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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

100mSv未満の低線量被曝で白血病に 米国立がん研究所がチェルノブイリ除染作業員11万人の調査を発表

2012年11月08日 | 原発ゼロ社会を目指して

 

 「Mr.100ミリシーベルト」こと山下俊一福島県立医大副学長など原発推進派は、100ミリシーベルト以下の被ばくでは健康被害は起こらないと言い続けてきました。

山下俊一福島県立医大副学長と福島県の県民健康管理調査の闇 秘密会議ですり合わせ 県民はモルモット

 その根拠とされたのがチェルノブイリ原発事故です。

 この事故の被害について、国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)や国際原子力機関(IAEA)と国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射能によって増加した病気は小児甲状腺がんに限られ、しかも死者は甲状腺がん患者6千人中10人前後にとどまっている、白血病やその他の疾患は増えていない、チェルノブイリ事故の全死者は甲状腺がんの子供を含めて約60人に抑えられた、むしろストレスの方が心配だなどと言ってきました。

 しかし、末尾の各新聞記事にあるように、WHO(世界保健機構)が報告したチェルノブイリ原発事故の死者数についての意見は、ウクライナ・ロシア・ベラルーシ3国だけで将来最大9000人というものです。被災国40カ国では1万6000人という見方もしています。

 これらでさえ、後述のように原爆症訴訟では過小評価であるとされた広島・長崎での原爆被爆者調査のデータに基づいたものです。むしろ、すでに1万人がガン死したという見方もあるくらいです(今中哲二氏「チェルノブイリ事故による死者の数」参照)。

東日本大震災 福島原発事故 チェルノブイリ事故から25年 原子力発電の不都合な真実と向き合え

(もちろん、放射線被ばくによって起こる病気は、ガンや白血病だけではない)

 


 さらに、アメリカの国立がん研究所とカリフォルニア大学による以下の調査が2012年11月8日に発表されました。

チェルノブイリ除染で被曝、低線量でも白血病リスク 

2012/11/8 14:15 日本経済新聞

 【ワシントン=共同】チェルノブイリ原発事故の除染などに関わって低線量の放射線を浴びた作業員約11万人を20年間にわたって追跡調査した結果、血液がんの一種である白血病の発症リスクが高まることを確かめたと、米国立がん研究所や米カリフォルニア大サンフランシスコ校の研究チームが米専門誌に8日発表した。

 実際の発症者の多くは進行が緩やかな慢性リンパ性白血病だったが、中には急性白血病の人もいた。調査対象者の被曝(ひばく)線量は積算で100ミリシーベルト未満の人がほとんど。高い放射線量で急性白血病のリスクが高まることは知られていたが、低線量による影響が無視できないことを示した形だ。

 チームは1986年に起きたチェルノブイリ事故で作業した約11万人の健康状態を2006年まで追跡調査。被曝線量は積算で200ミリシーベルト未満の人が9割で、大半は100ミリシーベルトに達していなかった。

 137人が白血病になり、うち79人が慢性リンパ性白血病だった。統計的手法で遺伝などほかの発症要因を除外した結果、チームは白血病の発症は16%が被曝による影響と考えられると結論付けた。

 これまでに広島や長崎に投下された原爆の被爆者の追跡研究でも、低線量被曝による健康影響が報告されており、線量が低ければ健康影響は無視できるとの主張を否定する結果。チームはコンピューター断層撮影装置(CT)など、医療機器による被曝影響を評価するのにも今回の研究が役立つとしている。

 

 

 この調査結果でも、原発推進派の敗北は決定的です。

 なぜなら、この調査で言う100ミリシーベルト未満というのは20年間の積算です。「1年で100ミリシーベルト以下の被ばくでは健康被害が起こらない」などと主張する原発推進派から見たら問題にならないくらいの「低線量」被曝でも、血液のがんと言える白血病が起こることが分かったのです。しかも、今回の調査対象は作業員のみで、事故後26年間被曝し続けているチェルノブイリ原発付近の住民は含まれていません。

 よくもまあ、IAEAやICRPはチェルノブイリで白血病は増えていないなどと言えたものです。

 また、今回の調査で、放射線障害にはこれ以下では影響がないという「しきい値」がなく、どれだけ線量が少なくともそれに比例して被害が生じるというLNT仮説の正しさも立証されています。


 そもそも、今の放射線被ばく安全基準を作ったのはICRPですが、ICRPの基準は放射線影響研究所のデータをもとにつくられました。エネルギー省が日本の厚生労働省と共同出資しているのが、日本の財団法人放射線影響研究所(放影研)です。

 その放影研の前身は、調査ばかりして広島・長崎の被爆者を一切治療しなかったアメリカ占領軍が作ったABCC(原爆傷害調査委員会)という研究機関です。つまり、もともとアメリカがつくったもので、今でも半分は米エネルギー省が出資者です。未だに実質的にはアメリカの核マフィアに逆らえない組織なのです。

 だからこそ、12万人の被爆者寿命調査では、近距離被爆者(爆心地から2・5キロ以内)だけを「被爆者」として、遠距離被曝者を放射線を浴びていない非曝露群として比較対象にしたり(実質上、被爆者同士を比べるので放射線の影響は矮小化される)、内部被曝を無視したり、放射線の影響を極力過小評価してしまっています。

 さらにこの米エネルギー省は、 年間2兆円の予算を使って、アメリカのエネルギー保障と核兵器による安全保障を担当する官庁であり、その役割は核兵器の製造と管理、原子力技術の開発、エネルギー源の安定確保及びこれらに関連した先端技術の開発を行なっています。エネルギー省とは名ばかりで、実質的にはほとんど「核」ばかり扱う機関なのです。

