ドイツの環境を知る旅から(4)
前川協子
7.ミュンヘンの雅子さん宅ヘ
バスがロマンティック街道を経てミュンヘンの中央駅広場へ着いた頃には、日がとっぷり暮れていた。丁度ミュンヘンではオクトーバーフェスタという有名なビール祭りが開かれていたので、ホテルの予約が取れず、高橋さんの知人である雅子さんのご厚意に甘えて、ご自宅に泊めて頂くことになっていた。
彼女と落ち合えるまで暫し駅構内を見て歩く。さすがに国際的な駅だけあって、大勢の人が行き交う喧騒は今まで巡って来たドイツの街の落ち着いた印象とは全く違っていた。結構目についたのが、坊主頭に目付きの鋭い若者達で、これが俗に言う右派なのだろうか。やがて迎えに来て頂いた雅子さん一家とも無事に出会えて、ご主人が運転されるワゴン車でお宅へ向かった。着いたのは落ち着いた風情の住宅街にある一戸建で、広い敷地の中にはプールやガーデンパーティもできる庭があった。家もソーラーハウスということで、小人数のまだ若いご家族としてはめぐまれた住居であろう。
雅子さんとドイツ人のご主人の間には、ダニエル君という小学校1年の坊やがいて、とても愛くるしく、人なつこくて、日本語で色々話しかけてくれる。達者にCDを掛けて音楽のサービスをしてくれるのだが、思いがけなく異国で日本の色々の曲を、それも子供向けの新しい歌を知って感慨深かった。私達は心ばかりのお土産に雅子さんが喜ばれると聞いた日本の白米を差し上げた。
家の間取りは1階がリビングを中心にした生活圏で、2階がそれぞれの個室になっているようだった。私達の寝場所は、らせん階段を昇った屋根裏部屋で、普段はご主人のオフィスとして使われているとのこと。壁に掛けられた日本の四季と思われる写真の額が彼女の故国への郷愁を物語っていた。
この日、日本語が通じる有難さで分かったことはトイレが無人の時はドアを少し開けておくというマナーだった。従来の日本の感覚ではドアの閉め残しはだらし無いとされてきたのだが、やはり時代が変わり、国が変われば、これも国際的なマナーの一つとして覚えておいた方が良いらしい。
その夜、私は眠りについたのだが、夜半には凄い雷と風雨があって、同室の仲間は「怖くてなかなか眠れなかった」という。日ごろの睡眠不足を旅で補う習性の私としてはラッキーな安眠であった。
8.ダニエル君の通う学校
快晴の翌朝、私達はダニエル君の登校にお供して小学校を訪れ、授業前の一刻を参観した。通学路は歩車道の分離が徹底し、自転車道も整備されている。自転車道をすっ飛ばすライダーがいるとかで「危ないからくれぐれも歩道を歩くように」とカメラを構えてついふらふら歩く私は幾ら注意されたかわからない。
低学年の登下校には親の付き添いが当たり前なのだろうか。学校が近づくにつれ、色とりどりの服装をした親子連れが増えてきた。子供達は様々な模様入りのカラフルな鞄を背負っていて、それは日本のランドセルよりは大型で、しかも横長タイプだった。
驚いたことに小学校はミュンヘンの市中でありながらうっそうたる森の中にあった。緑のトンネルをくぐり、朝の湿った心地よい空気を吸いながら登校する子供達の心と身体の健康さに幸いを感じずにはいられない。まだ始業前なので私達も校舎に入らせてもらう。
内部は木造で廊下も広く、緑の庭に面している側は総ガラス張りになっているので解放感とゆとり感がある。璧はギャラリーのように活用されていて、楽しい作品が一杯展示されていた。
子供達はまず数室横のコーナーで靴を脱ぎ、上着を取って掛け、身軽な服装で教室に入って行く。生徒数は一数室でせいぜい30人ぐらいと思われるが、数室には教師が2人待機していて、広い数室に高い天丼など総てゆったりと自由な雰囲気だった。
豊かな植栽に囲まれ、独創的、芸術的なインテリアの学校で育つ子供達を見ていると、日本の学校が如何に冷たい雰囲気で子供達の自由を束縛しているかのように思えてならなかった。日本の学校教育にもっと自然を!整った施設を!楽しさを!ゆとりを!、願わずにいられない。
9.幼稚圏の環境教育
ダニエル君を送り届けたあと、私達は雅子さんのご案内で幼椎園を訪ねることになっていた。まず市電(?)に乗って目についたのが赤十字状のマークがついた優先席だった。目的地に着いた街角には人間の背丈を越すほどの大型分別ゴミBOXが設置されていて、頼もしく便利そうだった。
市立の幼稚圏は高校のそばにあり、この高校も又、学校とは気付かないぐらい総ガラス張りのモダンな校舎だった。この幼稚園は85人位の規模というが、とても家庭的な雰囲気で玄関には手作りの大きな人形が椅子に座って迎えてくれたり、園児たちもめいめい好きなことをして遊んでいるようで、暖かくヒューマンな感じがした。
園庭を巡りながら女の先生から環境教育について話をうかがった。彼女はまだ若くグラマラスでチャーミングな人であったが私達に熱心に説明をして下さったので、とてもよく内容を理解することができた。
何と言っても、目の当たりに園庭を見ただけでその環境教育の素晴らしさ実践振りがよく分かる。この幼稚園にもうっそうたる森がバックにあるのだ。よく手入れされた芝生に、ビオトープや木組みの小屋、テーブルセット、砂場、インディアン風の三角小屋等が点在し、ハーブ等の草花がやさしい彩りを添えている。かかしが立っていたのはご愛嬌で日本のものがヒントになっているのだろうか。
感動的だったのは、大都会の中のこの園庭の木陰にはリスやカタツムリが居たことだ。今や私達の町ではリスはおろかカタツムリさえ見かけることが出来なくなったというのに……。
ドイツの自然保護、環境教育、共生の実践に脱帽した。つまり幼稚園からの徹底した環境教育が一貫してドイツの国土を守ることにつながって行っているのだろう。
教えて頂いた環境教育方針(1998年)に基づく幼稚園の取り組みを紹介すると、
- お弁当には弁当箱を用い、旬の素材、地域産を使うようにする。
- ノーバック包装の徹底
- 玩具の修理
- 国内のゴミも分別を徹底、特にバイオゴミの有効利用
- 天水桶を置き、雨水の利用
- 木工小屋にあらゆる工具を置き、小さい時から手作りになじます。
- ピオトープを作ったのも、先生と親、子供達の合作で、底にゴムシートを敷いて工夫したもの。
- 洗剤等も合成品を排除し、純正なもののみ使用。
- 工作等をする時も、できるだけ色物や糊を使わないようにする。
- 砂場も自然感覚を大切にし、枠などを作らない。
- 草花もハーブ等の芳香性が高いものを植えて、リラックス効果を高める。
等、実にきめ細かな指導方針であった。
園内をくまなく見せていただいたが、非常に清潔で明るく、室内の木組みのソフトさと、水廻りのタイル貼りのクリーンさがそれぞれに好もしい。子供向けの低くした洗面台の壁には、ズラリと歯ブラシが並び微笑ましかった。その他、子供の独創性豊かな作品を見たり、ロマン溢れる装飾や、お誕生日等のお祝いの時に座る王様の椅子等を見て、とても子供達が大切にされているな……と思った。
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