lens, align.

Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Enigma / "Seven Lives Many Faces"

2008-10-07 23:30:09 | Enigma
Sevenlivesmanyfaces


□ Enigma / "Seven Lives Many Faces"

<script type="text/javascript" src="http://mediaplayer.yahoo.com/js"></script>♪ We Are Nature
Between Generations

Release Date; 19/09/2008
Label; Virgin EMI
Cat.No.; CDVIRX 226 / 50999 235455 2 6 (Limited Edition)
Format; 2xCDs (CD-Extra)

>> http://www.enigmaspace.com/
>> http://www.enigma.de/


Sevenspecial_2 Sevenspacial_2


>> tracklisting.

CD-1
01. Encounters
02. Seven Lives
03. Touchness
04. The Same Parents
05. Fata Morgana
06. Hell's Heaven
07. La Puerta del Cielo
08. Distorted Love
09. Je T'aime Till My Dying Day
10. Déjà Vu
11. Between Generations
12. The Language of Sound



BONUS DISC:
01. Superficial
02. We Are Nature
03. Downtown Silence
04. Sunrise
05. The Language Of Sound (Slow Edit)


Bonus Track for Japan Only:
13. Epilogue

Exclusive Track for German iTunes Pre-Orders:
13. Where Are We From



See Also:
lens, align.: "Seven Lives Many Faces" DVD-Album Review.

Related Entry:
>> lens, align.: ENIGMA / "La Puerta Del Cielo / Seven Lives"
>> lens, align.: My 1st Impression of "Seven Lives Many Faces"


Music and lyrics by Michael Cretu, Margarita Roig (Track7, 11), Andru Donalds (Track 8, 9). All songs published by 1-2-3 Music / Crocodile Music. Produced by Michael Cretu. Non-digital voices by Andru Donalds (Track 2, 4, 8, 9). Nikita C., Sebastian C., Nanuk (Track 4). Margarita Roig (Track 7, 11). Narration by Nanuk (Track 9) - CD2 Ruth-Ann (from Olive), Margarita Roig (Track 2). Digital and orchestral world programmed and performed by Michael Cretu. Recorded and mastered with the ALCHEMIST and ADAM 6.5 AMC Monitoring System A.R.T. Studios Ibiza/ Spain. Artwork by Dirk Rudolph. Photos by fotolia.de, Rosemary Robenn. Management by Crocodile Music.


Seven stars, seven days
Seven seals, seven gates....

"SEVEN LIVES MANY FACES" is now LIBERATED!!




『Enigma, 過去20年間において最も成功した音楽プロジェクトであり、全世界で4000万枚を売り上げ、トップチャートで50回#1をマーク。約100個のプラチナ・アワードを獲得し、コンピレーションへの収録回数は1000を悠に超える。(中略)エニグマの立案者であるMichael Cretuは、彼の7th Album "Seven Lives Many Faces"において創造的宇宙の新章を紐解くだろう。この12曲は既知の音楽によるスペクトルの境界を超越し、私たちの音響的地平を、Omnicultural(汎文化的)な音世界を織り成し内包していく。』 (- Press Release.)



今や国家、民族、宗教、音楽的志向を超えて地球的な規模で支持されるアーティスト、ENIGMAことMichael Cretuの7th Album。この"Seven Lives Many Faces"は、6th "A Posteriori"に続き、クレトゥ単独での完全なるワンマン・ユニット形式で製作された。

(※ あちこちのレビューで事実誤認が目立つので補足しておくと、前作から楽器演奏は全てMichael Cretuのソロで行われている。Jens Gadは参加していない。当然ながら離婚したSandraも不参加となっている。)


ジャケットのArtworkに象徴される通り、"Seven Lives Many Faces"では、4th以前までEnigmaの常套手段であったEthnicなSampling/Collageサウンドを回顧しながら、70'sのProgressive/Psyche Rockから80'sPOPのRetrospectiveを交えた、全く新しい方向性を打ち出している。

「七つの命、無数の顔」というタイトルが代弁するように、楽曲のヴァリエーションは実に様々。正に七様の魂の息衝く無限の表情をして、聴くものを官能と幻想の世界へと誘う。以降一曲一曲について、その「顔たち」を明かしていこう。



