絆の法則

澤谷 鑛

「THE ZEN」 禅と林檎

2013-08-27 | 
 竹本 祐介  
 
 禅は「成功とは何ぞや」、「しあわせとは何ぞや」を教えてくれます。  
 
 宝くじが当たって人生が狂う人が、いると言う話をよく聞きます。多くの財を持つと言う事が必ずしも、しあわせな人生につながるとは限らないのだと思います。  
 僕は1966年生まれで高度成長期と共に育ち、20代の頃にバブル経済を経験しています。同世代に共通する「バブリーな価値観」と言うものがあるような気がします。 具体的には、「好きな事を仕事にして、沢山の収入を得て、セレブな生活をする事」に執着しています。実際にバブルの時代にはそれを実現した人が沢山いました。実現出来なかった人も、その価値観を捨てられないままに、歳をとってしまいました。その後の時代にもヒルズ族などがもてはやされ、同じような価値観を持つ人を産みだしてきました。    
 しかし、お金に執着すると、人間は堕落してしまいます。高収入を得た人も、高収入を目指す人も同じだと思います。 この「バブリーな価値観」は傲慢な態度や、逆に卑屈な態度を生み出し、人間関係を崩壊させて行きます。  
 僕はこの「バブリーな価値観」を実現する為に会社を経営し、「大嫌いな仕事をして、お金に困り、家庭が崩壊」挙句の果てに会社を倒産させてしまいました・・・。  
 成功哲学等で語られる「サラリーマンは奴隷、独立起業せよ」とか「小さな会社の社長も結局は奴隷、人を動かさないと」など、これは「バブリーな価値観」からの考え方だと思います。サラリーマンがいなければ社会は成り立たないし、しあわせなサラリーマンもいます。 やり甲斐をもって職人に徹している小さな会社の社長だっています。
 セルフイメージを上げ(自己限定の解除)、コンフォートゾーン(潜在意識にある価値観)を広げる事なども、成功哲学の鉄則になっていますが、「バブリーな価値観」のまま実践すると危険です。  
 
 セルフイメージを上げ、コンフォートゾーンを広げる前に、先ずは足元を固める事。「doing / having(行動すること、得ること)」ではなく「being(存在そのもの)」に価値を置く事です。「being」に価値を置くとは、自分が生かされている事に感謝し、日常にしあわせを見出す事。その前提のうえで、今やれる事に全力を出し、夢中になってコツコツと、目の前の課題をクリアして行く事。その先に、大きな目標を持つ事も、小さな目標で満足する事も、人それぞれ自由です。これは「禅」の教えです。(『正法眼蔵』「全機の巻」)  
 高収入を目指したり、起業して会社を大きくする事を目標にする事が悪い事だとも思っていません。その志ざしや、目的、価値観が「しあわせな人生の実現をサポートする事」になっていれば間違いが起こらないと思います。
 
  「しあわせな人生の実現をサポートする事」とはまさしく大乗仏教である「禅」の教えです。
 
 
   
 
 Apple社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏が若いうちから、仏教の『禅』を熱心に学んでいたというのは、有名な話です。
 『ジョブズは生まれてすぐに養子に出され、養父母に育てられたそうです。「自分は要らない人間だったのではないか」と悩んだ時期もあったと言います。その悩みや苦しみが青年期に吹き出し、彼は人間的に成長しようともがき、悟りの道を求めたのでしょう』(ジョブズと親交のあった秋葉禅師談) 若き日のジョブズが禅の教えを学び、のちに数々の奇蹟を生み出して行く事になります。  
 
 Apple社が大きな成功を収めた後、多くの社員は裕福になり、変わったとジョブズは言っています。中には、ジョブズから見て堕落したとさえ感じた人もあったようです。そのような状況の中で、ジョブズは「金で人生を台無しにされたりなんかしないぞ」と自分に誓ったそうです。
 そしてApple社が大企業に成長し億万長者になった後も、米カリフォルニア州パロアルトの質素な家に住み続けました。仏教や禅の説示がきっかけとなり、それらの言葉を生かして生活を送っていたのでしょう。
 
 もう「好きな事を仕事にして、沢山の収入を得て、セレブな生活をする事」を成功の定義とするのはやめましょう。
 
 結果(成果)を求めて行動する事は不毛な事です。  
 ジョブズ氏の名言のひとつに、「Journey is the reward」ということばがあります。これは、「結果が目的なのではなく、旅(道のり)こそが、報酬である」という意味。この考えは、道元禅師のことばからきているようです。 「仏道に入りては、仏法のために諸事を行じて、代はりに所得あらんと思ふべからず。皆無所得なれとのみ勧むるなり」(『正法眼蔵随聞記』より)  禅の修行そのものが「悟り」なのだから、結果(報酬)を求めることなく、修行の行程そのものを大切にしましょう。禅の考え方は、ジョブズ氏のビジネススタイルにも深く関わっていたんですね。
 
参考書籍 『禅と林檎』(宮帯出版社)、雑誌『日経おとなのOFF』(日経BP社)

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