日本国憲法「改正」の第一歩として改憲手続きを定めた憲法96条の改定をねらう動きが強まっています。安倍首相は2013年4月23日に、
「当然、この7月の参議院選挙においてもですね、われわれは堂々と、96条の改正を掲げて戦うべきである」
と述べました。
そこで、今国会にそのための法案を提起し、参議院選挙の争点にもするという動きが自民党、維新の会などから出ています。日本維新の会の橋下徹共同代表は25日の会見で、96条について、
「96条っていうところに問題があるかどうか、大きな方向性を決めるのが、今度の選挙ですよ。96条改正という方向性で、今、自民党や維新の会、同じ方向性を向いていますから」
と述べました。
このように、現行の憲法では、改憲の発議に必要な要件は「衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成」となっていますが、それを「衆参両院の総議員の過半数の賛成」に緩和する方向の改定が提起されようとしているわけです。
これらの憲法96条改定の政治的なねらいは、改憲派の最大の目標である憲法9条改定=国防軍・集団的自衛権、基本的人権保障の縮小・戒厳令の制定に向けて、そのハードルを低くする、あるいは、国民に改憲の体験を積ませることで改憲に「慣れ」させるところにあることは明白です。
しかし、近代の立憲主義において、憲法というのは、主権者である国民が国家権力を抑制するという考え方にもとづいてつくられています。国家による権力の濫用から国民の自由を守るのが憲法であり、立憲主義の立場です。ですから、そのために憲法改定の要件も、時の権力者の都合の良いように憲法を改定することが 難しいようにされています。これは立憲主義の要請なのです。
なぜ日本国憲法96条は憲法改正をしにくくしているのか 「笑顔のファシズム」に気をつけましょう 改訂版
よく日本の憲法は「世界でも特別に変えづらい」「国会で憲法改正の発議ができないから国民投票できない」ということがいわれますが、これはデマです。安倍さんや橋下さんは「国民に改憲の機会が与えられていないのは民主主義に反する」「国民の手に憲法を取り戻す」などと言っていますが、法螺もいいところなのです。
たとえば自民党は、「世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正しているのに対し、日本は戦後一度として改正していない」として、諸外国では、何度も改正された実績があることも強調しています。
確かに、各国が憲法改正をした回数を見ると、戦後だけでも日本は0回なのに米国が6回、フランスが27回で、ドイツは59回にも上っています。
ところが、たとえば、アメリカでは上院、下院の3分の2以上の賛成、さらに4分の3以上の州議会での承認が必要です。フランスでは各院の過半数の賛成に加え て、両院合同会議の5分の3以上の賛成、そして国民投票という手続きが規定されています。ドイツでも連邦議会の3分の2以上の賛成、さらに連邦参議院の3分の2以上の賛成が必要です。ちなみに、それから韓国も国会の3分の2以上の賛成と国民投票が必要とされています。
すなわち多くの国で、通常の法律をつくるよりも厳しい規定が設けられており、これは国民主権と立憲主義との要請に立ったものなのです。日本だけが特別に憲法改定が難しい国であるという主張が、まず嘘なのです。
そして、このように主な先進国は日本より厳しい改正要件なのに、多数回の改正ができています。その中身は統治機構の整備以外は人権保障を手厚くする方向のものがほとんどだったからこそ改正できたのです。
逆に言えば日本の「改正」案は憲法9条を変えるだの、有害無益なものばかりだから議会で3分の2の承認が得られてこなかったのです。今回の自民党案など立憲主義にも反する封建主義憲法です。
総選挙の争点5 安倍自民党のトンデモ改憲案は大日本帝国憲法より醜い封建主義憲法です
これでは議会の過半数でないと賛成を得られないのは当然です。つまり、ろくでもない改憲案だったからこそ戦後一回も改憲できなかったのです。それをごり押しできるように過半数の議員が賛成すれば憲法改悪でもできるようにするなど本末転倒でしょう?
