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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2016

2016年05月07日 | pocknのコンサート感想録2016

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン
「熱狂の日」音楽祭2016
la nature
ナチュール - 自然と音楽

東京国際フォーラム



「美や芸術の源泉である自然にオマージュを捧げた」ということで今年の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のテーマに選ばれた言葉は「la nature - 自然と音楽」。

「自然」をテーマに書かれた音楽、「自然」からインスピレーションを得て生まれた音楽は数限りない。とてつもなく広く、音楽の原点とも言えるテーマでプログラミングされた3日間の音楽祭だが、毎年忘れえぬ名演を聴かせてくれるミシェル・コルボの名前が演奏者にないのは寂しい。今年はGWに別のコンサートがひとつ入っているので、今回はLFJはお休みしようかとも思ったが、大好きな武満の作品がたくさん入ったプログラムを見てしまうと、やっぱり行きたくなって前売り券を買った。

結局武満をやるコンサートは1つしか取れず、購入した有料コンサートはいつもよりずっと少ない3公演分。毎年家族で出かけていたLFJだが、今回は5/4に一人で行ってきた。ということで、控えめにコンサートレポートを記します。


~5月4日(水)~

ホールEキオスクコンサート(無料コンサート)
ホールE(パシフィック)

曽我大介指揮 リベラル・アンサンブル・オーケストラ/一音入魂合唱団
1.スメタナ/交響詩「モルダウ(ヴルタヴァ)」
2. シベリウス/フィンランディア(合唱付)


無料の「キオスクコンサート」は、展示ブースやショップが並ぶ展示会場内の特設ステージで行われる。絶えず人が出入りしてざわついているが、通りすがりに気軽に聴けるのがいい。リベラル・アンサンブル・オーケストラのコンサートも、ショップを見ているときに、本番直前の音出しでいい音が聞こえてきたので、立ち寄ってそのままずっと聴いていた。

リベラル・アンサンブル・オーケストラは、立教大学交響楽団の卒業生を中心に結成されたアマチュアオーケストラということで、温かみのあるとてもいい音を聴かせてくれた。表情が豊かで柔らかく、どのパートもうまい。世界的に活躍している蘇我氏の指導力も大きいのではないだろうか。

ここまで上手いと、例えば「モルダウ」が激流となる場面では更にドラマチックな振幅が欲しくなったり、「フィンランディア」では祖国を思う心がもっと燃えさかれば、と欲が出てきたが、何分にも集中して聴くにはあまりいい環境とは言えないので、もしかしたらその辺りもクリアしていたのかも知れない。やはり蘇我氏が指導しているという「一音入魂合唱団」も厚みと広がりのある良いハーモニーを聴かせていた。

ジョエル・スービエ指揮 アンサンブル・ジャック・モデルヌ
ホールB5(ドナウ)

“ルネサンスの自然〜ロワール川のほとりで”
♪オケゲム/キリエ(ミサ曲《今はひたすら死を待つのみ》から)
♪オケゲム/汚れなき神の御母
♪ジャヌカン/もしもロワール川が逆に流れるなら
♪ジャヌカン/うぐいすの歌
♪ジャヌカン/草と花よ
♪カイェタン/大地は水を飲み
♪セルトン/ヴィニョン・ヴィニェット
♪ジャヌカン/グディメル/バビロンの流れのほとりに座り
♪ジャヌカン/サンクトゥス(ミサ曲《戦争》から)
♪ムトン/処女なる聖母は男を知らず
♪ムトン/王妃アンヌ・ド・ブルターニュの死を悼んで
♪フォーグ/アニュス・デイ(ミサ曲《海の中で》から)


LFJ ではおなじみのアンサンブル・ジャック・モデルヌによるフランドル楽派の作曲家達による、宗教作品と世俗曲を織り混ぜたプログラム。

フランドル楽派と言えば、バッハより更に200年も遡る時代の音楽で、ルネサンスより前の時代の音楽というと、西洋音楽の歴史の中ではまだ黎明期のようなイメージもあるが、どの作品もそれぞれが多彩な魅力を放ち、心に訴えてきた。