1. Encounters                 .

七つの星、七の日月、七つの封印、七つの扉
七天使、七様の空、七つの罪、七つの命
七つの塔、七の目、七不思議、七つの命
痕跡、 無数の顔 忘却の彼方へ



人間を最も高揚させるという宇宙と生命の律動の接合点、『心拍』の導入から、EnigmaのトレードマークであるHornのモチーフへ。天界のように煌めく重厚なアトモスフィアに重ねて、透明感のあるウィスパリング・ヴォイスと、従来のイントロに比して極めて異質と言える環境音のノイズが"Maze of Time"の扉を開く。

Non-Creditの女性Narration Voiceは、Crocodile MusicのProject Managerを務め、バンド経験もあるSusanne Flug。


また、今アルバムではクレジットされた"Non-Digital Voices"のヴォーカリスト以外に多くの声がサンプリングされており、その多くはNanuk(inuit/イヌイット語で『北極熊』の意)或は、ALCHEMISTによるサンプリング・ヴォイスによるものと思われる。



2. Seven Lives                 .

Traces, many faces
Lost in the maze of time
Blinded by the darkness
That's the start of the seven lives



Andru Donaldsによる感情的なVocal Track。Synthによる疑似オーケストラとBronx Hip-Hopをブレンドしたソリッドなアレンジメント。Enigmaのお家芸であったピチカートと打ち込みリズムの同期が復活。導入部のオリエンタルなストリングスとフルートの絡みが、多くに指摘されるように、あのSchillerの方法論と酷似している。

懐かしくも"Find Love"を思い出させる間奏部では、初期Enigmaに顕著な特徴であったアシッド・ハウス的なパッド展開とBizarreなRap、奇怪な啼声が織り混ぜられ、ヴォーカル以外の楽曲の半分近くを、そのダークで悪夢的なシークエンスで分断して硬質なコントラストを演出。


共にシングル・カットされた"La Puerta Del Cielo"同様、こうして序盤から"A Posteriori"に欠けていた多層的なビートの抑揚とダイナミクスが再び前面に出され、リズムとサウンドの機械的な旋推力が重く響いている。アウトロには、1st Albumから"Mea Culpa"で用いられた馬蹄の音がデジャヴする。



3. Touchness                 .

わたしに触れて そしてキスして
-上から下まで-


寂寞とした雨音とヴァイオリン、ギターソロから、シンプルだがくぐもった響きのドラムが一遍のスクラッチ・フィルムの様相のイントロ。官能の色を帯びたSusanne Flugの呻きと心の声の二面性が露になる。

この性的なイメージを喚起する吐息や喘ぎ声は"Sadeness"以来ずっと聴かれて来たものだが、"Seven Lives Many Faces"に至ってはテーマ的と言える程、ほぼ全編に渡って聴くことが出来、後半においてそのルーツが明らかにされることとなる。


不気味でシュールな浮遊感に乗せて、耳を劈くアトモスフィアとストリングスの破壊的なまでに尖鋭なディゾナンスが刺激に満ちた楽曲。オーケストラル・ヒットとダイナミックなChoir Chorusは過去のCretuプロデュース曲においても顕著で、時代に遡行して80's独特のシニカルな軽さを臭わす特徴的な作風となっている。



4. The Same Parents              .

We all had same parents, Many million years ago
Why can't we live in freedom Without hunger, with no war

At the beginning we all had One mother, and one father
That's where we're descending from

I don't, I don't understand Why so much hate
Between races and religions It's mad, insane
I don't nderstand Why it has to be like that.



