『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路環境基準の基礎知識②**<2001.7. Vol.12>

2006年01月04日 | 基礎知識シリーズ

道路環境基準の基礎知識
道路に関する環境基準の現状と問題点 V0l.2

世話人 藤井隆幸

3-1 道路振動に於ける環境指針の前回のおさらい

 Vol.1においては道路振動問題の説明に入ったが、紙数の都合により中断となったので、ここで前回の要点をまとめておきたい。

  1. 道路振動については、振動規制法による「要請限度」はあるが、環境基本法による「環境基準」が定められておらず、指針値が緩やかに過ぎる。
  2. 現実の幹線道路沿道で受ける、時折発生する衝撃的な振動は、百パーセント測定値から外される結果となっている。
  3. 環境庁が取りまとめた「道路交通振動現況調査」でも、「要請限度」は道路振動に対する苦情の実態を全く反映していない。
  4. 道路振動被害は沿道住民しか被害実態の理解はできない。しかしながら、現実の沿道で住民運動は少なく、環境指針の改善要求が出にくい現実がある。
  5. 道路振動のメカニズムは非常に複雑で、沿道住民が科学的に振動被害説明をするのは難しい。一方、振動の専門家集団は現実の被害実態を知らない。

3-2 振動測定の国内規格と国際規格

 道路振動測定方法については、日本工業規格(JIS)で定められている。具体的には前回に、環境庁が指定したマニュアルとして説明したとおりである。規格で言えばJIS Z 8735 「振動レベル測定方法」として定められている。センサー(ピックアップ)と振動計はJIS C 1510の規格のものを使用し、JIS C 1512の規格のレベルレコーダーを使用する事となっている。

 国際的には国際標準化機構(ISO)に定めがある。環境庁が指定しているJISよりも、既に進化した手法となっている。ISO 2631「全身振動に対する暴露の評価に関する指針」が10余年の後に、ISO 2631/2「建物内における振動及び衝撃に対する暴露の評価」に発展させられている。

 詳細に関しては深入りし過ぎで、一般的な理解の限度を超えるので避けたいが、大まかなJIS規格とISO規格の差を説明したい。まず、JISはセンサーの設置を道路端の地表面に指定しているのに対し、ISOは建物内の床に設置するものとしている。道路振動は建物内(特に木造の二階部分)で増幅する傾向が顕著であり、実生活で振動被害を感じる建物内のほうが、振動被害の実態に即している。

 道路振動は一般的に、垂直方向(上下方向)の揺れが大きい。しかしながら、建物内で増幅した振動は、必ずしも垂直方向が大きいとは限らない。JISでは垂直方向のみの測定を指示するが、ISOは垂直方向と共に、水平方向の直角に交わる2方向の測定を指示している。より被害感に即応していると言える。

 最後に、少し判り難い事であるのだが、周波数特性においてJISよりISOの方が敏感に振動を検知する。モノには必ず固有周波数があり、固有周波数に近い周波数の振動に、共振する性質がある。振動計のセンサーと言えども、振動の周波数帯によって振動を受けやすさが違ってくる。JISのセンサーよりもISOのセンサーの方が、周波数帯によっては、より感受性が高いのである。

訂正とお詫び Vol.1の『2-2道路振動測定のマニュアル』において、昼間の時間帯と夜の時間帯の説明に間違いがあった。昼間は午前8時台~午後6時台の平均値で、夜間は午後7時台~午前7時台の平均値をもって値とするのが正しい。

3-3 環境庁の国際標準化機構への対応

 ISO 2631/2が1989年2月に規格化されたのを受けて、環境庁の大気保全局特殊公害課(当時)は「公害振動の新評価法に関する研究結果報告書」(1999年3月)を作成している。前項の差を研究結果として認識しながらも、結論として「地表面における鉛直(垂直・上下)方向の振動レベルによって、居住環境、すなわち家屋内における公害振動の状況を把握することが可能であると考えられる。」としている。

 結局、国際的には評価が変っているにもかかわらず、環境省はいまだに振動規制法の要請限度の見直しに至っていないのである。当時の環境庁は学者を集めて、各種の公害振動のデータを分析させたわけである。しかしながら、学者は公害振動の被害実態を全く知らないのである。そこに被害住民の意見を反映させなかったのは、分析結果に決定的な欠陥を生じることになったのである。

 JISで測定したデータをISOに換算してみたが、要請限度に照らして、それを超えるほどの差にはならないことで、現行手法の変更の必要性を否定したのである。

3-4 欧米先進国と日本の道路事情の差

 振動の環境指針が現実離れしている原因は、前回のおさらいの④で指摘したように、被害者の声が大きくないことが挙げられる。新設道路では大きな住民運動が組織されやすいが、既存道路では環境問題を指摘する人は転居することが多い。従って、幹線道路沿道は過疎と高齢化が特徴となる。必然的に住民運動は衰退し、被害者の声が届かないわけである。

 そんな理由とは別に、日本の環境基準は欧米先進国の先例を手本にする。ところが欧米先進国では、幹線道路沿道に住居が張り付くことは殆ど例が無い。反面、日本では既に住宅が張り付いた地域に、戦災復興土地区画整理により、幹線道路を設置して来たと言う歴史がある。60~70年代に都市計画された川西市の幹線道路も、平野グリーンタウンや清和台のように、住宅街を貫通している。

