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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2011

2011年05月03日 | pocknのコンサート感想録2011
~ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2011~
東京国際フォーラム
震災の影響で大幅な規模の縮小を余儀なくされながらも、今年も「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」は開催された。有料コンサートは結局2つしか聴けなかった。会場もいつもより縮小され、照明も暗く、人出も少ないうえに、夕方からは冷たい雨… 

いつものようなお祭り的な雰囲気は感じられなかったが、2つの有料公演はどちらも素晴らしく、最後の方だけチラッと聴いた、展示ホールでやっていたフィルハーモニア多摩による「ジークフリートの牧歌」がとても素敵で、地上広場でカラスの鳴き声と一緒に聴いた黒岩悠のリスト?が、妙に心に焼きつき、特設スタジオに伊藤恵さんとルネ・マルタンがゲストで、熱く音楽のことや、この音楽祭のことを語っているのを聞き、「やっぱり来て良かった」と思った。

来年は「ロシア音楽特集」というマルタン氏の予告に、囲んでいたお客が歓声を上げて拍手を送り、この音楽祭が来年も継続されるという当たり前のことに何だかホッとした。来年の「熱狂の日」は、また華やいだ雰囲気のなかで楽しみたい気がする。

~5月3日(火)~

オーギュスタン・デュメイ(Vn)/児玉桃(Pf)
よみうりホール(カネッティ)

【曲目】
1.ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 Op.100
2.ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調 Op.108

久しぶりに聴いたデュメイのヴァイオリンは、全然響かないホールだったが、音響のことなんか全く忘れてしまうほど、大きなもので心が満たされる演奏だった。

2番のソナタの冒頭、4つの音の下降音階が弾かれた瞬間、今回の音楽祭には震災の悲しみを乗り越えるための祈りが込められていることを思い出した。実際にデュメイがそんな思いで最初のパッセージを弾き下ろしたかどうかは定かでないが、忘れていたそんなことを急に思い出してしまう出だし、それほど温かさと慈しみに溢れた出だしで、それからもずっとデュメイのヴァイオリンに心は奪われ続けた。

デュメイのバイオリンの特徴は、一対一の相手に心から語りかけてくる親密さ、寒さでかじかんだ手にハーッと息をかけるような体の底から沸き上がってくるような温かさ、そして揺るぎのない大きく骨太な構築美だろう。エネルギーに溢れ、圧倒的にダイナミックな演奏でありながら、届けられる音楽の中身は、熟成された深い味わいと心からの慈愛に満ちている。2番では、そんな内面の親密さがとりわけ胸に染み、最後にはそれが幸福感に溢れた高揚へと導かれた。

3番では、そんな高揚した気分が基点となり、そこから更にスケールの大きな音楽が繰り広げられた。厳粛な第1楽章、懐の深い包容力に身を委ねたくなる第2楽章、何かが迫り来る第3楽章、そして圧巻の終楽章。大きな手で両肩をがっしり掴まれ、体を大きく揺さぶられているように、すごい力が伝わってくる。地下深く根を張った大樹に抱かれ、大樹の大きな息吹が伝わってくるような演奏に、人間デュメイを全身で感じた。

児玉桃のピアノは、繊細で研ぎ澄まされた音に魅力があり、ヴァイオリンと対決の姿勢ではなく、ぴったりと寄り添うようにデュメイが描く世界を引き立て、会話を交していた。
庄司紗矢香(Vn)/シャニ・ディリュカ(Pf)
よみうりホール(カネッティ)

【曲目】
1.ブラームス/私の眠りはますます浅くなり
2.ブラームス/ご機嫌いかが、私の女王様
3.ブラームス/おとめの歌
4.ブラームス/野の寂しさ
5.ブラームス/ジプシーの歌Op.103~第1曲
6.レーガー/ロマンス ホ短調Op.87-2
7.ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調Op.78「雨の歌」

デュメイを聴いた後に今度は庄司紗矢香。東西のヴァイオリンの名手の演奏をこうして立て続けに聴けるのはラ・フォル・ジュルネならでは。しかもデュメイと庄司のリレーでブラームスのヴァイオリン・ソナタの全曲演奏が完結した。

前半はブラームスの歌曲を中心にした小品集。全体的にゆったりとしたテンポの曲が多く選ばれたが、ここでは庄司のヴァイオリンの揺るぎのない安定感を見せつけられた。小品であっても、これらをかわいらしく、しおらしく聴かせるのではなく、常に大きく描かれた一本の線を聴き手に意識させる演奏には、「沙矢香さん」というかわいらしい名前や見た目で演奏を想像しているときっと戸惑いを覚えるほどの逞しさが具わっている。

そんな逞しさが真の意味で本領を発揮したのがブラームスのソナタ。神経の行き届いた柔らかで微弱な出だしから、力を蓄え、朗々と歌いあげる頂点へと向かうしなやかな運びの見事さ、更にエネルギーを充溢させ、コーダを一気に弾き切る力強さには大家の風格がみなぎっている。そんなすごい演奏に思わずか、或いは単に曲が終わったと思ったのか、第1楽章が終わって拍手が沸き起こった。これに全く動じる様子もなく、微笑を浮かべながら次の楽章に備えている様子には不適な表情さえ窺えた。

庄司は、速い楽章でも緩徐楽章でも、常に音楽全体を見つめ、今行われている演奏箇所が全体のどの位置でどんな役割を果たし、どこへ向かうのかをはっきりと見据えている。大きなボウイングからはダイナミックなうねりが生まれ、そのうねりが聴き手の波長に共鳴し、聴き手の気持ちを加速度的に高めて行く。そこにはその場の思いつきなどでは決して成し得ない、周到な設計図と卓越した技術があり、それを庄司の音楽への熱い共感が支え、押し進めている。第3楽章終盤の穏やかな盛り上がりは大きな感動を呼び起こし、静かに曲を閉じる場面からは、大自然の落日の光景が浮かんだ。畏怖を覚えるほどの演奏に、庄司の更なる成熟を見た思いがした。

ディリュカのピアノは濃淡の幅が広く、大きく深い表現力に富み、温かな息遣いを感じる伴奏で、庄司のヴァイオリンを大いに盛り立てた。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2010

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