MichaelとSandraの間に生まれた13歳になる双子の兄弟、SebastianとNikitaによるDuet。Sebastianの静かながら直情的なモノローグに重なる悲哀に満ちたマイナーコードのアトモスフィアとクラシカル・ギターリフ("Sadeness"のグロッケンシュピールのモチーフに対応している)の後、重々しいスロービートに乗って、Michael Cretuの面影を受け継いだNikitaのリード・ヴォーカルが、陰なる冷たいエコーを背負って響き渡る。後半のドブロ・ギターが東欧的で寂しげな旅愁の色を添えている。太古から今も続く人間の彷徨を描いているように思える。

今作で私が最も好きな曲。月明かりに黒々と連なる山の尾根の輪郭が目に浮かぶ。


TVで歴史ドキュメンタリーを見たSebastianが、「僕たちは太古に同じ親から生まれたのに、どうして殺し合わなければならないの?」と父に疑問を訴えたのが曲の成り立ちであり、着想からあっという間に完成を迎えたという。

何処かペダンティックにソフィスティケイトされたEnigmaの観念的な音楽において、これほど淡々とした、しかし確たる炯眼を放つ曲調は、今アルバムにおいても圧倒的な存在感を放っている。



5. Fata Morgana               .

"A Posteriori"と共通の、漂蕩としたトランジション。実はここまでの全ての曲がC-Minorを基調としている。C-minorはMichael Cretuのイニシャル(M.C.)の鏡像であり、彼自身が最も好むコード。これまでのアルバムにも仕掛け的に様々な意匠を以て潜んでいる。

"Take me now"というサンプリング・ヴォイスに促されるように、軽快で小気味良いリフが挿入され、ギターが激情を煽るように叫ぶ。これも80年代の爛熟したRock/Popsの響きを帯びた、中盤に競り上がるシンセ・ストリングス以外に展開に乏しい箸休め的な間奏曲の趣。どこまで手を伸ばしても辿り付けない『Fata Morgana(蜃気楼)』とAnimaへの哀美な憧憬を重ねているようだ。

また、Enigmaにとって"A Posteriori"以降に確立された特色である、柔らかい膜状の界面を叩くようなカリビアン・ビートのゆったりとしたリズムが、此処から徐々に顕著となる。



個人的な意見だが、私は近作で目立つようになったこうした音色に非常に抵抗がある。これが安い電子ピチカートと絡むことの多かった前作の萎え方は悪夢だった。IbizaのChill Out movementの影響は如実に見られるものの、実は当時から導入したmobile studio、"Alchemist"がCretuにとっての悪妻ではないかと思える程。


思えば私自身、3rd "Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!"から出会ったEnigmaの音楽には、最初は拒絶反応を示す部分が大きくあった。しかし同時に幾何たる不可侵な領域の存在を感じ、次第にその引力に惹かれていく。それはEnigmaの巨視的な厭世観を補う、Sound Composerとしての独創性に依るものであり、最近の悠々閑々とした音色と曲調は、明らかにその先鋭性に反行しているように映るのだ。


しかしCretuと共に私が最高傑作として推すことの出来る"Morphing Thru Time"も同様のリズムを併せ持っていながら、シュールで壮大なスペース・ロックを展開する曲想と実に調和している。

一方、銀河系の漂浪を描いた"A Posteriori"においては、Bookletに"This Album is dedicated to all visionaries of human race. Many of them paid with their life, some of them had the chance to survive."と銘じられており、その浮世離れしたコンセプトには如何にも似つかわしいには違いなく、いずれ時が経つに連れて受け入れられるようになるのかもしれない。



6. Hell's Heaven               .

引き続き、"A Posteriori"を継承した導入。70年代のディスコ/シンセサイザーミュージックのレトロなSci-Fiサウンドが聴けるが、この部分について、日本盤のライナーノーツの大伴氏の考察が非常に参考になる。

『(前略)かつてのTangerine Dreamのシンセ・ロック、あるいは70年代後期のGiorgio MoroderやHarold Faltermeyerらのディスコ系スクリーン・ミュージックに通じる』


異存はないが、私にはそれ以上に、"A Posteriori"で打ち出した刻一刻連綿と変化するSynth Symphony調の作風は、寧ろ初期のJean Michel Jarre、とりわけ"Oxygene(邦題:幻想惑星)"へのオマージュにより近く聴こえる。

もちろんそれだけではない。"Hell' s Heaven"は、"Seven Lives Many Faces"の流れを俯瞰した場合の折衷点とも言うべき複雑な要素を幾つも兼ね合わせている。金属的な残響を重ねたCutting Edgeなビートと、機械的に定位を移動させるEffectはAutechreを彷彿とさせるし、ポリフォニックなシンセのストロークはSashaの名盤、"Airdrawndagger"にすら似通っている。

