アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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「辺野古判決」・「識者論評」の重大な落とし穴

2016年09月22日 | 沖縄・翁長・辺野古・...

    

 辺野古新基地建設をめぐる不当判決(福岡高裁那覇支部、多見谷寿郎裁判長)の翌17日から21日までに、沖縄タイムスと琉球新報に判決に対する「識者」の「論評」が計8本掲載されました(タイムス6本、新報2本。短いコメントは除く)。
 いずれも判決を批判するものばかりです(当然でしょう)。ところが、それらを注意深く読むと、半分以上の「論評」に重大な落とし穴があることが分かります。

 「論評」の判決批判は、①沖縄の民意を踏みにじっている②地方自治法の趣旨に反している③国地方係争処理委員会をないがしろにしている④三権分立に反して政府に迎合しているーなどの点でほぼ共通しています。

 問題は、日米安保条約(安保体制=日米軍事同盟)に対するスタンスです。

 前回のブログで、新聞各社の社説が「日米安保」についてまったく触れていない問題を述べましたが、8本の「識者論評」でもこれを正面から論じたものは1本だけでした。それ自体問題ですが、実は触れないことよりももっと重大な問題があります。

 高良鉄美氏(琉球大法科大学院教授)は、「判決に欠けているのは沖縄の米軍基地問題は人権問題という視点だ」と指摘しながら、続けてこう述べています。
 「安全保障は国の専権事項だから司法判断を下すのは難しいかもしれない」「日米安保の領域に人権面からどこまで踏み込めるのか懸念はある」(20日付沖縄タイムス)

 「難しい」どころか多見谷裁判長は臆面もなく「安全保障」に「司法判断」を下しました、国の主張通りに。高良氏はなぜ自ら「日米安保の領域」に踏み込まないのでしょうか。これでは憲法より安保条約を上に置いた多見谷判決の問題点に目をつむるようなものです。

 屋良朝博氏(ジャーナリスト)は、米海兵隊の再編構想が進行していることを示し、「裁判所が政府の辺野古唯一に乗ったのは暴走としか言いようがない」としてこう主張します。
 「31MEU(第31海兵遠征隊)をまるごと移転させ、航空部隊を佐賀空港、地上部隊は日出生台演習場(大分)に配置する選択肢も検討可能だろう」(21日付沖縄タイムス)

 これは米軍の再編計画をもとに、すなわち日米安保体制の枠内で、海兵隊を「県外(本土)」へ移そうとする主張です。「米軍基地の無条件撤去」とは相入ない、日米安保体制肯定・存続の立場に立つものです。

 もうひとり、日米安保の問題にはまったく触れないまま「県外(本土)移設」を主張しているのが、照屋寛之氏(沖縄国際大教授)です。
 「在日米軍専用施設面積の74%が集中する沖縄で、県内移設による負担軽減は成り立たない。47都道府県で負担を分担しなければ納得できない」(17日付沖縄タイムス)

 木村草太氏(首都大学東京教授)は、「日米安保条約や地位協定はあくまで『条約』であり『法律』ではない。条約があったからといって、憲法92条の要請を満たせるはずがない」と、安保条約と憲法の関係を正当に指摘しています。ところが、その前段でこう述べているのです。
 「沖縄に基地が集中しているのを知りながら、『仕方ない』と国民が思っていたのでは、地域間の不平等は解消されない。米軍基地による恩恵を受けているのは、日本国民全体だ」(18日付沖縄タイムス)
 木村氏は16日の「報道ステーション」でも同じことを言いましたから、これは決して筆が滑ったものではありません。「米軍基地による恩恵」とは何ですか?「日本国民」は米軍基地からいったいどんな「恩恵」を受けていると言うのでしょうか。明らかな「日米安保肯定」論と言わねばなりません。

 天木直人氏(元駐レバノン大使)は、砂川裁判の伊達判決を覆した田中耕太郎最高裁長官にもふれ、「いまこそ砂川判決の不正義と闘っている人たちと力を合わせ、日本を日米同盟のくびきから解き放たなければいけない」とまっとうな主張をしています。ところがそれに続いて、「今上天皇の生前退位のお言葉」こそ「憲法を否定しようとする安倍首相をしかる『勅令』に違いない」(19日付沖縄タイムス)と言う至っては驚くばかりです。天皇の「生前退位」発言の重大な違憲性をまったく棚上げした場違いな「天皇崇拝」は、前段の日米安保についての正論を帳消して余りある、もう1つの落とし穴と言わざるをえません。

 以上4氏(天木氏を除く)は、いずれも「沖縄問題」に詳しい「リベラル派」と見られている「識者」です。その人たちが日米安保(軍事同盟)体制を正面から否定・批判しないばかりか、逆に肯定・容認している現実はきわめて重大です。
 米軍基地・日米安保に「恩恵」などあるのか。日米安保条約は沖縄・日本に何をもたらしているのか。安保条約廃棄に賛成なのか反対なのか。「識者」は今こそこの問いに正面から答えなければなりません。


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