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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Enigma / "SEVEN LIVES MANY FACES" DVD-Album.

2008-12-17 20:48:30 | Enigma
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□ Enigma / "Seven Lives Many Faces" DVD Album.

>> http://www.enigmaspace.com/
>> http://www.enigma.de/

Release Date; 28/11/2008
Label; Virgin
Cat.No.; WD2661039
Format: DVD-Video.


Dslmfcase1 Dslmfcase2


>> contents.

01. Encounters
02. Seven Lives
03. Touchness
04. The Same Parents
05. Fata Morgana
06. Hell's Heaven
07. La Puerta Del Cielo
08. Distorted Love
09. Je T'aime Till My Dying Day
10. Déjà Vu
11. Between Generations
12. The Language Of Sound

incl.
Audio Comments by Michael Cretu (Germany/English)
Photo Gallery


[Specification]

Colour Code: 1.78:1 (4:3 Letterbox)
NTSC
Region Code: Free


Audio Format:
Stereo,
Dolby Digital 5.1
DTS 5.1 96/24


Running Time:
Approx. 47:37



Director: Thomas Job

Audiovisual recording by Baloo Music
Production: IMAGION AG / Zeitreise/ Saintcirgl Co-Production
Postproduction: Schönheitsfarm Hamburg.



Music and lyrics by Michael Cretu, Margarita Roig (Track7, 11), Andru Donalds (Track 8, 9). All songs published by 1-2-3 Music / Crocodile Music. Produced by Michael Cretu. Non-digital voices by Andru Donalds (Track 2, 4, 8, 9). Nikita C., Sebastian C., Margarita Roig. Digital and orchestral world programmed and performed by Michael Cretu. Recorded and mastered with the ALCHEMIST and ADAM 6.5 AMC Monitoring System A.R.T. Studios Ibiza/ Spain. Director: Thomas Job. Artwork by Dirk Rudolph. Photos by fotolia.de, Rosemary Robenn. Management by Crocodile Music.


>> See also:
lens,align.;Enigma / "Seven Lives Many Faces" Review.
(※ 当レビューは上記エントリーを再構成したものです。)



Enigmaの7thアルバム、
"Seven Lives Many Faces"のVisualization Album。


Visual.

映像監督は"Push the Limits"、"Gravity of Love"で鋭敏なセンスを見せつけたThomas Job。内容は、過去におけるEnigmaの「殆ど全ての」Video Clipを、プログラミング加工してRe:Constructionしたもの。

中には未使用フィルムも追加されているが、楽曲それぞれの音やテーマに即した映像が付されているとは、一概に言い難い。音声信号に合わせてビジュアライゼーションされるコンテンツはまだしも、過去の映像を、寓意や美学が凡そ感じられない手段で無理に引用しているシークエンスは、興ざめと言う他無い。


"The Same Parents"と"Je T'aime Till My Dying Day"には例外として新たなマテリアルが提供されているが、2曲とも抽象性の高いGraphic Artの様相を呈している。


[menu]

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メニュー画面では、"SLMF"のアート・モチーフである機械装置が層状に回転運動。背景には本作の映像のハイライトがレイヤーされている。Photo Galleryでは、Michael Cretuの立ち姿が若干数閲覧できる。



Audio.

本作の実用価値は5.1ch Surround Mixにあるはずだが、通常の2ch Stereo Surroundと比べて顕著な効果が聴き取れない。確かに5.1chの音声信号を出力しているようだが、センターとリアスピーカーの定位が弱い。Cretu自らがミキシングした"A Posteriori"のDVDと比較すると、そのレベルの差は歴然。これが意図的なミキシングなのかどうかは現在のところ不明で、海外では音響面への不満やライティング・ミスだと指摘する声が高い。


ただ、5.1ch モードでは明らかに出力形式が異なり、あえて通常サラウンドを強化したものだと受け取ることも出来る。"MCMXC a.D." DVDの5.1chサラウンドも、ほぼ同様の仕様であった。元々Cretuは"Seven Lives Many Faces"の5.1ch化には消極的であり、今回はStereo信号をPrologicでDolby Digital/DTS音声にコンバートしているという見方が強い。


コメンタリは、各曲それぞれにCretu自身が語る数行の要約が挿入されるもの。これまでCretuがメディアに出して来たEPKを始めとするofficial commentのソースにあたるようだ。

前作からArtworkを手がけてるDirk Rudolph。プリントの撮影はCretu宅の近所にあるFrank Grimm氏のスタジオで行われたという。




Enigmaが「七転生」を経て辿った記憶の光景を虚ろに映し出す"Seven Lives Many Faces"の幻燈。以降、一曲一曲について、その顔たちを明かして行こう。



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1. Encounters                 .