そして次曲"La Puerta del Cielo"のシンセベースが中盤において一度提示されている。


Classicalなstringsが静謐で上品な響きを添える終曲部は、"Seven Lives Many Faces"の根底に流れるfluencyでPost-Modernなアートウェーヴを十分過ぎるほど代弁するシークエンスとなっている。ここら辺は何処かRollo Armstrongによる、Instrument主体でEnigmaの楽曲をRemixしたAlbum、"The Dusted Variations"(2005年リリースのBox set "15 years after"に収録)を意識させる。

ちなみに、『バッハやベートヴェンが現代のテクノロジーを手にしたら、私と同じことをしたはず』とはCretuの弁。



7. La Puerta del Cielo             .

Allà dins es canal 
En es peu da sa muntanya,
Pareix que es senten picarols
Suau si es mou sa manada.

Dins es canta des riquets,
I es mussol crida sa calma,
I aquella olor que em pareix
De sa palla humilada…


『あの谷を抜けた山の麓 
 ほら、群れにつられて羊飼いの鐘が聴こえる
 フクロウたちは藁の隙間もなく犇めいて
 しじまに歌う。』


Catalan(カタルーニャ語)で歌われる"La Puerta del Cielo"(天国への扉)は、CretuのStudioがあるSanta Agnèsの景観が持つ異称、'Ses Portes Del Cel' (Las Puertas Del Cielo)に由来するもの。60代になるイビサ在住の歌手 Margarita Roigによるもので、牧歌的な風景描写と、哀愁に染まる心象を重ねたEthno-OrientalなAmbient Vocal トラック。

ベースラインは、3rd Albumにおいて同じく7曲目に当たる"The Child In Us"のものと酷似している。歌詞に登場する「Owls(フクロウ)」の鳴き声を模したオノマトペが挿入される。


ここに至って、Cretuが90年代New-Age/World Beatのストレートなサウンド・メイキングに回帰したMinimal Track。過去のEnigmaが表現してきた神聖かつ形而上学的ダイナミクスの円環性が一気に開扉する。


硬質で重層的なProgrammed Beatは一方で往年のPsychederic Rockを彷彿とさせる有機的な一面もある。ベースの重低音がイデアの空間を切り出し、加えてバックで鳴り響くアトモスフィアとコーラスの深遠なレイヤーは、現在までEnigma以外の何者にも真似出来なかった唯一無二の啓示を担うものだ。



8. Distorted Love               .

I need you, I love your body
-I need love-
Smell me, touch me
I'll be your daddy, mommy, brother.


テーマとしては"Same Parents"と対になるもの。切れ切れとなった情慾的な吐息にグレゴリオ聖歌の詠唱がフラッシュバックする。硬質で立体的にオーヴァーダブされたカリブビートから再びAndruのソロ、扇情的だが突き放した感のあるMichaelの特徴的なギターミュート。間奏部と終曲部に挿入される女声クワイアの教会合唱がEnigmaとしての通釈性を齎している。

Michael Cretuが過去にプロデュースしたAndru Donaldsのソロ・アルバム、"Snowin' Under My Skin"と"Let's Talk About It"では、同様にChantやChoirといった宗教的な要素を取り入れつつも、80年代のPunk RockやSoul、レトロなユーロテクノ、そしてAORといったルーツを前面に押し出し、従来のEnigmaとは一線を画したサウンド・コンセプトを担っていたが、ここに来てその両方の要素がランデブーを遂げた感がある。

"Seven Lives Many Faces"においては、過去に辿った変遷を統合しようという試みが為されているのかもしれない。



9. Je T'aime Till My Dying Day         .

ラジオのノイズ・エフェクトから、"Find Love"の淫夢を想起させる馬の鳴き声に肉感的なダウンテンポ、エロティックな囁き声が割って入る。女性の機械音声が愛を請う"Do you love me too?"のRapへ呼応するように、三たびAndru Donaldsの歌声が哀愁たっぷりに、そして壮大に響く。


