『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』市民科学講座「ナノ粒子の健康リスク」に参加して**<2013.3. Vol.77>

2013年03月26日 | 単独記事

市民科学講座「ナノ粒子の健康リスク」に参加して

大城則龍

 2月後半は東京にいて、「さいなら原発尼崎住民の会」のSさんのメールにより、2月23日に渋谷市民科学講座「ナノ粒子の健康リスク」(主催:NPO法人市民科学研究室)がおこなわれることを知り、参加してきました。ご紹介いただいたSさん、ありがとうございます。まず講座内容の報告の前に、自動車排ガスによる大気汚染問題全般について簡単に説明します。

 自動車排ガスの中でも特に二酸化窒素(NO2)や浮遊粒子状物質(大気中に浮遊する直径10μm【1/100mm】以下の微粒子=SPM)が健康被害の原因物質として注目され、環境基準が設定されて日本中で測定が継続されてきました。道路公害裁判でも二酸化窒素やSPMの毒性が焦点となり、勝利裁判の判決文にはそのどちらかが原因物質として、あるいは両方が複合的な作用を施してと明記されてきました。ところで二酸化窒素も浮遊粒子状物質も主にディーゼルエンジンからから排出されます。

 ディーゼルエンジンでは、ピストンによって空気を圧縮し、シリンダー内の高温空気に燃料を噴射することで自然着火させて動力を得ます。この時、空気に含まれる酸素が燃料分子と反応して着火するのですが、同じく空気に含まれている窒素も酸素と反応して窒素酸化物が生成されます。この窒素酸化物をNOX(ノックス)と総称し、その中の窒素が二つの酸素と結びついたものがNO2(二酸化窒素)です。要するに二酸化窒素の構成に燃料はかかわっていません。一方SPMは、シリンダー内に噴射された燃料や潤滑油などが構成にかかわっています。

 さて、一般にSPMはディーゼル排ガス由来のもののほかに、ウィキペディアの解説によれば、石炭や石油の燃焼によって発生するフライアッシュ(飛灰)、物の破砕などにより発生する粉じん、風じんや砂じん嵐によって発生する土壌粒子(最近話題になっている黄砂もこの中に含まれます)、海面から発生する海塩粒子、タイヤ摩耗粉じん、花粉などの植物性粒子、カビの胞子などの動物性粒子、スタッドタイヤにより道路面が削られて発生するスパイクタイヤ粉じん、宇宙から降下してくる宇宙じんなどがあるそうです。

フライアッシュ(飛灰);かつては産業廃棄物として処理されていたが、最近ではコンクリートに練りこまれて再生されている。放射能に汚染されたガレキの焼却灰もコンクリートの素材の一部として利用されている危険性がある。

 話しを自動車排ガスに戻しましょう。二酸化窒素濃度の測定には簡易法があり、多くの市民団体などが取り組んでいます。排ガスの人体への毒性については、さまざまな議論を経て、排ガスに含まれる物質の中では、どちらかと言えば二酸化窒素ではなくSPMが主犯格だという結論に落ち着きつつあります。ただし市民がおこなう二酸化窒素の測定活動は決して無意味ではありません。二酸化窒素もSPMも(後でふれるPM2.5やナノ粒子もふくめて)ディーゼルエンジンから排出されますので、ディーゼルエンジンからの排ガス物質総体の濃度の指標としてとらえれば、今後も充分意味のあるデータが得られると思います。行政が管理している自動車排ガス測定局は比較的交通量の多い幹線道路に設置されているものの、その幹線の中でも比較的低い濃度になりやすい箇所に設置されていることも少なくないのです。行政は環境基準を達成したか否かを毎年評価してはいますが、その幹線道路の1,2ポイントの評価にすぎず、厳密に言えば、その幹線道路のほとんどを評価していません。市民が年に数回定期的に、たくさんのポイントで測定することは、行政が把握しえない、平面的な変化を確認できるのです。

 そしてSPMの中でも、どうやらPM2.5(1/400mm以下の微粒子)が特に毒性が顕著だと言われ始めました。1997年にアメリカでPM2.5の環境基準が設定され、それから12年後にようやく日本でもPM2.5の環境基準が設定されました。

さて、SPMの濃度は経年的に下がりつつあります。その理由は、自動車NOx・PM法の求めに応じて、車種を特定して古いディーゼル車を規制したこと、新車の規格を①セラッミクフィルターや触媒法により、排ガスとして排出される前にSPMをある程度除去してきたこと、②コモンレールシステムという燃料高圧噴射を開発し、排ガス中のSPMの総量を低減させたこと、などによります。

 ところがここに落とし穴がありました。

 コモンレールシステムは確かにSPMの総質量を低減させるのですが、それは、排ガス内の比較的粒子径の大きなものを減らすからなのです。そして、残念ながら比較的粒子径の小さいものは以前よりも多く排出していたのです。

 例えば、粒子径10μmのもの1個を除去し、その代わりに1μmのものを700個新たに生成した場合には、SPMの総質量は小さくなります。その結果、1μmのものが700個も増えてしまいます。

 環境基準を守るために開発した技術が、皮肉なことに新たな難問を発生させました。しかもそれは人体にとって大変な脅威となるかも知れません。ディーゼル車はガソリン車に比べて熱効率がよく、少ない燃料で長い距離を走ることができます。コモンレールシステムを取り入れることによって、さらに熱効率は良くなりました。二酸化炭素の排出量が少ないので、地球温暖化対策でも優良なシステムのです。このナノ粒子の問題を除けば・・・。

