不定記

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NANAIROのキセキ@ヨコシマナイトフィーバーvol.7 ワンマンライブ

2014-07-14 | ライヴレポ
「来ているみんな、わたしたちが本当にワンマンライブなんてできるのか、
非常に心配しているのをひしひしと感じますが(笑)、
今日はがんばるから応援してね~」
ギターボーカルのよーこが、照れ笑いを浮かべる。
ステージ下手にちらっと視線を向けて、アイコンタクト。
それを受けたベースボーカルのなみこが、
まかせとけ、と、いたずらっ子のような笑みを浮かべてみせる。
ステージ中央奥では、ドラムのあみがスティックを握りしめ、
少し緊張した表情で二人の背中を見守っている。
ライブハウスの会場は、満員。
ステージを見つめるたくさんの目は、暖かい。
関わる人たちを微笑ませずにはおかない、
ゆるやかにしあわせを運ぶスリーピースバンド、NANAIROのワンマンライブだ。
ロックバンドのライブ会場とは思えない、和やかな家族旅行みたいな雰囲気。
誰もがNANAIROを応援し、彼女たちの10周年に驚き、心から祝っている。

そう、10周年だ。NANAIROが結成してから10年。
10年ってすごい。何かを10年間つづけたことって、僕にはあっただろうか。
僕がNANAIROに出会ったのは8年前、
まだ結成初期のころだった。

はじめての出会いは、今でも鮮明に覚えている。
それは奇しくも、僕が生まれてはじめてライブハウスというものに足を踏み入れた日だった。
僕は当時、新入社員になったばかり。
大阪での研修のときに大阪城公園の路上ライブで知り合ったバンドのライブがあると聞いて、
ドキドキしながら向かった代々木のライブハウス。
そのときの僕は、自己嫌悪の固まりだったと思う。
大学時代につきあっていた恋人にふられて、
仕事では飲み込みが悪くて、
あらゆることが同期に比べてうまくできず、
毎日が楽しくなかった。
社会人になったらこんな毎日をおじいちゃんになるまで続けるしかないのか、
と考えて、想像する未来はすべて灰色だった。
はじめて開けるライブハウスの扉の向こうに、
僕は何か希望の色を、求めていたかもしれない。

そのときに、僕が目当てにしていたバンドの対バンとして、
ステージに立っていたのがNANAIROだった。
そのときに聴いたのが、初期の代表作「ドッペルゲンゲル」。
印象的なギターソロからはじまり、よーこが歌い出す。
間奏ではドラム、ギター、ベースの音がぶつかり合う。
そして二番では、ボーカルが切り替わってなみこが歌う。
どちらがメインでもない、「ツインボーカル」。
それも当時の僕にはひどく新鮮だった。
三つの楽器と二つの声が、一つの世界を創り出す。
思い返してみれば、当時はまだまだ歌声はか細く、
楽器を持つ手は震えていて、たくさんの人を振り向かせる力は、
あのころのNANAIROにはまだなかった。
それでも、自分と同年代の彼女たちが創り出した音の世界は、
無力感に打ちひしがれていた僕には、特別なものに思えた。

あのとき僕が感じた特別な思いが、間違っていなかったことを確信して、
僕は今誇らしい気持ちになっている。
ワンマンライブに集まった人たちの幸せそうな顔を見れば、
NANAIROの創り出す世界が、どれほど多くの人の心に届いているかがよくわかる。
10年の歳月をかけて、NANAIROはたくさんの人に愛される音の世界を、
確かに、創り上げてしまったのだ。

たった三つの楽器と三人の声で、どれだけ広くて深い音の世界をつくれるか。
研究に研究を重ねて積み重ねられた複雑な音。
ときどき、僕らには見えないものが見えているんじゃないかと思うほどに豊かな、
よーこの描く詩の世界。
「ふつうじゃつまらない!」と言わんばかりに、曲の中でころころと変わっていくテンポやコード。
それらによって一曲一曲の中に、一つの物語が生まれ、紡がれていく。
聴く人を異世界へ連れて行くような「歌に込められた物語」こそが、NANAIROの音楽の魅力だと、僕は思う。

7年ぶりのワンマンライブ。
そこにはNANAIROの今までが、詰め込まれていた。
「ドッペルゲンゲル」を聴けば、はじめてあったときの記憶がいつでも蘇る。
ライブでしか聴くことができない「クラックロニクル」は、
はじめてライブで披露された日から僕のお気に入りで、
演奏する度に僕がよろこぶからといって、事前に
「明日はクラックロニクルやるから!」なんて教えてくれたこともあった。

8年は長い。
数え切れないくらい、NANAIROの思い出はあって、
僕もNANAIROと一緒に成長してきた、なんてことを、おこがましくも思ったりしている。

アンコールなし20曲。
堂々とやりきった三人は、
「今までありがとう! そして、これからも続けていくから、よろしくね!」
と、満員のライブハウスで宣言した。
そっくりそのままの言葉を、僕も返したい。

NANAIRO、今までありがとう。これからもよろしく。

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