『愛してる、最期の時まで。』

直情的でシンプルな歌詞を切々と繰り返すこの楽曲も、Michael Cretu自身の心の叫びとオーバーラップして胸を突く。アトモスフィアの旋律が甘美なIntroは、昨年別離した元妻Sandraに過去に書いた曲、"Seal It Forever"のそれをそのまま引用したものだが、それ以上に注目するべきものは、楽曲全体を覆う女性の性的な喘ぎ声にある。



実はこの曲における"Je t’aime, je t’aime mon amour(愛してる、愛してるわあなた)"という囁き声は、あのフランスの異匠Serge Gainsbourgの問題作"Je T'Aime …Moi Non Plus (「愛してるわ」 「ああ、愛してないよ」の対話的な意)"のBrigitte Bardot版に対する、あからさまなオマージュだと思われる。発声や吐息の機微、タイミングがそっくりなのだ。


Serge Gainsbourg & Brigitte Bardot / "Je t'aime moi non plus"


Jane Birkinとのデュエット・ヴァージョンよりも前、1967年の録音当時ゲンスブールと不倫関係にあったバルドーの、性的なうめきや嬌声が被さるという過激さから、長年に渡ってお蔵入りとなっていた"Je T'Aime …Moi Non Plus"のオリジナル・ヴァージョンは1986年、ようやくリリースに漕ぎ着けている。



想像の域を出ないが、1988年に結婚するMichael CretuとSandra Ann Lauer(旧姓)の趣向に照らして、このセンセーショナルな曲に何らかのインスピレーションを得たとしても不思議ではない。のち1990年、ヨーロッパを、そして世界を席巻したEnigmaの"Sadeness"、そこにはFrenchなラップとSandraの愛欲的な喘ぎ声が響いていた。


何が2人の破局を招いたのかはわからない。しかしAndruのヴォーカルは正に、Cretu自身の胸のひりつくような心情を代弁しているように聴こえてならない。壊れそうな愛をたぐり寄せようとするような、そこに無いのかもしれない『心』を手探るような...過去にCretuプロデュースでAndruがカヴァーした、Air Supplyの"All out of love"を強烈に思い出させる歌い方でもある。



因みに、Run Time"2:01"付近に微細な音飛びが認められる。"A Posteriori"では作曲上のミスを有機的に取り込んだ作風を謳っていたが、これは単なる録音上の過誤と思われる。



10. Déjà Vu                 .

煌めくようなアンビエンスで曲は一転、秒針を刻むようなミッドテンポのEnigma Beatに乗って、Asian/Oriental esqueの華やかなChinese Ambientへと展開する。

二胡と古琴のコンビネーションが鮮やかだが、従来の手法に沿ってSound Libraryが出典のサンプリングだと思われる。過去作には中国の琴を用いた楽曲として"Between Mind and Heart"があり、雰囲気からリズムに至るまでほとんど同一だが、より土俗的な音に回帰。中盤では室内楽風にあしらったストリングス・パートが主張し、あくまでヨーロピアン・ムードを基調とした、優雅でモダンなオリエンタル・ミュージックの様相を呈している。


"Déjà Vu(既視感)"とは本来、『未体験の事柄を体験したように感じる』ことを言うが、私たちはこの曲の要素を実際に耳にしたことがあるはずだ。後半では3rd Album"Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!"全編で用いられたLibrary、”Heart of Asia"からの民族的なSampling音源が畳み掛ける。"Roundabout"でも使われたCretuの声に似たシャウトも、実は同音源からのサンプリングである。



11. Between Generations           .

Si penses que ma mare
Així dispara amb so canó gros
I tens raó
No t’hi pensis I aixi en tindrem es dos.



遠来する雷鳴の轟きにモアレを描く漣の喧噪、不気味な話し声混じりにGregorian Chantが奏でられ、Enigmaの"Anima"たるSusanne Flugの囁きが再来、心拍音が次第に高揚を始める。


『あたしの母親が、こうやって大口径をぶっ放すって考えてるなら あんたは正しい』『あんたが2杯か3杯やるなら、あたしも3杯か2杯やるわ』

Enigma独特のアーシーなBoleroに乗せて、"A Posteriori"調のアストラルで広漠とした光と闇のアトモスフィアを描く。しかしMargarita Roigの歌詞は驚くほど通俗的で偏狭な逼迫感を持っている。それに反して楽曲は中盤でグレゴリオ聖歌の神秘性をよりはっきりと呈示し、後半では眩い星々の光芒すら射して、そのAntinomyを体現する。

UKロックを換骨奪胎したような暖色に溢れたベースラインも、仰々しい曲調のスペクタルと対照的なコントラストを放っている。


"In nomine Christi, Amen..."