憲法は国家権力の濫用を防いで国民の人権が侵害されないようにする立憲主義は、時の権力者にとっては極めて邪魔なものです。ですが、憲法改定にあたっては、時の政権党だけではなくて、そのときの野党も含めて、国会の圧倒的多数が合意してはじめて発議できるというのは立憲主義の当たり前の姿です。
この規定を変えて、通常の法律と同様の「過半数」ということにしてしまったら、憲法が時の権力者の都合が良いように簡単に変えられてしまうことになります。邪魔な立憲主義を蹂躙して、国民の人権を侵害するのが今回の自民党案です。
総選挙の争点7 安倍自民党の「憲法改正」案なら基本的人権の保障は大日本帝国憲法に逆戻りする
これに対して国民投票の規定があるというかもしれませんが、国民投票で判定できるのは、国会が発議した改憲案に賛成か反対かだけであって、憲法改定案の内容を 変えられるわけではありません。しかも、自民党の改憲案では有権者の有効投票数の過半数でいいということになっています。これでは60%の投票率で無効票が2%あったら、総有権者の29%を超える賛成があれば改憲されてしまいます。
このように国会の発議というのは非常に重要な要件であって、それを変えるということは立憲主義の根本に関わる問題なのです。
憲法96条改定の動きというのは、主権者である国民が国家権力を縛るという立憲主義の根本を根底から覆すものであって、絶対に許してはならない、憲法のあり方を変えてしまう致命的な事態です。
なにが国民の手に憲法を取り戻す、か。時の政権が封建時代のように暴政することのできる力を取り戻すだけです。
一般国民は大反対して当たり前なのです。
デマが通れば道理が引っ込むではいけません。
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(東京新聞「こちら特報部」2013年4月13日)
「日本だけ厳しい」はウソ 憲法改正のルールを定めた九六条の改正に向けた動きが加速している。自民党は、日本の憲法改正要件は、諸外国の中でとりわけ厳しいと主張。改憲を悲願と する安倍晋三首相は要件の緩和に意欲を燃やす。だが、外国の要件はそんなに緩くない。改憲のハードルを下げることに危険はないのか。九六条改正論を考え た。 (小倉貞俊、佐藤圭)
憲法改正の手続きを定めているのが九六条。衆参両院で総議員の三分の二以上の賛成で、国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を得て初めて改正が実現する。自民党は九六条を改正し、国会の発議要件を三分の二以上から過半数に緩和しようとしている。
「世界的に見ても、改正しにくい憲法になっている」。自民党はホームページ上の「憲法改正草案Q&A」で、日本の憲法の特徴をこう解説。諸外国に比べ、改憲のための要件が特に厳しいと指摘している。
だが、日本と比べ、諸外国の改憲要件が緩いというのは、本当なのか。
明治大法科大学院の辻村みよ子教授(憲法学)は、「日本の改正手続きは国会だけでなく国民投票を経なければならない点で厳格とはいえるが、各国と比べて格別に厳しいわけでもない。むしろ圧倒的多数の国では、日本より厳格な手続きを定めている」と指摘する。
例えば、米国では上下両院の出席議員の三分の二以上の賛成で改憲を発議。全五十州のうち四分の三以上の州議会で承認される必要があり、ハードルは決して低くない。
ドイツでは連邦議会、連邦参議院のそれぞれ三分の二以上の賛成が必要。フランスは両院の過半数に加え、両院合同会議の五分の三以上の承認がいる。一院制の韓国では、国会の三分の二以上の賛成を経た上で、国民投票も実施される。
議会の議決要件こそ過半数で構わない国もあるが、二度の議決に加えて国民投票を経るデンマーク、州議会の承認も必要なカナダなど、いずれも改正は容易でない。
改正に厳しい条件を付けている国が大多数で、これを「硬性憲法」と呼ぶ。対して、通常の法改正と区別しないのが「軟性憲法」で、そういう国は、成文憲法を持たない英国やニュージーランドなどごくわずかだ。
自民党は、「世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正しているが、日本は戦後一度として改正していない」として、諸外国では、何度も改正された実績があることも強調している。
確かに、各国が憲法改正をした回数を見ると、戦後だけでも米国が六回、フランスが二十七回。ドイツは五十九回にも上っている。
これには、各国の事情がある。辻村氏は「改憲の回数が多い国では、憲法が通常の法律のように細かい点まで規定しているため」と説明する。
