私的感想:本/映画

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『マホメット』井筒俊彦

2014-12-11 22:01:00 | 本(人文系)

イスラームとは何か。マホメットとは誰か?根源的な謎に答えるため著者はマホメット出現以前のアラビアの異教的文化状況から説き起す。沙漠を吹暴する烈風、蒼天に縺れて光る星屑、厳しくも美しい自然に生きる剽悍不覇の男たちの人生像と世界像。魅力つきぬこの前イスラーム的文化パラダイムに解体を迫る激烈な意志としてマホメットは出現する。今なお世界史を揺がし続ける沙漠の宗教の誕生を、詩情豊かに描ききる名著の中の名著。
出版社:講談社(講談社学術文庫)




「冷い客観的な態度でマホメットを取扱うことは私には到底できそうもない」

そう若い時分の著者が語っているだけあり、非常に思いに溢れた内容となっている。
確かに文章は硬いのだが、その分、マホメットが登場する前のアラブの状況や、マホメットが誕生した意義を解き明かそうと、筆を走らせているのがわかり、心に響いた。



マホメットが登場する前の状況は興味深い。

当時のアラビアのベドウィンたちは、血のつながりである部族を大事にしていて、時に優しく気前のいい態度も見せている。
だが部族以外の者には苛烈に接し、殺戮を行なっても、罪悪感を抱かない。
そしていずれ全員に訪れる死を前に、刹那的快楽主義に陥っている。そんな状況だ。

そんな中で部族単位を越えた宗教を打ち出したマホメットことムハンマドは革命的なことを成し遂げたと言えるらしい。
はびこる刹那的快楽主義には、神への懼れを訴え、周囲の人間の軽薄さを責めている。
イスラム教誕生にはそんな経緯があったらしい。


またムハンマドの人間的側面も、本書からはうかがえ目を引いた。

たとえば孤児として成長し、そのことが後々まで傷を残しているらしいこと。
宗教者として立つことを悩んでいたムハンマドを妻が励ましたこと、など。
有名な宗教者も普通の人だということを教えてくれる。

そうして既存宗教の改革をうちたてながら、やがて反発が強くなり、ヒジュラを経て、政治家としての側面が露わになる過程。
ユダヤ教とキリスト教との対立していく様などの、後期の彼もおもしろい面は多い。
特にユダヤ教との対立で、宗教者としての危機意識を覚えるところは、良くも悪くも生身の人間らしさを感じる。



ともあれ、ムハンマドの簡単な事績と登場以前の状況を学べて良かった。
短いが、イスラム教を知るとっかかりとしては充分かもしれない。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


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