世俗と宗教、そして内面世界の対峙。Enigmaは過去作についても、常にその両界を行き交い、ある種の折衷点ともいうべき、人間の抱きうる斬新なエモーションを開拓してきた。4th Album "The Screen Behind The Mirror"のモチーフとされたCarl OrffのCantata、"Carmina Burana"の原典である12世紀の詩歌集も、酒や恋を謳う内容に対偶する教会風刺、宗教批判が出自とされている。


しかしEnigmaにおいては逆の意業が計られているように思える。即ち、神や信仰を見失い、自らの依り代である自然環境すら傷付けている―――。そんな多くの現代人が抱く行き詰まった閉塞感に対して、宗教という形で人の観念が育んで来た豊穣な精神世界の産物と、内なる幻想の無限の可能性を今こそ見据えることで、魂の救いに振り向かせようとしているのかもしれない。

時と場所を超えて共鳴し、呼び交わす想い。―実は形而上の世界でも宇宙でもなく「今の人間」に遍在して孕まれる普遍的な深遠を描くエポック・メイキングな楽曲に違いない。



12. The Language of Sound           .

官能的なブレスに共鳴するように、7-80年代のGospel/SoulやBlues、あるいはCulture Beat等にも似たGerman Euro Danceの感情的なエッセンスだけを抽出した淡白だが極めて特異な楽曲。後半では3rd Albumから"Prism of Life"などで引用された民族サンプルが集約される。何より、こういった作風を重要なエンディングに配したことに新鮮な驚きがある。


文化や民族、性別や言語、そして音楽性の全ての境界を壮麗で融和な旋律に溶かして、それぞれの属性から解放された『声』。その主たる「無数の顔」たちが目に浮かぶように、スキャットとして散りばめられている。ゴスペルといえば、現代における神への呼びかけの形であるという側面も無視出来ない。また、ここでは"La Puerta Del Cielo"の一部のサンプルも聞かれる。

悠遠の舞曲を刻むダブ・ビートは時間経過に連れて刻一刻と音色を変化させ、壊れた撥条の鳴動の如き有機的な響きを放ち続ける。


こと「声」の扱いに関しては、クレトゥは比類なき哲学を透徹している。彼の手に掛かったヴォーカルは、「楽曲の内側」に広がる空間を反射し、業に従って寄せては返す感情の波のように残響を奏で、寄り添う影の如く本体にオーバーラップして、滋味なるハーモニーを放っている。




80年代ドイツのポップ・カルチャーの中心にいたクレトゥが、"MCMXC a.D."を分岐点としたEnigmaというプロジェクトにおいて、いわゆる「商業音楽のメイン・ストリーム」をどう見つめ、如何なる風に関係性を保ちながら距離を計って来たのかが知れるようだ。


Enigmaの音楽性は常に、流行や市場のフォーマットを無視し、前衛音楽さえ持ち得ない圧倒的なドグマチズムに満ちていた。楽曲中で使用される伝統民族音楽や、引用すること自体に不可避な意味が生じる宗教音楽、聖歌においても、それらの象徴的意味、演奏ルールといった型枠の全てが取り払われ、"ENIGMA"独自のパースペクティヴに再構成されている。しかし、その核にはCretuのみならず、彼の曲に共感するリスナーたちのアイデンティティを育んで来た、あらゆる世界の音楽環境の、抗い難い向心力が働いているのだ。



そして、"Seven Lives Many Faces"が描く宇宙の地平に暗碧の帷を下すアウトロが何よりも感動的だ。"The Language of Sound"の低旋律である2音間の反復を基調として、心拍の奏でる2音のリズムがシンクロ。現実世界と向こう側の境界を引っ掻くようなスクラッチ音に重ねて、官能の喘ぎ声がフェードアウトしていく。

