(p236-237より引用)近頃、一流の経済雑誌なんかが、どのくらいの値段でどういうタイプの製品を作ったらいいかアンケートをとったらいいじゃないか、と麗々しく書いている。僕はこれを見てガッカリした。大衆にアンケートをとって聞くことは参考にはなる。たとえば、自分のまいた種がどの程度大衆にうけ入れられているか、または不満があるかといったものなら賛成だ。しかし、本来のものについて、何だかんだとアンケートをとるのはおかしい。なぜなら、ものを作ることの専門家が、なぜシロウトの大衆に聞かなければならないのだろうか。それでは専門家とは言えない。どんなのがいいかを大衆に聞けば、それは古いことになってしまう。シロウトが知っていることなんだから、ニューデザインではなくなる。大衆の意表にでることが、発明、創意、つまりニューデザインだ。それを間違えて新しいものを作るときにアンケートをとるから、たいてい総花式なものになる。他のメーカーの後ばかり追うことになる。つまり職人になっちゃう。(1959年)
一見、「プロダクトアウト」的な昔流の考え方のようにも見えます。
しかし、本田氏は消費者の意見を聞くことを全面的に否定しているわけではありません。自分のプロダクトの評価を次なる技術開発に活かすことにはむしろ積極的でした。
他方、新たなものを作り出すという面では「技術者が引っ張らなくてどうする」という考えです。今流に言えば「開発(R&D)主導」と似ていますが、ちょっと違うようです。
本田氏は「ものを作ることの専門家」という言い方をしています。この言い方での「専門家」は単なる「研究者」ではなく、最終的な製品・商品にまで仕立て上げる「生産者」をイメージしています。
「本田氏流の技術者」は、商品と遊離した研究者ではなく、また、単なる製造者でもなく、マーケットに受け入れられるプロダクトを産み出す「創造者(Creator)」なのです。「もの作り」を「製造」ではなく「創造」と考えているようです。
ところで、数年前、「ものつくり大学」が設立されました。ただ、本田氏のいう「ものを作ることの専門家」と、ものつくり大学で育成をしようとしている人物像とはどうも異なるようです。
ものつくり大学では、旧来のプロセスを重要視しているようですが、本田氏は「どうやるか」ではなく、「何をやるか」を追い続けたのです。
本田宗一郎夢を力に―私の履歴書 (日経ビジネス人文庫) | |
本田 宗一郎 | |
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