こうした女性たちに対する(そうでない女性の)視線も、かなり冷たいものとなっていないだろうか。差別される人々というといいすぎかもしれないが、差別の根源のようなものはないだろうか。
こうした女性たちを、「努力が足りない」「我がまま」「勝手」「バカ」「愚か」「知恵が足りない」と罵る権利など、誰がもっていようか。どんな人間でも、親が狂っていて、学歴が低くて、貧困に苦しむ可能性は十分にある。そんな女性たちを助けよう、と思う女性はどれだけいるのだろうか。
*こうした女性たちは、「夜の世界」に消えていく場合も多い。(日本の風俗リクルート機能はとてもすごいものがある・・・)→女性用風俗情報誌(求人系) 若い学生たちに尋ねると、中卒・高校中退の友だちのほとんどが「キャバ」をやっているか、「妊婦」だという話も聴けた。例外がなかったのが恐いところ)
緊急下の女性は、こうした背景の中で、妊娠~出産(or中絶)の道を歩むことになる。無学・無教養ゆえというと、非常に冷たく聞こえるが、こうした女性の場合、友だちがいなかったり、相談できる信頼たる大人がいなかったりする。いわゆる「誰にも相談できない」という状況下に立たされる。また、限られた人間関係しかもっていないために、外の世界(相談機関や児童相談所など)を知らない/コンタクトを取らない/コンタクトの取り方を知らないという女性が多い。
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海外の場合、外国人女性が「緊急下の女性」になりやすい傾向がある。この話はまた別の機会に。