Enigmaが呈示してきたエロティシズムは、単純に性的な衝動を煽るようなものではなく、背徳の愉悦に伴う不条理な嗜虐と哀しみとの二律背反に衝迫する芸術的昇華に等しい。人間が生きながらにして抱えた絶望、決して対峙を避けられない永遠の謎。

"All of our life well wait for the answer
And the question is why"
 -"Morphing Thru Time"


「生殖」と「起源」の相補的対応。我々は如何なる意味の下に生み増やすのか、何故に秩序と律を侵す不安定な衝動を抱えた存在であるのか?或はどうやって?

"Principles of Lust (愛欲の原理)"は「禁止と侵犯」の相互反復と置き換えられる。音楽が情動を司るなら、両者の動態は太古より共時性を持つはずである。そして西欧音楽体系は、自らを超越し支配する神智の存在、及び定向性への信仰に基いて、感情を制御する最も合理的で洗練されたフォーミュラを算筆した。私たちにはそれらを用いて、音楽の描く観念の世界において自らを見つめ、抑圧された願望を昇華することが容易となった。


"The Language of Sound"のエンディングにおいて隔絶された「Animaたる音」と「聴く側」の境界。我々が向こうへと超えて行きたいのか、或は焦熱の吐息を向ける「あちら側」が、逆に我々に成り代わることを切望しているのだろうか。




Bonus Tracks.


1. Superficial                 .

"Many Faces"を覆う"Superficial(表層)"。曲調は"The Launguage of Sound"に準ずるブルース調のシンセ・インストゥルメンタルだが、ややアイロニカルな暗愁を帯びたシンプルな仕上がりとなっている。



2. We Are Nature               .

We are nature
I hem va dir repòsa un poc
i recolzat aqui en s'aresta ...
I hem piga piga un grapadot
digue que duc buscas d'herba ...
We are nature ...



Ruth-Ann Boyleの冷涼としたヴォイスが光射の如く吹き抜ける。ドープなビートが暗澹の澱から浮き上がり、時計の内部装置の鳴動、サイレンとグリッチが織り出すCyberなリズム・テクスチャに、Margarita Roigのプリミティヴな歌声が三たび導かれる。音楽の「原始」と「未来」を重ねてコンパイルした、実にEnigmaらしい楽曲。

"We Are Nature"、Enigmaが発してきたテーゼに対する、一つの包括的な解答がここに示されている。



Michael Cretuは長年の間、3rd以前まで用いたサンプル音源にあるような"Mongolian Voice"の歌い手を探していたというが、Margaritaを見いだしたのは、イビサのカフェにあったホームメイドCDを偶然耳にしたことからだとか。彼女はカタルーニャ民謡の歌い手として、地元の音楽祭などへの出演経験もあるベテランのパフォーマー。

Enigmaの歌詞については、何処か素朴な世俗的エピソードを語るものが多く、その意味内容よりも語感と楽曲との調和を重視した選詞なのかもしれない。



3. Downtown Silence              .

「大都市にあるホテルの一室に佇んでいることを想像してみてくれ。絶え間ない喧噪やクラクションから人の往来が目に浮かぶだろう。」


上のMichael Cretuの注釈の通り、それは現代人にとっての新しい「静寂」の形なのかもしれない。nihilisticなエレキが哀愁を醸している。部屋の外、遥か遠くで響く雷鳴のアウトロに、都会を覆う曇天の灰色のイメージが去来する。

オフィシャルのEnigmaspace.comとドイツのミュージック・ポータルサイトXoundが提携して、同曲のRemix Contestが立ち上げられており、10パートに分けられた素材をダウンロードすることが出来る

http://xound.com/content/view/1140/154/



4. Sunrise                  .

ノイズ処理されたバスドラムとシロフォンのパーカッション、チャイムやヴィヴラフォンのロングトーンと、吹き抜ける風のようなパッド、自然音や虫の鳴き声のサンプリングが呼びかわす。Cretuの哲学"less is more"を体現したmobile studio、ALCHEMISTの能力を披露するかのようなカタログ的トラック。5th Album "Voyageur"の頃より顕著だったIbiza Chillに完全に迎合した曲調となっている。



