わたくしといふ現象

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日の名残り

2011年11月25日 02時19分57秒 | 

『日の名残り』 カズオ・イシグロ ハヤカワepi文庫

 

カズオ・イシグロの三作目です。

 

大きなお屋敷の老執事がイギリスの片田舎を旅しながら自分の執事人生を振り返るというもの。

 

それだけですし、お屋敷の執事と言われても我々日本人にはピンとこないものですが、それでもなかなかに面白いです。

 

時は第二次世界大戦前後。長年つかえてきた主人であるダーリントン卿。執事である以上、主人の役に立ちたいと思ってきたし、主人は正しいと信じてきた。しかし、ダーリントン峡はナチスドイツの対イギリス工作にはまってしまい没落。現在お屋敷は新しくアメリカ人の手に渡り、新しい主人のもと執事をしている。ダーリントン卿のしたことは間違いであったとようやく認め、新しい主人のためにアメリカンジョークを勉強しようと思う根っからの執事なのです。

 

カズオ・イシグロの小説は書かれた順番に読んできてこれで三作目。一、二作目はともに第二次大戦後の日本が舞台でしたが、共通して描かれているのは、今までの価値観を信じて生きてきた人物が、新しい価値観の前に当惑し、自分の人生のむなしさを感じるというもの。

 

確かに、大きな戦争が終わって時代が180度変わることはないにせよ、年をとって自分の人生を振り返った時に意味がなかったと思うのは不幸なことのような気がします。

だから、生きてきて良かったと思う何か(PUFFYの欲望から言葉を借りるならば「ただ月明かりに道が照らされるような何か」)が必要で、それは有り体ですが、愛とかそういうものなのかもしれません。

 

カズオ・イシグロが、この旅の最後に、かつてダーリントン卿に仕えてきたときに老執事に恋心を寄せていた女中頭との再会を持ってきたのもそういうことからかもしれません。

しかし、女中頭は結婚していて、今では主人のことを愛していると言うのです……。

 

常によく考えて後悔のないように生きていかなくては、ということですね。


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