【園田耕司】安倍内閣南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)で、自衛隊の弾薬を国連を通じて韓国軍に提供することを決めた。PKOでの武器弾薬の譲渡については、歴代内閣が国会答弁で重ねて否定してきた。今回の決定は、武器輸出三原則の全面的な見直しを見据え、長年積み重ねてきた政府の方針を大きく踏み越えたものだ。

 政府は今回の弾薬の提供を、PKO法25条の「物資協力」に基づくと説明している。だが法律の制定当時から歴代内閣は、国連への自衛隊の武器・弾薬の譲渡を明確に否定してきた。

 1991年のPKO法の国会審議では、「『物資協力』に武器や弾薬、装備は含まれるか」との問いに、政府側は「含まれていない」(国際平和協力の法体制整備準備室長)と答弁。「(国連)事務総長から要請があった場合は」との質問にも「そもそも事務総長からそういう要請があることは想定していないし、あってもお断りする」(同)などと強調していた。

 98年の同法改正審議では「『武器弾薬などの物資協力はあり得ない』と条文に書かなくても大丈夫か」との問いに、政府側は「人道的な国際機関は、その活動のために人を殺傷したり、物を壊したりする武器・弾薬を必要とすることは万が一にもない」とし、「これらの機関から日本に対し、武器・弾薬の提供の要請があるとは考えていない」(国際平和協力本部事務局長)と説明した。

 ところが、安倍内閣は 今回、過去の政府見解と対応を一変させた。「緊急の必要性・人道性が極めて高い」として、弾薬譲渡の正当化を図った。過去の国会答弁との整合性について は、物資協力の具体的な内容を規定していないPKO法の条文を盾にするように「法的には『武器弾薬を除く』という適用除外は書かれていない」(内閣府)と主張した。

 日本政府が殺傷力のある弾薬を国連や他国に譲渡するのは今回が初めてだ。米軍に対してさえ、日米物品役務相互提供協定(ACSA)で、武器・弾薬の提供を明示的に除外している。

 安倍内閣は法律に書かれていないことを理由に、今回の決定をした。しかし、過去20年以上にわたって積み重ねてきた国会答弁との整合性はどうなるのか。さらなる説明責任が問われそうだ。

■新原則に影響か

 自衛隊のPKO活動での装備品提供をめぐっては、野田内閣当時の2012年に、ハイチ政府に油圧ショベルなどの重機の譲渡を決めたケースがある。平和・国際協力に伴う案件であれば、政府が相手国と取り決めを作ることで武器譲渡を可能にする武器輸出三原則の緩和が前年に行われ、初の適用例だった。

 今回は相手が国ではなく国連で、野田内閣当時の武器輸出三原則の緩和は適用できない。そのため官房長官談話で「韓国隊員及び避難民等の生命・身体の保護のためのみに使用される」として新たな例外とした。

 一方、安倍内閣は17日、外交・安全保障の基本方針となる国家安全保障戦略(NSS)を策定し、「積極的平和主義」を掲げ、武器輸出三原則に代わる新原則を年明け以降に定める方針を打ち出した。今回の弾薬譲渡は、新原則を政府・与党内で協議する上で、影響を及ぼす可能性がある。

 政府は、殺傷力の強い武器の提供には抵抗感が強い公明党の幹部に事前に根回しをして了解も得た。政府高官は「もしものことがあったら日本は韓国を見殺しにしたのか、となってしまう。だから知恵を絞り、緊急的、人道的措置ということだ」と強調する。

 とはいえ、韓国軍の対応によっては現地武装勢力の殺傷に使われる恐れがある。日本の「平和国家」としての基本理念に合致するのか、不透明さが残る。

韓国軍宿営地、避難民1.5万人

 【ヨハネスブルク=杉山正】南スーダンには、日本など50カ国以上の約7600人で構成される国連南スーダン派遣団(UNMISS)が駐留し、平和維持活動にあたる。だが、首都ジュバで15日に起きたマシャル前副大統領によるとされるクーデター未遂を契機に、反乱軍が各地で蜂起。キール大統領派と武力衝突し、治安が急速に悪化した。

 韓国軍の工兵部隊が学校建設などにあたっていた首都から約200キロの東部ジョングレイ州ボルは、18日に反乱軍に制圧された。官房長官談話によると、韓国軍はボルの宿営地に避難民約1万5千人を受け入れており、隊員や住民の保護のために銃弾の提供を要請してきたという。同州アコボでは国連施設が襲われ、PKO部隊のインド兵2人と多数の市民が死亡した。

 事態の緊迫を受け、UNMISSは、ボルから文民スタッフを全員退避させた。その上で、軍部隊を増派し、警戒を強化しているが、政府軍と反乱軍の間で一両日中にも本格的な戦闘が始まるという観測もある。AFP通信によると、UNMISSのトビー・ランザー副代表は「南スーダンは崩壊しつつある。数少ない兵士が2千人(の反乱軍)に囲まれたら、できることは限られている」と危機感をあらわにした。

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■法的枠組み超える

 〈早稲田大学の水島朝穂教授(憲法)の話〉 PKO協力法は物資協力を認めているが、弾薬は当然には含まれない。周辺事態法の物品提供に武器は含まれないし、テロ特措法によるインド洋での活動も艦船への給油だった。武力行使の直接的な手段である弾薬・銃弾の提供は従来の法的枠組みを超えるものだ。今後、米軍への砲弾提供などに拡大されていく恐れがある。

■国連要請、問題ない

 〈元陸上自衛隊北部方面総監の志方俊之・帝京大教授の話〉 弾薬を使って自衛隊が一緒に武力を行使するわけではなく、国連の要請であれば問題はない。韓国軍が自国から弾薬を輸送しようとすれば、数日かかる。日本が要請を断り、結果的に避難する住民を守れなかったらそれこそ問題だ。北朝鮮の情勢も不安定になっており、有事の際は日本の協力が不可欠だとの意味合いも込められているのではないか。