『第34回道路公害反対運動全国交流集会』に参加して
ナノ粒子の人体への悪影響
みちと環境の会 神崎敏則
『みちと環境の会』では、ほぼ年に6回程度の二酸化窒素測定活動を続けています。自動車排ガス問題を行政にまかせっきりにせずに、私たち住民の立場からしっかりとチェックすることが目的です。
自動車排ガスには毒性の強い物質が複数あり、その代表的なものに、二酸化窒素とSPMがあげられます。SPM(Suspended Particulate Matter)とは、日本語では浮遊粒子状物質と言われ、粒の大きさを10μm(マイクロメートル:百万分の1mの単位、つまり10μmは0.01mm)以下のものと定義しています。ほこりなど粒が小さい物質ほど地面に落ちにくく大気中を漂う性質があります。逆に言うと、粒径が10μm(マイクロメートル)より大きなものは、大気中を浮遊することなく降沈しやすいのです。二酸化窒素とSPMとを比較すると、SPMの方が毒性が強いと言われています。SPMとはそれほど危険な物質なのです。
ところでSPMには、排ガスなどの人為的な物質だけではなく、花粉や、土ぼこりなど自然由来のものも含まれます。欧米では、その自然由来の物質を含まない数値に着目して、PM2.5(2.5μm(マイクロメートル)の環境基準を設けています。PM2.5の方が、排ガスなどの人為的な物質により限定しやすく、しかも粒径をSPMの1/4以下に定義している物質なので、肺の奥まで入りやすく健康への影響が大きいと考えられているのです。PM2.5の環境基準が設置されていない日本の規制は、残念ながら緩いと言わざるを得ません。ここまでは、みなさんもよくご存じのことと思います。
さて、今回『道路公害反対運動全国交流集会』に参加して、島田章則先生(鳥取大学農学部獣医病理学教室)の記念講演で初めて知ったことがあまりにも衝撃的だったので、以下報告します。
最新ディーゼル車はナノ粒子を大量排出
人間の体はさまざまな防御システムを備え持っています。大気のホコリなどは鼻孔の粘液がとらえ、鼻孔を通り抜けた異物は気道(気管支)の粘液がとらえ、体外に排出します。肺に入ってからも繊毛運動によって体外に押し出します。それを越えて入ってきた微細異物は白血球の一種(マクロファージ)が捕食して排出します。
さて、自動車排ガスの段階的な規制強化にともなって、規制に適合させるために二つの方法が取られました。一つは、排ガスを自動車が排出する直前にDPFと呼ばれる高性能のフィルターを取り付けて、SPMの中でも比較的大きな物質を除去する方法です。もう一つは、燃料を高圧噴射することで燃料(軽油)の粒子を超微細粒子にして燃焼効率を高めることにより、排ガス中のSPMの濃度をおさえるのです。このシステムをコモンレール・エンジンと呼びます。
この二つの方法によって、大気中のSPM濃度は改善傾向にあります。ここまでは、めでたしめでたしなのですが、実は大問題が潜伏しているのです。
ディーゼル排ガスの最新適合車はすべて、燃料を高圧噴射するシステム(コモンレール・エンジン)を取り付けています。これにより確かにSPMの濃度を下げることはできるのですが、SPMの中でも超微細粒子(ナノ粒子、1nm=1/1000μm)はケタ違いに増えるのです。そしてナノ粒子は、セラミック構造のDPFではその多くが素通りして大気に放出されてしまいます。人の目には見えないため、排気口から排出されるガスも昔のような真っ黒な黒煙は出ません。そのため一見、排ガスが大幅に改善されたように感じるのですが、実は、学者・研究者が懸念しているナノサイズの粒子状物質をこれまでの黒煙に代わって大量放出しているのです。
島田章則先生は長年にわたり死亡した犬を解剖してきました。犬の肺は排ガスで汚れ、しかも肺胞にも沈着していました。電子顕微鏡でとらえた、肺胞部分の微細粒子が血管壁を通過して体内の血管内に侵入している写真はグロテスクですが、問題の深刻さを表しています。ナノ粒子が、肺胞に沈着し毛細血管を通過して全身循環し、脳に到達して脳障害を起こすとか、胎児に影響を及ぼすと報告する研究を証明しているのです。
SPMの濃度を低減させることに成功した技術には、健康被害をより大きくする危険性が潜伏していることを広めたいと強く思いました。
二酸化窒素測定活動の意義も大きい
さて、日本ではPM2.5の環境基準がなく、測定データもほとんどありません。しかし、PM2.5と二酸化窒素とには(正の)相関関係があるとのことでしたから、二酸化窒素濃度の高い地点は、PM2.5も高いことになります。二酸化窒素測定活動の意義もより大きくなります。
健康被害をより大きくする動きをストップさせるためにも、多くの市民の監視の目が必要です。
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