「ドイツでは欧州連合(EU)統合に伴う改正など、外的環境の変化による必然的なものだった。フランスも同様のケースのほか、大統領の選挙制度や任期短縮 といった統治機構の改革に関する事例だった」。ただ、両国の憲法とも、国の基本原理に抵触する改正は許さないように歯止めをかける条文があるという。
改憲は、自民党結党以来の党是だ。与党の公明党は慎重だが、日本維新の会、みんなの党などは賛成で、民主党内にも推進派がいる。
夏の参院選の結果によっては、推進派が「衆参両院で三分の二以上」を占める可能性が出てくる。九六条改正によって、九条を含む憲法改正の突破口にしようというのが、自民党などの戦略だ。
当初、安倍政権は経済政策を優先し、改憲についてはあまり強調していなかった。だが、ここにきて、九六条改正に向けた動きが活発化している。九日には、安 倍首相と、日本維新の会の橋下徹共同代表らが会談し、九六条改正を目指すことで一致。十日には、自民党憲法改正推進本部の保利耕輔本部長が、今国会に九六 条改正案を提出する可能性に言及した。
改憲要件の緩和には、多くの学者から疑義の声が上がっている。
沖縄大学の小林 武客員教授(憲法学)は、「そもそも日本国憲法は『全百三条のどの条文を変えるにしても、必ず九六条の手続きによらなければならない』というのが前提のは ずだ。例えば『九条を変えたい』というなら、現行の九六条の手続きのままで国民に正々堂々と問うべきだ」と指摘。「憲法の命綱ともいえる改正手続きそのも のを緩くして、権力者が思いのまま目的を果たそうというのは国民への欺瞞(ぎまん)でしかない」と批判した。
改憲論者として鳴らす小林節・慶応大教授(憲法)も「立憲主義を無視した邪道だ」と断じる。
「憲法とは、主権者・国民大衆が権力者を縛る手段だ。だから安易に改正できないようになっている。改憲マニアの政治家たちが憲法から自由になろうとして改 正要件を緩くしようとするのは愚かで危険なことだ」。小林氏は九条を改正すべきだと考えている。それでも「自民党が改憲をしたいのであれば、説得力のある 案を提示し、国民に納得してもらうのが筋だ」と話す。
九条改正に反対の立場の水島朝穂・早稲田大教授(憲法学)は「九六条は単なる手続き規定ではない」と強調する。
「権力を拘束・制限・統制するという内容の重さゆえに、憲法の改正手続きは重くなっている。憲法が法律と同じく、衆参両院の過半数で変えることができるようになれば、憲法は憲法でなくなる」
水島氏は「自分たちの都合にいいように試合のルールを変更すればブーイングを浴びる。そういう恥ずかしい事とは知らずに、自民党の政治家たちは、九六条改正を大きな声で叫んでいる。憲法の本質を分かっていない」と批判した。
護憲派重鎮の奥平康弘・東京大名誉教授(憲法)は「九六条改正は憲法の死刑宣告だ」と悲愴(ひそう)感を漂わせる。
「自民党にとっては結党以来、憲法改正とは九条改正であり続けてきた。九六条改正先行論はいつか出てくると思っていた。九六条が改正されてしまえば、九条改正は時間の問題だ」
◇
今夏の参院選の結果によっては、初めての改憲が現実味を帯びてくる。国家の大転換となるテーマなのに、議論が深まっているとはいえない。改憲に向けた動きをさまざまな角度からチェックしていく。
<デ スクメモ> 全体に感じるのは、自民党の巧みな「世論操作」だ。世界からみて、日本の憲法が異常であるように言い立てる。アベノミクスが好調な陰で、改憲 に向けた歩みをそろりと進める。気がついたら、九六条が改正されていたとなっては、取り返しがつかない。ここは、腹を据えて取り組んでいきたい。 (国)
憲法改正には、国会が発議し、国民投票の手続きが必要で、96条では、発議要件は衆参両議院の3分の2以上の賛成が必要と定められている。
これを、2分の1に下げようというもの。
しかし、改正に反対する一部の民主党議員らが25日、議連を発足させた。
日本維新の会の橋下 徹共同代表は、25日の会見で、96条について、「96条っていうところに問題があるかどうか、大きな方向性を決めるのが、今度の選挙ですよ。96条改正という方向性で、今、自民党や維新の会、同じ方向性を向いていますから」と述べた。
橋下代表は、夏の参議院選挙で、自民・公明とあわせて、憲法改正が可能となる、3分の2以上の議席の獲得を目指している。
21日、安倍首相は「私は、第96代の総理大臣になりますが、96条を変えたいと思っている」と述べた。