5. The Language Of Sound          .

アルバムのフィナーレを飾るエンド・トラックの異なる表情を窺わせるアレンジ。コードと旋律はやや沈み加減になり、ヴォイス・コラージュによるシャウティングはより鋭く、哀哭に咽ぶように響く。



13. Epilogue                .

日本盤/Japanese Edition(TOCP-70605)に限定収録されたBonus Track。"Hell's Heaven"にあるシンセの鍵打部分をエンハンスしてビートアレンジを加えた1'57'"のDemo like track。



13. Where Are We From           .

German iTunesのAlbum Downloadを予約していた人のみに配信されたBonus Track。こちらは"Fata Morgana"に使用された東洋風のヴォイス・コラージュが、ギターの物悲しい単旋律と平明なビートテクスチュアに被る、静淑な様式美を湛えたもの。日本盤Bonusの"Epilogue"同様、これもある種の"Demo Track"のような風体。





Artworks.

"Omnicultural"というアルバム・コンセプトを代表するように、世界中の文化・宗教的な象徴を一身に纏った女性の顔が、こちらを見つめている。"A Posteriori"と同じモデルと思われる。頭上に"7"の数字。暗紅色の背景には六芒星の影。

幾何学的なモチーフが随所に散りばめれ、カメラの絞り/焦点リングをデフォルメしたような計器、装置の類いが認められる。Enigmaの持ち合わせる自然科学的、(どちらかというとSF寄りな)ニューサイエンスに根ざした観念を象徴するようでもある。




Compression of "Many Faces, Seven Lives".

これまでに遠い過去から異国の景象、遥か銀河系やイデアの世界、そしてインナースペースまで彷徨してきたEnigmaの音楽世界。今作では「未知」ではなく、人々の記憶に潜在する「既知の形象」に干渉し、コントロールしているイメージを憶えた。

絵画的に言えば、描かれた肖像の背景にある窓の遥遠に広がる蒼昊、更にその深層に瞬く星々と同時に、実在の依拠であるスクリーンの裏地の触覚をも喚起する。


人間の心と躯、肉体の各部位を司る五体感覚の機軸に精神があるように、"Seven Lives many Faces"は七様の魂に「音」という名の無数の仮面を纏って、聴くものを彼我の境界を超えた幻想の舞踏へと誘う。目にする光景、触れ合う表層、心の声、蠢く衝動・・・何処までが「自我」で、何処からが「外在」なのか。私たちの魂とは"Maze of Time(時の迷宮)"に囚われた絡繰り仕掛けのイリュージョンに過ぎないのだろうか。


"Let us try to live our lost illusions
Theyre the sun at night
If we dont well never taste
The spice of life" 
  -"Prism of Life"



今作品の一連の楽曲を結びつけるSyntaxを読み取ろうとして、その語るべきことのあまりの多さに驚いた。取り留めの無い印象や感情を捉えようとすればするほど、その間断に無限の深みが顕われる。

作品自体は決して過飾に陥らず、むしろ空虚で闇然とした相貌すら覗かせているものの、一曲一曲に、過去20年間、6枚のアルバムで掘り下げて来た要素が圧縮されているからこそ、その因子ごとに論及に足る解題を施すことが可能なのだろう。


そしてEnigmaのアルバムはどれも、聴く毎に、或は時を経るごとに、まるで異なる表情を私たちに覗かせてきた。それが自らの変容の鏡像なのか否か、どちらにしろ、これからも一生をかけて、この作品に対する評価と印象を変化させていくのは間違いない。



"A Posteriori"より「Enigma」のロゴとして用いられている、"E"を模したギリシア・アルファベットの"Σ"。数学の文脈では「数列の総和(Summation)」を意味する文字であり、過去の作品の魂や表情とも言うべきエッセンスを統合するような"Seven Lives Many Faces"の試みは、正に1990年、Enigmaの誕生と同時に発芽した"MCMXC a.D."の種子たる真性が、時代の変遷を辿ってホメオティックに形態を発展させるプロセスを物語るものなのかもしれない。