路地猫~rojineko~

路地で出会った猫と人。気付かなければ出会う事のない風景がある。カメラで紡いだ、小さな小さな物語。

夢見る頃を過ぎても

2008-03-19 | 『華』

「大きくなったら、何になると?」

子供の頃、誰もが一度は尋ねられた言葉だろう。

大人達が良く使う、世代の違う子供との挨拶代わりのこの言葉を、

何故か大人になって、七年目に近所の子供に問われた事がある。

当時、隣の家の猫がボンネットを汚すので休日は車磨きに勤しんでいた。

実家の玄関先でホースを片手に愛車を磨いていると、

小学2~3年生位の少年が自転車に跨ったまま、私にこう言った。

「あんた、大きくなったら何になると?」

思わず、手が止まる。振り向くと、少年の日焼けした真顔がそこにあった。

きっと、大人の挨拶みたいに思ってこう言ったんだとは思うが、

ハッとした。

「もう大人ったい。あんたの車(自転車)も洗ってやろうか?」



子供の頃は「お花屋さん」だの、「スチュワーデス」だのと

可愛らしい職業を友人達が挙げる中、

変わり者だった私の将来の夢は、「法廷画家」だった。

もの凄い決心とかそういう類のものでなく、幼い夢は形を変えるもの。

色んなものに成りたがり、夢見る頃は過ぎて行く。

法廷画家ではなく、グラフィックデザイナーを生業としていた。

たまにCMの絵コンテなんかを頼まれていたりしていたが、

法廷画家の方とはそういった仕事や漫画家を経て成る方が多いと後で知った。

時に、子供の何気ない言葉は無意識に真理へ直行する。



あれから時は過ぎても、あの言葉は今も心に残っている。

川沿いで出会った貴婦人『華』と向かい合って写真を撮っていると小学生が声を掛けて来た。

「何しようと?」

「大きくなったら、何になるか考えよ~と。」

少年は、私の言葉より猫に夢中だ。




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橋の下の貴婦人

2008-02-06 | 『華』

休日、『小鉄』の居る納骨堂の近くを通った。

橋の下に白黒の小さな背中が見えた。

日陰に避難している、小さな貴婦人だ。

この辺りではあまり見掛けない猫ではあったし、

警戒されるとまずいので静かに静かに橋の上からキャットフードを落としてみた。

むむっと気付いた猫は、もぐもぐと食べている。

少しづつ、橋の上からのプレゼントだと言う事に気付いてもらうべく

猫に分かる様に投げてみた。

気付いた猫は私の心配をよそに、ぐんぐん近付いて来た。

どうやら飼い猫の様で、人を怖がらない。

河の土手を登って来た猫と遊んでいると、日傘を差した年配の女性に声を掛けられた。

「まぁ、変わった柄の子ね。珍しいわ。連れてお帰りなさいよ、何万匹かに一匹の猫かもよ。」

確かに駄猫には珍しい柄が多い。三毛猫の雄位なら珍しいと言えるかもしれないが、

この子はどう見ても、普通の猫だし飼い猫だ。連れて帰る訳にはいかない。

少し話しているとどうやらかなりの猫好きの様で、自分の愛猫の写真迄見せてくれた。

まるで恋人の写真を見せる様に、毛長種の高そうな猫の写真を差し出す。

「これがレオ、こっちがルナ。」



ふと、亡くなったご主人の名前は痴呆で忘れても愛猫の名前はしっかりと覚えていた老女の話が頭に浮かぶ。

近所の野良と触れ合ううちに、老女はご主人の名前も癖も思い出すのだ。

記憶と言うものの儚さよ。

忘れえぬ愛を教えてくれるものが、人でなく猫でもいいのではないかと思う。

他生の縁も、永遠の愛…。



「この子の名前は『華』ちゃんが良いわ。うん、そんな感じ。」

愛猫の写真を大事にしまいながら、彼女は言う。

視線を落とすと、橋の下の貴婦人『華』が

私達二人を静かに見上げていた。


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