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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

最高裁で敗訴が確定した東京大空襲訴訟が問いかけたもの 戦争被害を国民は受忍できるのか

2013年05月09日 | 法律と裁判・事件

 

 1945年(昭和20年)3月の東京大空襲の被害者や遺族ら130人余りが「軍人やその遺族などには補償があるのに、空襲の被害者に援助がないのは不当だ」と主張して、国に謝罪と賠償を求めて提訴していた東京大空襲訴訟で、最高裁判所は2013年5月9日までに原告の上告を認めない決定を出し、被害者や遺族の訴えをすべて退けた判決が確定しました。

 この東京大空襲では、米軍機が東京の浅草など住宅密集地を爆撃し、約10万人が死亡したとされ、原告側は、軍人やその遺族に遺族年金などの手厚い援護があるのに、民間被災者が救済されないのは、法の下の平等を定めた憲法に反するなどと訴えていました。なんと、戦後支払われた遺族年金は1兆円に及びます(余談ですが、遺族らでつくる日本遺族会が強固な自民党の支持団体になっているのは当然です)。

 しかし、被告国は

「戦争被害 は国民が等しく受忍(我慢)しなければならない」

という受忍論を展開して、1審・2審はこれを追認しました。さらに東京地裁・高裁は

「戦地で実際に戦闘行為を行った軍人らの救済には合理的な根拠があり、民間被災者の差別ではない」

「被災者は数多く存在しており、どんな救済措置を講じるかについて国会には広い裁量が認められる」

「原告らが旧軍人らとの間の不公平を感じることは心情的には理解できるが、戦争被害者にどのような援助をするかは立法を通じて解決すべきだ」

などと指摘し、訴えをすべて退けていました。

 原告は上告していましたが、最高裁判所第1小法廷の横田尤孝裁判長は、9日までに上告を認めない決定を出して、被害者や遺族の敗訴が確定しました。なお、空襲の被害に対しては昭和20年の大阪大空襲についても被害者や遺族が同じような訴えを起こしていますが、1、2審ともに訴えが退けられています。

写真版 東京大空襲の記録 (新潮文庫) [文庫] 早乙女 勝元 

昭和20年3月10日。一夜のうちに東京の下町一帯を焼け野原に変え、10万人にのぼる死者で街や河を埋めつくした東京大空襲。自身被災者でもある編者は 「東京空襲を記録する会」の仲間と共に、戦後長らく埋もれていた資料を発堀し、空襲当時の模様を正確に再現した。元警視庁カメラマン石川光陽氏らの貴重な 写真を得て、一般庶民にとって戦争とは何であったのかを訴える文庫版写真集。



1 なぜ、原告らはアメリカ政府に対して裁判を起こさないのか

 東京大空襲は、市民に対する無差別殺戮でした。無差別殺戮を第二次大戦当時でも国際人道法が禁じていたことは確立した考え方です。ですから、アメリカ軍が行なったこれらの空襲は国際法違反であることは明らかですから、本来、裁判はアメリカ政府に起こすこともできるはずなのです。

 ところが、米軍基地訴訟などで、アメリカ政府を日本の法律で日本の裁判所で裁くことはできない(日本の裁判所に裁判権がない)というのは最高裁判例として確立してしまっています。

 かたや、アメリカの裁判所でアメリカ政府を被告に裁判ができるかというと、アメリカは国家無答責(国家自体は損害賠償義務を負わない)という都合のいい法体制になってしまっています。国際刑事裁判所の条約に参加せず、政府要人も軍人も裁かれないようにしているのと同じ発想です。

 また、国際司法裁判所で原告になれるのは国か国連機関などだけです。

 というわけで、事実上アメリカ政府に対する裁判の道は閉ざされており、同じく無差別殺戮で、しかも不必要な苦痛(放射線による後遺症が続き、戦争に勝つために必要ない苦痛)を相手に与え、さらに違法性が高い原爆被爆者も、この壁でアメリカに裁判を起こせないでいるのです。