23日、安倍首相は「当然、この7月の参議院選挙においてもですね、われわれは堂々と、96条の改正を掲げて戦うべきである」と述べた。
参議院選挙が迫る中、安倍首相は、選挙で憲法96条の改正の是非を問う姿勢を繰り返している。
一方、こうした動きに対し、憲法改正に慎重な勢力も動きを見せた。
民主党の近藤昭一議員は「安倍政権が96条の改正に非常に積極的であるということ、そういうことに対して、私たちは非常に危惧を持ったということであります」と述べた。
菅元首相ら、民主党を中心とした20人近くの議員は25日、憲法96条改正に反対する議員連盟を発足させた。
民 主党の辻元清美議員は「彼(安倍首相)の論理は、予算委員会などでも言っていましたが、国民の手に憲法を取り戻すんだということを言っています。これは、 私は履き違えた認識だと思っております。それは、むしろ国民の手から、権力者が憲法を奪うことになりかねないと」と述べた。
しかし、民主党内からは、別の声も聞かれる。
民主党の笠 浩史議員は「96条の3分の2要件を2分の1に引き下げていくということについては、従来から主張もしておりますし、やはり96条の改正がしっかりと盛り込まれるように、私はそのことは発言していきたいと思ってます」と述べた。
憲法96条の改正に前向きな議員は、日本維新の会、みんなの党の有志議員とともに、すでに議員連盟を立ち上げていて、民主党内の意見は真っ二つに割れている(FNN 2013年4月26日)。
【憲法96条改正】3分の2の意味考えたい |
2013年04月15日07時38分 高知新聞社説 |
そんな中で、当面の焦点になっているのが、国会が憲法改正を国民に提案する際の要件を緩和する96条改正だ。安倍首相が就任後、96条改正を先行させる考えを繰り返し表明していることが背景にある。
だが、96条改正は単なる手続きの問題ではなく、憲法のありようそのものに深く関わる。拙速を避け、慎重な論議を強く求めたい。
96条は、憲法改正は衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成で発議し、国民投票で過半数の賛成が必要と定めている。発議に必要な議員の賛成を「過半数」に緩和するのは、改憲へのハードルを下げる狙いがある。
改憲を主張する人たちは米国やドイツなどの例を持ち出すことが少なくない。第2次大戦後、昨年4月までに米国では6回、ドイツでは58回の憲法改正が行われたが、日本は一度も改正されていないと言いたいのだろう。
だが、日本の発議要件が特に厳しいわけではない。米国では上下両院の3分の2の賛成で発議し、4分の3の州議会の賛成で承認となる。ドイツでは連邦議会と連邦参議院での3分の2以上の賛成を経て改正される。
両国ともに国民投票は設けていないが、議会の手続きは通常の法律などの単純多数決ではなく、より多くの賛成が必要な特別多数決を採用している。それでも改正が実現できたのは、党派を超えて改正の必要性が共有されていたからだろう。
厳しい改正手続きを持つ憲法は「硬性憲法」と呼ばれるが、日本をはじめ多くの国がなぜ採用しているのか。それを考えることを抜きにして、96条の改正は論議できない。
「立憲主義」は
憲法は、いうまでもなくその国の原理・原則を定める法だ。日本国憲法が「最高法規」の章を設け、98条で国の最高法規であることを明記するとともに、99条で天皇や国務大臣、国会議員らに憲法を尊重・擁護する義務を課しているのもそのためだ。
仮に、憲法が容易に改正できる仕組みだったとする。政治的な多数派が発議して改正が実現した場合でも、次に多数派が交代したときに元に戻す動きが出るかもしれない。むろん、硬性憲法でもそうした可能性はあるだろう。
だが、時の政治勢力の都合で憲法がくるくる変わるようでは、最高法規としての安定性は大きく損なわれる。混乱を避け、幅広い意見をまとめる土台として採用されたのが硬性憲法といってよい。
より根本的な問題として、近代憲法の本質である「立憲主義」との関係がある。憲法は人々の権利や自由を確保するために国家権力を縛る、というものだ。改憲論者である日本維新の会共同代表の橋下大阪市長も、その点は肯定しているようだ。
だが、発議要件の緩和によって権力側の改憲意思は通りやすくなり、権力を縛る意味は緩くなるだろう。安倍首相は先の衆院予算委員会で96条改正について「憲法を国民に取り戻すため」と述べたが、逆ではないか。
多くの国民は憲法改正が優先課題だとは思っていないだろう。政治が先走って96条改正を急ぐ必要はない。私たち国民も時間をかけて、その意味をしっかりと考えたい。
