Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

憧れ-Sehnsucht- 自由への、あるいはケアへの?

出典は分からないけど、好きな文章があります。

とある大学院の試験問題に使用された文章です。

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 憧れ(憧憬:Sehnsucht)は、愛と同様に、幸福へとさし向けられている。だが、愛とは違って、憧憬は欠如(Mangel)をも示している。私は自分自身の幸福を目指す上で自分に欠けていると思う何かに憧れている。例えば自由への憧れである。憧憬はじっとしていられない。というのも、憧れは楽園を目指すからである。憧れが満たされるや否や、ある別のものが目覚め始める。というのも、私は自由のために、私がその時に憧れる何かを犠牲にしたからである。例えば庇護(安心・守られていること:Geborgenheit)である。だが、幸福のためには、自由と庇護の双方が必要なのである。ゆえに、人は欠如から別のものに傾倒するようになる。人は孤独を求めながらも、親近さに憧れる。親近さを見出せば、人は孤独の中に幸福があると思い込むのだ。

 だが、たとえ人間が同じ時間、同じ場所でこの相容れないもの(das Unvereinbare)を排除することに成功しようとも、人間は、憧れの別の次元に取り込まれたままなのである。その対象が分からない、という憧れである。

***

僕がドイツ語の中で最も好きな言葉が、Sehnsuchtという語です。「あこがれ」「憧憬」「愁」といった意味の言葉で、sehnen(憧れる、切望する)という動詞とSucht(病的欲求、中毒、常用癖)という名詞の合成語です。

誰かを愛する時、その愛が「憧れ」になっている場合があります。上の言葉で言えば、自分に欠けているもの、自分が手に入れたいもの、ということになるでしょう。自分にないものに人は憧れます。憧れは、愛を引き起こす重要な要素になっているわけです。

自分にないもの、それは自分にとって未知なるもの。そこに向かうためには、冒険、決断、勇気が必要となります。それが自由、ということでしょう。

けれど、そういう自分に欠けるものを追いかけるということで、失われるものもある、と。それが、これまた僕が大好きなドイツ語である、Geborgenheitという言葉です。これもまたとても難しい概念で、訳すの困難なんですね。

一般的には、Geborgenheitは、安全性、庇護性、守られている状態を意味する言葉ですが、bergenという動詞の過去分詞、geborgenを名詞化したものなので、受け身の要素が強いんです。bergenは、rettenという言葉に近くて、助ける、救助する、保護する、安全な場所に移す、収容する、といった意味をもつ他動詞です。ゆえに、助けられている状態であること、保護された状態であること、安全な場所に収容されていること、そうした状態で引き起こる感情的なもの(ほっとする、リラックスする、安心するなど)を指しているんですね。

自由というのは、このGeborgenheitとバッティングします。安全な場所に収まっているうちは、自由ではありません。病院、保護施設、学校、家庭、そういったGeborgenheitが実現され得る場所に留まるうちは、自分の自由は強く制限されます。がゆえに、自由が欠如し、そのことに憧れ出すわけです。

が、実際に自由になってみると、逆に、誰にも守ってもらえないことに気づき、誰か、何かの下に属そうとするわけです。Geborgenheitに憧れ出すわけです。中学や高校で自由を求めて荒れる子どもたちも、学校から放り出されると、途端に不安になり、孤独になり、どこかに所属しようという感情が強く出てきます。自分のことを心配してくれる人なんて、実利社会にはほとんどいないわけで、親密な他者をも求めます。それは、異性であることもあれば、師匠であることもあれば、親しい友人であることもありましょう。いずれにしても、一人でいられる自由を手にするや否や、人間は親密な他者を欲するのです。

上の文章では、どうもSehnsuchtから逃れられないようなことを言っていますが、このSehnsuchtから僕らは自由になることができるんでしょうかね。それを言葉にしたら、どうなるんでしょうかね。

僕的には、適度なバランスしか思い浮かびません。「一人でいたいけど、かまってほしい」、「誰かが恋しいけど、ほっておいてもらいたい」… そういうアンビバレントな気持ちって、誰しもがもっているんじゃないかな、と思いますが、どうなんでしょうか?!

最後に一曲☆

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