環境影響評価の基礎知識
道路建設における環境影響評価の注意点 Vol.3
世話人 藤井隆幸
3-1 騒音についての基礎知識
騒音の環境影響評価に入る前に、騒音についての基礎知識を持っていなければならない。以前『みちしるべ』の13号(01/9)と14号(01/11)に、「道路環境基準の基礎知識」シリーズで「道路に関する環境基準の現状と問題点」のVol.3とVol.4を書いた事がある。今読み返してみると、分かり易く書いたとは言えないようで、恐縮の至りである。しかし、その辺りの知識を持たなければ、当局との環境影響評価での駆け引きに不利になってしまう。
ここで簡単にまとめればよいのであろうが、なかなかそれが難しい。
- 人の聞こえる音の周波数帯は50~20000Hzで、騒音計のA特性dB(A)は人の聞こえるように騒音を把握している。
- 騒音の単位はdB(デシベル)であるが、それは対数であって、加減乗除のできる自然数ではない。
- デシベルは対数であるので、音のエネルギーが倍になると3dBプラス、3倍になると5dBプラス、5倍になると7dBプラス、10倍になると10dBプラスすることになる。
- 常に変動している騒音の価を決めるのに、100個のサンプルを採り、数値の大きいもの順に並べ、50番目の数値を中央値(L50)とする方法。また、100個の値をエネルギー値に直して平均し、デシベルに戻す等価騒音レベル(Leq)がある。
- 99/4/1から騒音の環境基準が変更され、それまでは中央値が採用され、今後は等価騒音レベルが採用される。
- 騒音基準には環境基本法に定める「環境基準」と騒音規制法による「要請限度」がある。
- 新しくなった騒音基準には「幹線道路近接空間」が設定され、高速道・国道・都道府県道・4車線以上の市町村道は対象となり、国道43号線の10倍程度の騒音は問題なしとされた。
以上のような事を把握していただき、次に進む事にする。
3-2 騒音の環境影響評価の問題点
騒音の環境影響評価をするに当たって、旧建設省の技術指針を使うわけであるが、現実的でない要素を指摘したい。
- 前回に指摘したが交通量予測は予測であって、ある程度の幅を持たさなければ意味はない。
- 車種別の混入率も、小型車・大型車の2車種に分類するのが一般的だが、少なくとも4車種別にする必要がある。
- 道路交通に伴う騒音の内、ブレーキ音・緊急車のサイレン・バウンド音・保冷車のコンプレッサーのエンジン音・違法改造車や整備不良車は考慮されない。
- 雨天時には相当の騒音レベルが上がるが、雨天時の騒音測定ができないことをもって、評価されていない現状がある。
- 車の走行速度は、速ければ速いほど騒音レベルも高くなるが、法定速度でしか評価しない欠陥がある。
- 標準断面でしか道路構造の変化による予測手法がない。例えば、防音壁は途切れる事もある。掘割は段々浅くなる事もある。総てのポイントで評価されない。
以上のような問題点があるので、アセスメント結果と実際に供用された後の騒音測定には、随分の差が出るのが実態である。今回は2.の問題点に絞って、説明したいと思う。次回に具体的アセスメント例を分析する事にする。
3-3 車種別騒音レベルの採り方の問題点
環境影響評価の技術指針では、2車種分類法と3車種分類法が指定されている。しかしながら、2車種分類法が必ず採用されている。出来るだけ簡便にしたいという考え方もあろうが、実際はより騒音レベルを低く見積もる為の手法なのである。下表に環境影響評価による車種別騒音係数比較と、旧建設省の土木研究所のそれを比較する。
ここで車種別混入量の違った、3つの交通量パターンについて、両方の係数換算で試算してみる事にする。以下の交通量パターンを示す。
このパターンに係数をかけると下表のようになる。
このようにしてみると、控え目なパターン設定ではあるが、Aパターンで1.27倍のエネルギー差がある。Bパターでは1.5倍の差に、Cパターンでは2.11倍の差になる。しかしながらデシベル計算では、Cパターンでさえ3dB(A)強の差にしか現れない。ここに騒音の難しさがある。
3dB(A)の差と言われると、素人的には誤差がないかのように見える。しかしながら、騒音値は対数で表されている。実態は、国道43号線(阪神高速3号神戸線を含む)と国道2号線ほどの差になるのである。乗用車だけの交通であるとするならば、日交通量が10000台/日と20000台/日程の差があると言うことである。
環境影響評価の技術指針による騒音の予測とは、かくもいかがわしい方法を使っているのが実際の所である。
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