オケゲムの「キリエ」で始まった演奏は儀式的な厳かな空気を伝え、古式ゆかしい、言い方を変えるとやや硬直したイメージを与えたが、世俗曲になるとがらりと雰囲気が変わり、言葉の発音のニュアンスも変化と即興性に富み、ユーモラスな仕草も交えて生き生きとした表情で聞き手を惹き付けた。

一旦世俗の世界に誘われたあとに再び宗教曲に戻ったとき、最初に宗教曲を聴いた時とは異なるより豊かで深い世界に出会えた気がした。それは、宗教曲であっても、その底に流れるもの、訴えてくるものは、血の通った人間の熱い思いであるということ。「聖」と「俗」の要素がどちらも入ったジャン・ムトンの「王妃アンヌ・ド・ブルターニュの死を悼んで」の深い悲しみと祈りの世界は、神聖さと人の魂の熱い叫びのどちらもが、深く心を揺さぶってきた。

アンサンブル・ジャック・モデルヌは、曲ごとに人数や立ち位置を変えて演奏したが、どんな編成であっても、どの曲でも変わらず感じたことは、鍛えられた混じりけのない声によって、揺るぎなく真っ直ぐに訴えてくるアンサンブルというものが、いかに強い表現力を持つかということ。音楽の持つ根源的なパワーと魅力に圧倒された1時間だった。
ジラール弦楽四重奏団
ホールB5(ドナウ)

1. ハイドン/弦楽四重奏曲第67番ニ長調 Hob. III-63「ひばり」
2.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番ホ短調 Op.59-2「ラズモフスキー第2番」


兄弟姉妹によって結成されたというこの若いカルテットは、名前を聞くのも初めて。パリ音楽院の仲間で結成されたモディリアーニ弦楽四重奏団の存在と、その魅力を知ったのがLFJ ということもあり、この未知のカルテットにも期待を込めて会場のホールB5へ 。

このカルテット、響きはよくまとまっていて、細かい表情付けを丁寧に行いつつ、堅実にアンサンブルを作り上げて行くのはいいのだが、 取り立てて目立った個性や魅力に出会うことはできなかった。例えば、ハイドンの第2楽章で終始主導権を持つファーストヴァイオリンにはもっともっと歌って欲しいし、ベートーヴェンの第1楽章で冒頭から何度も現れる、トゥッティによる半終止の決然とした和声進行では、もっと果敢に挑みかかる覇気が欲しい。

調和の取れたアンサンブルを目指す余り、ライブならではのスリリングな面白さや意外な発見に乏しい演奏になってしまった。
Pf:小川典子/Vn:豊嶋泰嗣/Vla:川本嘉子/Vc:辻本玲
ホールB5(ドナウ)

“武満徹が見た風景Ⅰ~室内楽”
1.武満徹/十一月の霧と菊の彼方から
2.武満 徹/鳥が道に降りてきた
3.武満 徹/オリオン
4.武満 徹/微風、雲(《こどものためのピアノ小品》)
5.武満 徹/ビトゥイーンズ・タイズ


今回のLFJ のテーマは「自然と音楽」だが、ヨーロッパの文化・芸術は、自然に立ち向かい、これを支配しようとする姿勢から生まれたのに対し、東洋では自然との共存が尊ばれているとよく言われる。

武満の音楽は、自然との融合を目指し、始まりも終わりもない、自然のシーンから切り取られたような佇まいが魅力であり、今回のテーマにぴったりのはず。没後20年という節目の年とも重なり、今回のLFJ では武満作品が多く取り上げられた。その中から武満作品だけで組まれた室内楽のコンサートを聴いた。

武満の音楽の中でも室内楽作品にはとりわけ自然の風景の一部として溶け込んでしまいそうな音楽が多い。僅かな葉ずれや風のゆらぎを表すかのような微細な音程や音質の変化を求められ、かつそれらがあたかも偶然に起こったかのように自然に描かれたとき、初めて真の魅力を発揮する曲の演奏は、演奏者にとって至難の技であるはず。

そうした音楽たちを今夜のようなメンバーによる演奏で聴けるのは願ってもないチャンスで、静謐さのなかに自然界の生命力を感じる武満ワールドに浸ることができた。中でも「オリオン」での、深くて息が長く、繊細で安定感のある辻本玲のチェロと、清澄な静けさのなかに熱い思いをにじませた小川典子によるデュオが感銘深かった。
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2015
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2014
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2013
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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2011
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