『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路交通工学を考える*道路交通容量について③**<2006.5. Vol.41>

2006年05月02日 | 基礎知識シリーズ

道路交通工学を考える

道路交通容量について③

世話人 藤井隆幸

4-1 連続交差交通について

 前回は一つの交差道路の交通容量について考えてみました。今度は連続した交差点について考えてみましょう。下図のように、左右方向にセンターラインのある片側1車線道路と、上下方向にセンターラインの無い道路が2本交差しているとします。仮に右側の交差点を『尼崎交差点』とし、左側を『西宮交差点』と称します。

 

 各交差点の信号機の時間配分は、左右方向に30秒で上下方向に20秒が割振られています。市街地の一般道路における2車線の時間交通容量は4000台(平均時速40km/hで平均車間距離が20mの場合)です。信号機の制約を受けるため、左右方向が渋滞しないためには、時間交通量の限界は2400台(4000台×30秒/50秒)になります。上下方向は同様にして1600台(4000台×20秒/50秒)になります。

 西宮交差点では渋滞は無いことになりますが、尼崎交差点では上下方向に渋滞が発生します。1時間あたり200台の渋滞が発生します。上下方向共に100台とします。このような状況が、朝の通勤時間帯の2時間にわたったとすると、上・下行きの渋滞の最大車列は200台になります。平均車間距離が5mとすると、1000mの渋滞の列が出来てしまいます。

 このような渋滞を緩和するために、日本の道路行政当局は何をするかというと、尼崎交差点の上下方向道路の拡幅か立体交差化です。前回も説明したように立体交差では問題は解決しません。ここでは道路拡幅をした場合を検討してみます。次に示す図のようになります。

 

 単に尼崎交差点側の上下道路を拡幅しただけの話です。しかし、同時に信号機の時間配分を上下方向・左右方向共に、30秒と30秒にすることになるのは当然の成り行きです。その際の尼崎交差点の上下方向の時間交通容量は2000台(4000台×30秒/30秒)で、左右方向も同じ2000台ということになります。

 上下方向の渋滞は解消することになりますが、左右方向は1時間に400台の渋滞が新たに発生することになります。左右同数としても200台で、平均車間距離が5mでは1時間に1000m(200台×5m)、2時間に2000mの渋滞を発生させることになります。その渋滞は西宮交差点にも達します。西宮交差点では最悪の事態となり、上下方向に行く車の中に1台でも右・左折する車があると、1回の青信号で通過できる交通量は殆ど発生せず、総ての上下行き交通量は渋滞の車列となります。西宮交差点における上下時間交通量の割合が、同じとするなら800台で、1時間の上下行きの渋滞はそれぞれ800台に近くなり、渋滞車列は4000mにも達します。

 左右の道路が市街地の道路である限り、交差点は無数にあるはずです。渋滞解消といって、道路行政当局が行なう拡幅や立体交差化では、面的には渋滞を悪化させる結果にしかなっていないのが現実なのです。

4-2 面的な交差点の交通容量

 では、面的な道路の交差点における交通容量は、如何なることになるのでしょうか。その地域によって、道路の配置は違っています。歴史過程・産業立地・人の交流よって、道路は出来ています。一概に地域の道路網を模式化することはできません。が、交通容量の在り方をめぐる考察の上で、あえて次のページのような、格子状の道路網のある地域を設定してみました。

 

 交差方向にある自動車交通は、必ず、もう一方の交差方向における自動車交通の障害になります。これが自動車交通の抱える弱点です。歩行者を見た場合、大規模交差点のスクランブル信号(歩行者がどの方向にも渡れる信号)で、30秒の間に1000人程度があらゆる方向に移動しようとも、事故など起こる心配は殆どありません。また、鉄道であれば、立体交差にすれば交通容量は無限に近く拡大できるのです。

 上図のような地域に於いて、或る交差点の上下方向に渋滞が発生したからといって、その交差点附近の上下道路を拡幅しても、その道路の交差道路総てに負荷がかかります。負荷がかかった道路総てに、交通容量に余裕があれば問題はありません。現実には渋滞が我慢できない程度以下には、現実の交通量は減ってくれないのが一般的です。最近のように燃料高騰と不況の深刻化があれば、暫定的に交通量は減るのですが。

 或る道路の交通容量だけを増やすのは、渋滞の緩和どころか、渋滞の深刻化を深めるだけです。その地域全体の交差道路交通容量も含め、拡大することが必要です。それらについて、全く否定するつもりはありません。その地域の住民環境なり、産業立地プランに基づき、ある程度の整備は計画しなければなりません。

 しかし、一定の道路整備ができている以上、道路容量を増やすというのは、面的な道路整備が必要となり、膨大な道路予算を必要とします。そこで発想の転換が求められてくるわけです。お金をあまり使わず、地域住民や産業が納得できる方策を考えるのが、道路交通工学です。

4-3 交通容量を増やさずに交通量を減らす

 大渋滞が発生すると、大問題と考える人が多いです。ところが、先に見た限りにおいて、大渋滞の原因になっている交通量というのは案外と僅かなものです。この僅かな交通量を減らす手法について、次に考えてみようではありませんか。それがTDM(Transportation Demand Management)、交通需要マネージメントというものです。

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