安倍政権が参院選の争点に据える憲法改正論議
2013年04月17日
安倍晋三首相は、夏の参院選の争点に憲法改正を据えて戦う意欲を見せている。4月9日の衆院予算委員会では、改憲案の発議要件を定める憲法第96 条の改正について言及。「まず96条を変えて、新しい憲法をつくることが可能になれば議論が活発になる」とぶちあげた。菅義偉官房長官も7日の講演で、 「参院選では憲法改正が争点になるだろう」と発言した。
参院選に向けた連携を模索する動きも活発だ。安倍首相は9日、首相官邸で日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長と会談。表向きは大阪市の街づくりに対す る橋下氏の要望を聞く形だったが、安倍首相と同じく参院選で憲法改正を争点にしたい橋下氏との思惑は一致している。同じく改憲論者の石原慎太郎共同代表も 「改憲が参院選の焦点だ」と言い切る。
自民党と連立を組む公明党は、環境権やプライバシーについて憲法に書き加える「加憲」を唱えているが、菅官房長官は8日の記者会見で、憲法改正にあたっ ては環境権を明記すべきだと公明党に配慮を見せるなど、自公連立を崩さない形で、日本維新の会を取り込み、憲法第9条改正の布石となる憲法第96条の改正 に必要な“数”を確保する構えだ。
憲法第96条改正でハードルを下げる
憲法第96条にはどのような文言が書かれているのか。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
つまり、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」の部分を「各議院の総議員の2分の1以上の賛成」などに書き換えることでハードル(発議要件)を下げ、それによって国会議員の中でも議論が分かれる憲法第9条改正に踏み切ろうというわけだ。
こうした動きに対し政治評論家の田原総一朗氏は、「憲法改正の手続きを容易にして、憲法のどこをどう変えたいのだろうか。本来ならその論議を十分に行う べきだが、それがない。メディアも報道しない。第96条の論議ばかりがされているのを見ると、問題の本質を避けているようにしか思えない」と危惧する。
自衛戦争のための自衛軍を持つべきか
田原氏の指摘する問題の本質とは憲法第9条の改憲論議である。田原氏は「私は戦争を体験している世代である。戦後70年近く、憲法第9条第1項があるお かげで、日本は大きな過ちを再び犯すことなくやってきた。戦争放棄をうたった平和憲法の第9条第1項は、変えてはならない」と説く。
憲法第9条にはどのような文言が記されているのか。
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
日経ビジネスオンラインの記事で、憲法学者の小林節慶應義塾大学教授は、「9条は、1項で戦争放棄を謳っている。それから、2項で、戦争放棄という目的から戦争の道具を持たない、すなわち戦力不保持と交戦権不保持を謳っている」と説明する。
だがその一方で、「戦争をどぶに捨てた上で戦争の道具を持たない。よって戦争は起きない。永遠に平和だ、という理屈です。これは、はっきり言って 空想です」と指摘する。「憲法9条は、1項は戦争放棄、2項は戦争の手段放棄を謳っているが、実際には我が国には自衛隊がある」からだ。小林教授は、「独 立主権国家である以上、自然権としての自衛権がある」「しかし2項では戦力は放棄している」から矛盾が生まれるという。
小林教授は「憲法である以上、国家をきちっと縛らなければならない。縛るためには、まず読んでわかるような憲法でないといけない」と説く。
「1つは、間違っても二度と侵略国家にならない。侵略戦争放棄。これは『国際紛争を解決する手段』云々ではなくて、侵略戦争放棄と書く。もう1つ は、自衛戦争はやると書く。つまり、我が国は間違っても他国を軍事力で卑しめない。ただし、逆に他国が我が国の独立を軍事力で卑しめようとしたら、我々は 誇りにかけて抵抗する。自衛戦争はする。そのために自衛軍は持つ」と、解釈論に陥らないようにきちんと明記する。それが小林教授のいう改憲である。
国連決議と国会の事前承認等を憲法に明記
また小林教授は「立法趣旨に照らして海外派兵をせずに何十年も来たにもかかわらず、その精神と未体験をかなぐり捨てて、イラクとアフガンに事実上、海外派兵をしてしまった。すなわち事実上の戦争参加でした」と、自民党政権時代の対応を批判する。
