路地猫~rojineko~

路地で出会った猫と人。気付かなければ出会う事のない風景がある。カメラで紡いだ、小さな小さな物語。

師走に往く

2009-12-20 | ★ほんの日常




もう30年になる。

子供の頃、オープン前の試運転の浴場に入らせて貰ってから

そのネオンが消される事になったのは

今年の師走に入っての事だ。




「寂しくなるね。でも、長い事、大変だったもんね」

そう言いうと、おばちゃんは笑顔で応えた。

「もう、売り上げも無かったし、貯えを切り崩してまで

 (経営を)続ける意味もないしね」




おばちゃんの家は母方の親戚だし、

子供達の歳も近く幼馴染でご近所とあってか

家族ぐるみの付き合いだった。

動物好きのおじさんの趣味で闘鶏もやっていたし、

大きな家に大きな犬や馬や、一時は山羊まで居た事がある。

ちょっと前にそのおじさんも癌で亡くなり、

おばちゃんと娘さんだけになった大きな家には

シェパードの雌犬『レナ』が居た。

気難しい性格なのか、最期まで私に懐いてくれなかったのは

彼女なりの仕事の流儀だったのかも知れない。





その日の朝、犬の夢を見た。勿論『レナ』ではない。

毛の長い茶色のミックス犬で、私の足元にまとわり付いていたが

動きがぎこちないので顔を見ると、牙にガムが引っ掛かって

取れないでいるのを、顔を抑えて取ってやるという夢だった。





実家で留守番を頼まれて、テレビを見ながらウトウトしていると

インターホンが鳴った。

そこにはおばちゃんがお孫さんと一緒に立っていた。

「お父さんと約束してたの、持って来たよ」

と、お店でキープされていた処分のお酒を持って来てくれたのだ。

「犬がね、亡くなったの。

 2週間前位から具合悪くてね、もう15歳やったけんね」

翌日には、ペット斎場で葬儀があるという。





虫の知らせか…

ふと、犬が歯に引っ掛かったガムを取れないでいる姿が頭を過ぎった。

もうクタクタの老犬だったけれど、

おじさん亡き後、お店を畳むまでは家の番をしなければと

頑張っていたのかも知れない。




温かいお湯の流れるお店の配水管の上で

寒い夜に猫が暖を取っている姿がもう見られない。

閉店を惜しむ声は多分、常連客からだけではない筈だ。










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コメント (2)
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