 そうしたことから、東京大空襲訴訟でも、日本政府を裁判の被告にすることになりました。

2 この裁判の目的はなんだったか

 日本国を被告にしたことには積極的な意味があります。それは、戦争を起こしたら戦争被害者に対して被害を弁償しなければならないことが確立したら、戦争の被害者は膨大な数に及び、その賠償額は天文学的な数字になりますから、事実上、国が戦争を起こすことができなくなるのです。

 そして、この裁判で、東京の市井の人々が被害を受けたのは、日本が戦争を起こした開戦責任と、なかなか戦争を終わらせなかった責任に由来することをはっきりさせる意味もありました。つまり、大日本帝国の侵略戦争という違法行為が外国の人ばかりか、国民までも傷つけることになるのです。

 それとも、国が言うように、戦争の被害は国民が「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び」しなければいけないのかが鋭く問われたのです。

 もちろん、冒頭に書いたように、軍人やその遺族との差があるなどの差別の問題もあります。軍人だけを特別扱いするのは、まさに、戦争で亡くなった国民全員ではなく、軍人だけを「英霊」として祀った靖国神社を特別扱いすることと相通じるものがあるのです。

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3 裁判所は戦争を追認した

 以上のような問題意識は、いわゆる戦後補償裁判全体に通じるものですが、司法はほとんど原告の訴えを認めたことがありません。それだけ大きな影響力を持つからで、原発訴訟と同様にここまで司法消極主義も徹底されると、司法は不要ではないかとさえ思えてしまいます。裁判所はいかに勇気がない人たちの集まったところなのか。

 原爆被爆者もいまだに放射線の被害の治療を受けている原爆症患者への給付制度などはあっても、国家補償の理念に基づく損失補償や損害賠償はなされていません。

 火の中を逃げまどい、家族を失い、家族を見捨て、生まれ育った故郷を失う。

 平均年齢80歳近い空襲被害者や被爆者ら戦争被害者は、自分の利益のためにお金を求めているのではないのです。後に続く私たちの世代に二度と同じ苦しみを味あわせないための訴訟が、東京大空襲訴訟であり、戦後補償裁判なのです。

 せめて、皆様にそのことを理解していただきたく、この記事を書きました。私たちが選挙で良い代表者を選び、法律と行政で戦争被害者を救済し、二度と戦争をしない誓いとしたいものです。

 

 

すべての国の戦争被害者の方々に捧げます。

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東京大空襲 敗訴確定 最高裁

 一九四五年三月の東京大空襲で被災した民間人や遺族ら七十七人が、国が補償などの救済をせずに被害を放置したのは違憲だとして一人あたり千百万円 の損害賠償と謝罪を求めた訴訟で、最高裁第一小法廷(横田尤孝裁判長)は、原告側の上告を退ける決定をした。原告側の全面敗訴が確定した。決定は八日付。

 原告側は、国が旧軍人や原爆被害者らの救済措置を取っている一方で空襲被害者には生活援助や補償をしないのは法の下の平等に反すると訴えていた。

 二〇〇九年の一審・東京地裁は「国民のほぼすべてに戦争被害があり、裁判所が救済対象を選別するのは困難」と指摘。救済方法も政治的判断に委ねざるを得ないとして請求を棄却した。

 昨年四月の二審・東京高裁も「原告らが旧軍人らとの間の不公平を感じることは心情的には理解できる」としながらも、国側が主張していた「戦争被害 は国民が等しく受忍(我慢)しなければならない」という受忍論を支持。「補償を受けていない戦争被害者は数多くおり、差別されているというのは困難」と判 断した。一審と同様、空襲被害者を救済するかどうかは国会の裁量の範囲内と結論づけた。

 空襲被害をめぐっては、大阪大空襲などの被災者と遺族も国に損害賠償を求めて集団訴訟を起こしたが、一、二審とも請求を棄却され上告中。

 <東京大空襲> 1945年3月10日未明、約300機の米軍爆撃機B29が東京上空に飛来した。現在の東京都江東、墨田、台東区など下町地域を 無差別爆撃し、約10万人が死亡。東京大空襲・戦災資料センターによると、焼夷(しょうい)弾1665トンが投下され、100万人以上が家を失った。


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