「あらゆる意味で憲法の趣旨や歴史的認識を正しく理解していない政治家が、改憲論議をしている」「憲法を正しく理解していない政治家が前文で国民に国を愛 する義務を課すとか、海外派兵は法律で定めると語っている」「その時の相対的多数決いいかえれば政治の都合で何でも決めることができてしまう」「ルールを 守らないやつにルールの改正を論じられるのは明らかにおかしい、笑ってしまう話」と一喝する。
一方、集団的自衛権については、「国家である以上、自衛権があり、自衛権には個別的方法と、仲間と手をとる集団的方法の2種類がある。そこでは、別に切 り分けていない。自衛権の行使方法が2つあるだけです。それを、日本では苦し紛れに個別的自衛権と集団的自衛権に切り分けているだけです」という。 それはアメリカに頼まれればどこにでも行って戦争するということではない。それは「アメリカの傭兵になること」という。
「侵略戦争放棄、自衛戦争堅持。自衛権を持ち、保持する軍隊を、国際貢献のために必要な場合は海外派兵をする」と憲法に明記し、時の政権の解釈に委ねる 自由度を排除すべきと説く。そして、「海外派兵の条件として国連決議と国会の事前承認等を、憲法改正時に織り込む」よう主張している。
オバマ政権の不安の種は安倍首相の存在そのもの
一方、こうした安倍政権の改憲論議は、景気の行方にも影響しかねないと指摘する声もある。英エコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏は、「もし、安倍 首相が憲法改正論議を前面に打ち出してきたら、党や国民からの支持を失うリスクが高まるでしょう。政権が弱体化すれば、アベノミクスを遂行する能力に対す る懸念が、金融市場にも芽生えることになります」と警告する。
さらにアジアの周辺諸国に及ぼす影響も危惧する。憲法9条や自衛隊の問題に踏み込んだ途端、日本は国際的な評判を落としかねず、尖閣に対する主権問題で 中国暴動が再燃する可能性も高く、従軍慰安婦問題などで韓国が再び問題を提起して、世界の注目が日本に批判的な形で集まりかねないという。
⇒ 中国刺激する憲法改正論は市場の信頼損なう
また、英エコノミスト誌は日経ビジネスオンラインに提供した記事で安倍首相の訪米についてふれ、「通常なら米国も受け入れるであろう安倍氏の思想が今回 は歓迎されなかった。タカ派の安倍首相が中国を刺激しかねないとの懸念からだろう。オバマ政権は、日本国憲法の解釈を見直したいという安倍氏の願望を公然 とは支持しないことを明確にした」と論評した。
「参議院選挙で自民党が勝利し、安倍首相が両院を掌握すれば、日本の政治が直面する行き詰まりを打開できるかもしれない。そうなれば、構造改革を進める ことも可能になるだろう。だがそれで勢いづいた安倍氏が全面的な憲法改正に臨んだり、戦時中の残虐行為に関する認識を修正(ましてや転換)したりすれば、 日中関係は悪化の一途を辿る。米国が何より懸念するのはまさにその点である」とした上で、「オバマ政権にとって信頼しきれない対象があるとすれば、それは 安倍首相その人かもしれない」と斬って捨てた。
稲盛和夫名誉会長の重い言葉
戦後の日本経済をけん引してきた功労者である日本航空名誉会長の稲盛和夫氏は、「少し右翼がかった方向に政局が向かおうとしている。平和憲法をベースに 戦後の日本はやってきましたが、これが大きく変わる可能性が出てきた。全面的に憲法改正とまではいかないにしても、変わるかもしれない」とみる。
「そうなれば日本の立ち位置も大きく変化せざるを得なくなってしまうでしょうし、近隣諸国を含めた世界の目も大きく変わってくる。ですから、よっぽど腹を据えて、十分検討したうえで進めてほしいと思います」と、憲法改正については慎重にも慎重を重ねた議論が必要と説く。
この夏の参院選の争点に憲法改正を掲げ、単なる手続き論としての憲法第96条改正に走る拙速は、将来に禍根を残す結果をもたらす可能性が大きいといえるだろう。
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私は公立中学校で社会科を教えています。昨年の衆議院選挙以降、この国の行く末を大変心配していました。そんな中、先生のブログに巡り会いました。
先生のブログから勇気をもらっています。
私は、教え子を戦場に送りたくありません。人を殺せ!と教えたくもありません。国防軍をつくり、若者を戦場に送るように煽り立てる自民党、そして安部首相(自分の子どもがいないからそういう事がいえる!石波幹事長も子どもは女の子!)。「国防軍」ができたなら、自民党の国会議員のお子様から最前線に率先して行ってもらいましょう。そして、立派に「散って」もらいましょう。だって、先生方は「愛国者!」なんでしょう(笑)