七つの星、七の日月、七つの封印、七つの扉
七天使、七様の空、七つの罪、七つの命
七つの塔、七の目、七不思議、七つの命
痕跡、 無数の顔 忘却の彼方へ



"Turn Around"のVideoにおいて、私たちをめくるめく記憶の迷宮に招いたmonolithが、暗紅色に澱んだ深淵より再臨する。人間を最も高揚させるという宇宙と生命の律動の接合点、『心拍』のダイナミズムに委ねて、EnigmaのトレードマークであるHornのモチーフへ。脈打つ鼓動と血潮の満ち引きを象徴するように、映像は深い赤を基調とする。

かつて"Beyond the Invisible"で迷い込んだ蠱惑的に蠢く森の中、天界のように煌めく重厚なアトモスフィアに重ねて、透明感のあるウィスパリング・ヴォイスと、従来のイントロに比して極めて異質と言える環境音のノイズが"Maze of Time"の扉を開く。


Non-Creditの女性Narration Voiceは、Crocodile MusicのProject Managerを務め、バンド経験もあるSusanne Flug。また、今アルバムではクレジットされた"Non-Digital Voices"のヴォーカリスト以外に多くの声がサンプリングされており、その多くはNanuk(inuit/イヌイット語で『北極熊』の意)或は、ALCHEMISTによるジェネレート・ヴォイスによるものと思われる。

Commentaryでは、Cretuが『7』という数字の持つ様々な伝承的意味合いについて語っている。



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2. Seven Lives                 .

Traces, many faces
Lost in the maze of time
Blinded by the darkness
That's the start of the seven lives



水を湛えた仄暗い空間に佇む美女。彼女は戦装束を纏いながら、過去に鎖された時に委ねて、猥りがわしい昂揚と官能のフラッシュバックに身を躍らせる。楽曲的にも同じ類型に属する"Push the Limits"と"Mea Culpa"の光景がシャッフルされている。


Andru Donaldsによる感情的なVocal Track。Synthによる疑似オーケストラとBronx Hip-Hopをブレンドしたソリッドなアレンジメント。Enigmaのお家芸であったピチカートと打ち込みリズムの同期が復活。導入部のオリエンタルなストリングスとフルートの絡みが、多くに指摘されるように、あのSchillerの方法論と酷似している。

懐かしくも"Find Love"を思い出させる間奏部では、初期Enigmaに顕著な特徴であったアシッド・ハウス的なパッド展開とBizarreなRap、奇怪な啼声が織り混ぜられ、ヴォーカル以外の楽曲の半分近くを、そのダークで悪夢的なシークエンスで分断して硬質なコントラストを演出。


共にシングル・カットされた"La Puerta Del Cielo"同様、こうして序盤から"A Posteriori"に欠けていた多層的なビートの抑揚とダイナミクスが再び前面に出され、リズムとサウンドの機械的な旋推力が重く響いている。アウトロには、1st Albumから"Mea Culpa"で用いられた馬蹄の音がデジャヴする。



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3. Touchness                 .

わたしに触れて そしてキスして
-上から下まで-



クレトゥ『"Touchness"は特に素晴しい仕上がりとなった。この激しい官能の世界は私にとって、あの"Sadeness"に裏打ちされた新境地だからだ。愛し合う人々の迸る感情と溢れ出る想いを描いている。』


色彩に憂いと激情の「赤味」を帯びた"Gravity of Love"のイメージがフラッシュバックし、貪るような業と愛欲の衝迫が、より露骨に表現されている。


寂寞とした雨音とヴァイオリン、ギターソロから、シンプルだがくぐもった響きのドラムが一遍のスクラッチ・フィルムの様相のイントロ。官能の色を帯びたSusanne Flugの呻きと心の声の二面性が露になる。"Je T'aime Till My Dying Day"のシャウトが一瞬覗かれる。

この性的なイメージを喚起する吐息や喘ぎ声は"Sadeness"以来ずっと聴かれて来たものだが、"Seven Lives Many Faces"に至ってはテーマ的と言える程、ほぼ全編に渡って聴くことが出来、後半においてそのルーツが明らかにされることとなる。


不気味でシュールな浮遊感に乗せて、耳を劈くアトモスフィアとストリングスの破壊的なまでに尖鋭なディゾナンスが刺激に満ちた楽曲。オーケストラル・ヒットとダイナミックなChoir Chorusは過去のCretuプロデュース曲においても顕著で、時代に遡行して80's独特のシニカルな軽さを臭わす特徴的な作風となっている。



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4. The Same Parents              .

We all had same parents, Many million years ago
Why can't we live in freedom Without hunger, with no war

At the beginning we all had One mother, and one father
That's where we're descending from

I don't, I don't understand Why so much hate
Between races and religions It's mad, insane
I don't nderstand Why it has to be like that.