 ICRPは各国政府からの寄付で運営されており、ICRPは国際などと頭についているので国連の機関であるかのように権威づけられていますが、国連の機関でも何でもない、単なるNGOです。そして、低線量被曝の基準を緩和した当時のICRPの委員17人のうち13人が、各国の原発・核兵器関係者で原子力推進派です。

米エネルギー省、ABCC・放影研、ICRP 国際的原子力ムラ=核マフィアが放射線「安全」基準を作った

http://ok-life.sakura.ne.jp/sblo_files/hibi-zakkan/image/E69DB1E4BAACE696B0E8819EE38080ICRPE381AFE3808CE4BD8EE7B79AE9878FE381A7E38282E581A5E5BAB7E8A2ABE5AEB3E3808DE38080E79498E38184E58BA7E5918AE38195E38188E5AE88E38289E3819A.JPG

 

 このように、原発推進派が唯一のよりどころとしているICRPの安全基準はバイアスがかかっていて全く信用できないのです。このことは、今回の米国立がん研究センターなどの調査結果でも明らかです。

 だからこそ、日本の原爆症集団認定訴訟では厚労省の認定基準が何度も否定され、原告被爆者側が連戦連勝を続けたのです。

年間100ミリシーベルト以下の放射線の発がんリスクが高いことは原爆症認定訴訟の判決で決着がついている

 そのICRPでさえ年間100ミリシーベルト以下の被ばくで健康被害が出るかどうかわからないとしているのに、日本の原発推進派は「100ミリシーベルト以下では健康被害が出ない」と言い変えてしまうのですから極めて悪質です。そして、今回の調査で、先に原子力規制委員会が避難の目安として「1週間!で積算100ミリシーベルト」を避難の基準として公表したのがいかにナンセンスかがわかります。

 さらに、除染作業にあたった作業員の方々の白血病発症リスクを明らかにした今回の調査で言えることは、福島原発事故処理に当たり、無理な除染を続けて2次被ばく被害を拡大するより、放射線汚染地域の住民の避難を国費で進めた方が、作業員の方々はもちろん住民にとってもずっと安全で、しかも安上がりなのではないかということです。

 国が何兆円もかかるといわれる除染にこだわるのは、むしろ利権のためではないのでしょうか。

 もはや、集団疎開をこそ真剣に検討すべき時だと思います。

子どもたちを原発事故の放射線から守るために、除染だけではなく集団疎開を!子ども未来法律事務所通信13

 

東日本大震災 チェルノブイリ/「不都合な真実」に向き合え 

2011年04月26日火曜日 河北新報 社説

 (前略)

 福島では廃炉と汚染除去に100年―。英科学誌ネイチャーがそんな専門家の見方を紹介した。長い消耗戦を覚悟しなくてはならないのだ。 何より心配なのは健康への影響だ。チェルノブイリ事故について世界保健機関(WHO)の下部組織は、がんによる死者数が計40カ国で2065年までに約1万6千人に達する恐れがあるとしている。国は事故後、「直ちに健康に影響を及ぼすとは考えられない」との説明を繰り返しているが、住民は不安を払(ふっ)拭(しょく)できずにいる。健康調査も長期にわたることは避けられない。 「福島の場合、テクノロジーへの過信があったと思う」。フランスの原子力専門家の見方だ。四半世紀前の「不都合な真実」は、いったんは黙殺された。それを謙虚に受け止めることが、全ての議論の出発点になる。

 

社説:チェルノブイリ 25年の教訓を生かせ 

毎日新聞 2011年4月23日 2時31分

(前略)

チェルノブイリ周辺では今も住民の健康被害が報告されているが、ソ連末期の社会混乱など精神的ストレスの影響も指摘され、被ばくとの因果関係は証明できないと切り捨てられる例が多い。長期被ばくがもたらすがんによる死者数も、推計した国際機関によって4000人から1万6000人まで幅がある。低線量被ばくの影響評価が異なるためだ。福島原発の放射性物質漏れも「ただちに健康への影響はない」とされるが、住民への長期にわたる健診と追跡調査を怠ってはなるまい。

(後略)

 

 死者9000人に修正へ チェルノブイリ原発事故

2006/04/25 01:17   【共同通信】

  【キ エフ25日共同】国際原子力機関(IAEA)やウクライナなどチェルノブイリ原発事故被災国政府でつくる「チェルノブイリ・フォーラム」が、これまで約 4000人としていた同事故による最終的な死者数の推定を、世界保健機関(WHO)が今月公表した最新の報告書に従い「最大で9000人」と修正する見通 しとなったことが24日分かった。  26日の原発事故発生20年を前にキエフで開かれている国際会議で報告される予定。同会議筋が明らかにした。  同フォーラムは推定死者数を引き上げることで被災者感情への配慮を示し、被災国政府に一層の復興努力を促す考えだ。

 

 

もはや原発推進派に頼るべき科学的根拠はない。

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3 コメント

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Unknown (ジェファーソン)
2012-11-09 10:38:50
人権侵害救済法が国会提出されるようです。忙しいのにこれのせいで仕事になりません。
このブログにはあまり人権侵害救済法のことが書かれていないようですが、平和を愛するあなたに、この法案に関しての記事を書いてもらえることを期待しております。どうぞお願いいたします。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121109/trl12110907140000-n1.htm
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Unknown (22/110000)
2012-11-14 06:23:22
11万人中、137人が白血病で、その16%が被ばくの影響‥約22人ですか。
これって、そんなに大きな数字?
返信する
科学的な論拠と判断を (木田猛男)
2013-05-27 02:51:41
<放射能の人体に与える影響>は、原発推進派とか反原発派とかは全く関係無い筈です。あくまでも純粋に科学的データで、統計的有意性で判断されるべきです。その点で反原発派の意見の大半が、科学的とは言えない論調(推論・感想)が殆どのように感じる。
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