ただ、いつも不思議に思うのが今の憲法では誰の命も守れないのでは?と思うのです。
というのも現行憲法は交戦権があやふやだったような気がするのです。それこそ、相手がミサイルを撃つか銃弾を撃つかしない限り攻撃をしてはいけないとさえなっていたような気がします。さらにいえば、これがしっかりと着弾しなければ攻撃と認めないという解釈もできたような気がします。
いざ、宣戦布告されて戦争が始まればそんなこと言ってられなくなりますが昨今中国、韓国、北朝鮮がうるさいですし、いつまでも後手後手に回る憲法ではいけない気がするのです。
よく「自分の子どもを戦場に行かせたくない」や「人殺しをさせたくない」と、耳にしますが。では、今自衛隊にいる方々はどうなるのですか。今、どこかの国が宣戦布告もなしに攻撃をしかければ真っ先に命を落とす事になるのは国を守ろうと志願した自衛隊員の方達ですよ。今の憲法では自衛隊員の命さえ守れないのだと私は思います。
よその国のいうことをただただ鵜呑みにしていては日本の主権と国土、国民を虐げられます。それを守るためにまず、言論による交渉が必要ですが万が一のための懐刀が必要になってくると私は思います。
言葉を獲得した。
なぜ今さら武器という牙を必要とする。
非武装中立と自衛権の両立を模索しないで牙に依存する、それは思考停止しているとしか私には思えない。
私はその道を小説として表現する。
「希望の路」、それは闘う非暴力。
歴史に「もし」はない、しかし日本が大東亜戦争後にこの決断をしていたら、憲法9条は最強の鉾となる。
まだ未完だけども更新を急いでいます。
http://blog.goo.ne.jp/uutenkaku28horumon2/e/d08711a62bf7b591ee79badd4b4d2d6a
天声人語、特高に志願しながら、長男であるため選にもれた方のことば、「彼らは『日本国憲法』に化身して、平和日本の礎となった」を紹介しています。
普通に「間違い」など、「相手が故意に騙そうとしている」というニュアンスを含まない表現でないと、
あなたのその「騙そうとしているという決めつけ」に違和感を覚える人が無駄に増えるだけです。
あなたがそう信じるのは構いませんが、「誰かを悪人に仕立てようとする意見」に聞く耳をもたない(参考にするにしてもかなり差し引いてしまう)のが、まともな大人ですから。
大変勉強になりましたが、この事実を全国に伝えたいとお思いなら、提示した新聞記事の画像の出典を明記してください。
出典が不明確では、地方の人間が国立国会図書館に資料請求したくても不便です。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/e4/97ef60579fbf4e06c02d895a46d781b8.png
=東京新聞2013年04月13日朝刊(11版S)24面
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/9a/100e5024970f87b8fccf3427a38976b6.png
=東京新聞2013年04月13日朝刊(11版S)25面
国家権力を縛る「96条」
になっています。
他は上の画像と一緒です。
失礼しました。
本日の読売新聞によれば、OECD諸国の中で憲法改正に国民投票を必要としている国自体が日本の他に5カ国、そのうち議会における要件が通常の過半数より厳しいのは3カ国だけだそうです。やはり、日本の改正要件は厳しいというべきでしょう。
それはともかく、上記の東京新聞の記事は間違いが多すぎます。韓国の国会の発議要件は1/2ですし、大統領が直接国民投票にかける手続きもあります。フランスの国民投票は過半数です。フランスでは、やはり(ケースによっては)大統領が直接国民投票にかける手続きが存在します。韓国では国民投票において有権者の過半数を得る必要があり、この点は厳しいのですが、そうした違いをしっかりと読者に提示しないと、甚だ無責任ではないですか。
というわけで、東京新聞の記事はミスリーディングなばかりか虚偽情報を含むものですから、このエントリは削除して、あらたに各国の憲法改正条項について比較したものを書かれたほうがよろしいかと思います。
しかし、フランスについてはやはり間違っていますし、国民投票が必要なケースを中心に述べるべき、という点については上記のとおりです。
お詫びして訂正させて頂きます!