Videoはここで初めてのオリジナル・シークエンスを迎える。時間制御された闇の中、瞋恚の焰ともいうべき火炎が順々と灯り、シンプルだが強烈なモノローグが重ねて表示される。高速度カメラで捉えられた火球は、人間の肉体美に驚くほど相似している。

音楽における抽象的な歌詞の解釈多様性・普遍性は、聴く者の認識及び概念を結晶化する引力となり、視覚を介した形象のダイナミクスと時間発生的に相同するものがある。


MichaelとSandraの間に生まれた13歳になる双子の兄弟、SebastianとNikitaによるDuet。Sebastianの静かながら直情的なモノローグに重なる悲哀に満ちたマイナーコードのアトモスフィアとクラシカル・ギターリフ("Sadeness"のグロッケンシュピールのモチーフに対応している)の後、重々しいスロービートに乗って、Michael Cretuの面影を受け継いだNikitaのリード・ヴォーカルが、陰なる冷たいエコーを背負って響き渡る。後半のドブロ・ギターが東欧的で寂しげな旅愁の色を添えている。太古から今も続く人間の彷徨を描いているように思える。

今作で私が最も好きな曲。月明かりに黒々と連なる山の尾根の輪郭が目に浮かぶ。



TVで歴史ドキュメンタリーを見たSebastianが、「僕たち人間は太古の昔、同じ両親から生まれたのに、どうして殺し合わなければならないの?」と父に疑問を訴えたのが曲の成り立ちであり、着想からあっという間に完成を迎えたという。

Geneticsの見地からも、人類の出自についての認識は全く正しい。しかし、この曲の解釈については、キリスト教圏で蔓延しているID論(創成者が人間を形作った)支持者から批判の声もある。思想の自由は結構だが、その思想の下に繰り返した愚かな悲劇を反芻し、人類として賢明に生きよと訴えるのが、この曲の趣旨であることを覚知するべきだ。


何処かペダンティックにソフィスティケイトされたEnigmaの観念的な音楽において、これほど淡々とした、しかし確たる炯眼を放つ曲調でありながら、今アルバムにおいては圧倒的な存在感を放っている。



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5. Fata Morgana               .

"A Posteriori"と共通の、漂蕩としたトランジション。実はここまでの全ての曲がC-Minorを基調としている。C-minorはMichael Cretuのイニシャル(M.C.)の鏡像であり、彼自身が最も好むコード。これまでのアルバムにも仕掛け的に様々な意匠を以て潜んでいる。

"Take me now"というサンプリング・ヴォイスに促されるように、軽快で小気味良いリフが挿入され、ギターが激情を煽るように叫ぶ。これも80年代の爛熟したRock/Popsの響きを帯びた、中盤に競り上がるシンセ・ストリングス以外に展開に乏しい箸休め的な間奏曲の趣。触れた瞬間に消え去ってしまう『Fata Morgana(蜃気楼)』と、美しい女性や歌姫たちに象徴されるAnimaへの渇望と哀美な憧憬を重ねていると、クレトゥは語る。

また、Enigmaにとって"A Posteriori"以降に確立された特色である、柔らかい膜状の界面を叩くようなカリビアン・ビートの肉感的なリズムが、此処から徐々に顕著となる。



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6. Hell's Heaven               .

クレトゥ『地獄と天国について知る者は居ないが、地獄に天国を、天国に地獄を想像することも出来る。このようなパラドックスと循環が我々をコントロールしているのかもしれない。象徴として、天上の美麗なアトモスフィアの中に、荒々しく澱み、割れたサウンドを置いている。』


"Gravity of Love"のPVにおいて、天井に宇宙空間とネビュラが顕現するシーンの時間を静止。音楽に合わせて光を加工するヴィジュアリゼーションを施している。異空間に踊る光の乱舞は時折、意思を持った知的生命体のようにも振る舞う。


引き続き、"A Posteriori"を継承した導入。70年代のディスコ/シンセサイザーミュージックのレトロなSci-Fiサウンドが聴けるが、この部分について、日本盤のライナーノーツの大伴氏の考察が非常に参考になる。

『(前略)かつてのTangerine Dreamのシンセ・ロック、あるいは70年代後期のGiorgio MoroderやHarold Faltermeyerらのディスコ系スクリーン・ミュージックに通じる』


異存はないが、私にはそれ以上に、"A Posteriori"で打ち出した刻一刻連綿と変化するSynth Symphony調の作風は、寧ろ初期のJean Michel Jarre、とりわけ"Oxygene(邦題:幻想惑星)"へのオマージュにより近く聴こえる。

もちろんそれだけではない。"Hell' s Heaven"は、"Seven Lives Many Faces"の流れを俯瞰した場合の折衷点とも言うべき複雑な要素を幾つも兼ね合わせている。金属的な残響を重ねたCutting Edgeなビートと、機械的に定位を移動させるEffectはAutechreを彷彿とさせるし、ポリフォニックなシンセのストロークはSashaの名盤、"Airdrawndagger"にすら似通っている。

そして次曲"La Puerta del Cielo"のシンセベースが中盤において一度提示されている。


Classicalなstringsが静謐で上品な響きを添える終曲部は、"Seven Lives Many Faces"の根底に流れるfluencyでPost-Modernなアートウェーヴを十分過ぎるほど代弁するシークエンスとなっている。ここら辺は何処かRollo Armstrongによる、Instrument主体でEnigmaの楽曲をRemixしたAlbum、"The Dusted Variations"(2005年リリースのBox set "15 years after"に収録)を意識させる。

ちなみに、『バッハやベートヴェンが現代のテクノロジーを手にしたら、私と同じことをしたはず』とはCretuの弁。



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