 PM2.5の中でも0.1μm(1/10000mm)程度以下の粒子をナノ粒子と言います。

ナノ粒子とは

 ナノ粒子とは、粒子の大きさで規定されます。1㍍に対して1mmは1/1000㍍、1μmとは1/1000,000㍍、1nm(ナノメートル)とは1/1,000,000,000㍍です。ナノ粒子は、同じ物質のよりサイズの大きい粒子とは物理的・化学的性質が大きく変わるようです。例えば金は、通常は電流を通し、また化学反応が起こりにくい物質で、色は黄色です。ところが、金をナノサイズにすると、電流に対しては半導体(導体と絶縁体の中間の性質を持つ)となり、化学反応が起きやすく、色は、粒子のサイズに応じて、桃色から赤あるいは橙色へと変わるそうです。

 銀は、殺菌・抗菌作用があることは昔から経験的に知られていました。これは銀と接触した細胞の細胞膜が破壊されることによると言われています。そしてナノシルバーは、接触する酸素から酸素原子を生成し、その酸素原子がバクテリアやウィルスと反応を起こし殺菌作用を現すそうです。ナノシルバーでコーティングされた食品保存容器(=タッパ)を手にした方も少なくないでしょう。ナノシルバーは、ソックスからパソコンのキーボード、さらに、エスカレーターの手すりに至るまで、最も多用されている強力な抗菌剤の一つなのです。このほかにもナノチタンや、レシチン、リポソームが化粧品や食品などへ利用されているそうです。

 さて、渋谷市民科学講座「ナノ粒子の健康リスク」では、主催者側が「ナノ毒性クライシスの検証」と題してナノ毒性問題の概観を説明された後、東京理科大学・武田健教授、東京理科大学・梅澤雅和研究員のお二人がそれぞれ講演していただきました。内容が重なりますので(見解が分かれている点はありませんでしたので)、お二人のお話しを以下まとめて報告します。

  まず、浮遊粒子の質量濃度と個数濃度について説明しましょう。下図をご覧下さい。10μm以下の浮遊粒子の質量分布は、7μmあたりに小さな山を、0.3μmあたりに大きな山を形成しています。しかし個数濃度は、0.1μm付近で小さな山、0.02μm付近で大きな山を形成しています。この0.1μm以下のサイズの物質をナノ粒子と総称しています。

 粒子状物質の人体への毒性を解明するときに、2つの手法があります。一つは疫学的な手法です。アメリカの90都市のPM10濃度と死亡者数との相関関係を調べると濃度が高い方が1.4%増の死亡者数(2000年)、アメリカ10都市のPM2.5濃度と死亡者数の関係は3.5%増(2003年)、カナダ8都市のPM2.5濃度と死亡者数の関係は2.2%増(2003年)です。しかもその死因は呼吸器系よりも循環器系の方が多かったのです。

 解明するもう一つの手法は動物実験です。もっとも顕著な影響は、例えばディーゼル排ガス中のナノ粒子を母親に暴露させて生まれた子どもには、大脳皮質末梢血管の周囲細胞がナノ粒子をとりこんでおり、これを溶かそうとするのですが、逆に周囲細胞の方が壊れて溶けてしまい、血管を痛めていることが解剖の結果明らかになりました。

 脳への影響とともに大きいのが精子をつくる精祖細胞への影響です。

 ディーゼル排ガス中のナノ粒子を母親に暴露させると、胎仔の脳や精巣に変異をもたらします。

 本来は、母胎と胎仔との間には血液胎盤関門があり異物を通過させないはずなのですが、これを通過しています。また、血液脳関門、血液精巣関門も通過しています。

 ナノ粒子が体内へ取り込まれた場合の解剖学的な説明をされましたが、とても意外な話もありました。

 ディーゼル排ガス中のナノ粒子は、0.02μmのサイズのものが最大の個数濃度を示していましたが、これよりもさらに小さい粒径(例えば0.006μmくらい)は、体内に取り込まれても代謝により体外へ排出されるだろうと言われていました。小さければ小さいほど毒性が高まるわけではないようです。

 ナノ粒子という言葉はあまり耳に馴染みがありませんが、例えば、タバコの煙はナノ粒子のかたまりなのだそうです。喫煙により、脳梗塞、心筋梗塞、大動脈瘤、肺気腫、ぜん息、白内障などの危険性が高まります。妊婦の喫煙は、顕著な事例では乳幼児突然死を誘発します。

 また、ナノ粒子を活用した化粧品も世間では普及しているそうですが、皮膚の構造が非常に優れていて、化粧品を塗ることで皮膚から体内へ吸収されることは考えにくいと、両先生とも述べておられました。ただし、皮膚に外傷や炎症その他の疾患がる場合は体内への浸入は起こりうるそうです。

 山火事でもナノ粒子は発生するそうです。最近注目されている黄砂はナノ粒子よりも粒径は大きいそうです。少しマスコミが騒ぎすぎではないかと言われていました。マスコミが流す中国由来のPM2.5の濃度は一日平均値をさしているのか、1時間値なのか、最大値なのか平均値なのか、情報を冷静に判断してほしいと言われていました。

 

血液胎盤関門:水俣病が発生した当初、当時の医学界の常識では、血液胎盤関門は胎仔を守るためにあらゆる異物を通過させないことになっていた。故原田正純氏は、メチル水銀化合物は血液脳関門と同様に血液胎盤関門を通過し、したがってメチル水銀化合物を蓄積した魚介類を食した母親から胎盤を介して胎児の脳に広範な障害を起こすことを初めて明らかにした。

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