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社会的要人の弱みを人工的に作る女、ユリカ。ある日、彼女は出会ってしまった、最悪の男に。絶対悪VS美しき犯罪者! 大江賞受賞作のベストセラー『掏摸(スリ)』を超える話題作がついに刊行!
出版社:河出書房新社
『掏摸』が非常におもしろかったので、姉妹編という『王国』も読んでみた。
結果を言うなら、満足そのものであった。
ラストが拍子抜けだったが、読んでいる間は、作中世界に没頭できる。すてきな作品だ。
主人公のユリカは街の悪党から依頼を受け、要人にハニートラップを仕掛ける女だ。そんな彼女が『掏摸』と同じ巨悪の元締め、木崎に狙われ翻弄されていく。
内容としてはそんなところだろうか。
正直なところ、この木崎の意図が僕には理解できなかった。
作者的には、『掏摸』の中で言及されていたヤハウェのように、弱い人間を弄び苦しめる悪を描きたかったのかもしれない。
だが僕には、物語の都合で主人公を苦境に追いつめる役割を振られているようにしか見えなかった。
命を奪おうと見せかけながら、結局奪わなかったり、ユリカを殺し、脅迫するという、現場の役割を自ら行なったりと、いろんなところがご都合主義っぽく感じる。
そのためラストもしっくり来なかったのは否定しない。
しかしラスト以外はほぼ完璧だったと言っていい。
特に作中の黒い雰囲気はすばらしかった。
矢田のメールが乗っ取られたと気づく辺りからの盛り上がり方はすばらしい。
一体、裏で何が起きているのかわからず興奮するし、少しずつユリカが木崎に追い詰められていくあたりはぞくぞくする。
そんな中、矢田と木崎の間で上手く振る舞い、出し抜こうと行動する展開は興奮ものだ。
ノワールミステリとして大変力強い。
ユリカもノワールの味わいにあったキャラクターで、心に残る。
どこか虚無的で破壊願望のようなものも見えるし、暗い影やトラウマを抱えている。
その中で自分の命を軽んじながらも、決して安易に死のうと思わず、彼女なりにあがいている姿はすてきだ。
気に入らない部分もあるが、基本的にはいい作品であったと思う。
コーマック・マッカーシーを思わせるノワールの雰囲気や、悪に対する向き合い方も感銘を受けた。
『土の中の子供』や『銃』を読んだときは、作品は良いものの、作家にははまれなかった。
だが『掏摸』と本作を読んで、中村文則という作家を好きになれた。
しばらくこの作家を読んでみたい。そう思わせる作品である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの中村文則作品感想
『銃』
『掏摸』
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