 また、欧米では幹線道路といえども、大型トラックやトレーラーが多いことは無い。まして、昼間の街中でその様な車が走ることなど、考えにくいし常識として否定されている。その非常識が、日本では当たり前の事として、まかり通っている。欧米の住宅地で、道路振動そのものが問題になることは無い。その基準を日本に適用しても、陳腐としか言い様が無いのである。

 欧米では、ある一定の振動をしている作業場を想定し、どれ位の人が不快を感じるかを実験し、その何割かの値を環境基準としている。しかしながら、その様な道路沿道住宅が殆ど無いことで、問題視されていない。日本の幹線道路沿道の実態は、比較できないくらいの過酷なものである。振動も継続性のあるものとは限らず、突然の揺れが多い。欧米の実験結果など、通用する筈も無い。

3-5 国道43号線の道路振動の実態

 沿道住民を訪ねると、異口同音に振動被害を訴える。しかし、よく聞いてみると具体的振動の説明は、それぞれ違うことに気付く。

 沿道民家の阪神高速道路公団による、防音助成がほぼ完了している今日、騒音被害の訴えを振動被害の訴えが上回るようになった。よくあるのが、ガラス戸のビリビリと鳴る音への苦情である。この訴えは総ての沿道に共通する。ある人の家に行くと、洗面器に水を入れ屋上の床に置いて見せられた。確かに水の輪が出来て振動のあることが判る。他人には感じなくても、家人は確実に感じている。別の家では、棚やタンスの上からモノが落ちてくると言う。ある酒屋さんでは、展示してある酒瓶のラベルが一日で裏向きになるという。このような振動を振動レベル(数値)でみると、要請限度には遥かに届かない。

 沿道住民は日頃、黒煙に包まれながら轟音を鳴らし、群がる化物のような大型車の流を、目で見て肌で感じて脳裏に焼き付いている。騒音が酷い時は、気が付かなかった、その実感が、防音工事で多少静かになった屋内でも、振動によって蘇るのである。振動だけを分離して感受している訳ではない。要請限度内では被害感が無い筈と思うのは、机上の空論に過ぎない。

 次に特徴的な振動は、時折、地震と間違えるような揺れを感じる事である。沿道住民は地震と直ぐに区別がつくが、震災後は、道路振動と判っていても心臓に負担がかかると言う。

 親戚が来た時の事である。「お母さん!地震やわ!」と言って立ち上がった。住民はキョトンとしている。道路振動は数秒で収まり、地震の横揺れと違い、殆ど上下動なので判るのである。枚方の道路団体が43号線を視察し、原告団団長宅の三階で交流した時のことである。枚方から来た数十人が、地震だと言って騒然となった。原告団のメンバーは、何時もの事ですよと平然と言った。沿道では、よくある話である。

 毎日、地震の如くのように襲ってくるのであるから、瓦のズレ・タイルのひび割れ・建付けの不具合は、沿道の共通被害となっている。阪神淡路大震災でさえも、要請限度内であるのだから、これらの地震様の揺れも当然、要請限度内である。震災後は多くの家が建て替り、また改築されて奇麗になった。が、震災後は振動被害が増えていると指摘する住民が、圧倒的に多い。

 意外な振動被害に、高級マンションが揺れると言うのがある。玄関のドアを開けてはいると、ロビーがあって、その奥にオートロック式の入り口がある。深夜、誰も出入りの無いロビーに居ると、風もないのに集合ポストの戸ブタが、或る時突然、一斉に揺れ出してバッタバッタと音を立てるのである。管理人室にある意見箱の錠前も揺れている。一般に大きな鉄筋コンクリートの建物は、振動しないのが常識となっている。最上階の八階に住む人の苦情が発端で、判ったことである。

3-6 道路振動のメカニズムの解明

 地表面は薄い板状の地層が重なり合っている。その上を道路が通るのであるから、振動はベニヤ板を揺らしたように、上下動が一般的になる。平らに見える路面も、夜間にヘッドライトに照らされているのを見ると、影が出来て凹凸が判る。5mm程度の凹凸があれば、道路振動が発生するのは、建設省や道路公団の維持事務所の職員なら周知の事実である。大型車の輪過重は5t前後に及び、地響きを発生させる。家屋内ではガラス戸などがビリ付きを起こし、上下動が水平方向の揺れにもなっていることがわかる。

 地震のような揺れに関しては、交差点付近の住民に苦情が多いことが認められる。赤信号で一斉にブレーキをかける車の集団は、その車重のみならず減速抵抗が下圧力となり、車重の何倍かの重量が路盤に掛かることとなる。平均車重20tの大型車が15台、一斉にブレーキを掛けたところ、減速抵抗が車重の5倍であったとしたら、1500tの過重が路盤に掛かることとなる。地面の固有周波数と同調した場合は、地震のような揺れを発生させる可能性はある。河川の近くで地震のような揺れが大きいことから、地下水位も関係しているように思える。

 巨大マンションの揺れであるが、国道43号線が信号で止まっている時も揺れていることから、原因は阪神高速であると思われる。この地域では、マンションも阪神高速の橋脚も、15~25m下の共通の支持層まで基礎杭を設置してある。お互いの基礎杭の距離は数10mしか離れていない。阪神高速で渋滞した時に誰もが経験していることであるが、高架路面はかなり揺れている。阪神高速の脚間の、桁と路盤の重量は数1000tに及び、巨大マンションの何分の1かに相当する。震災後に桁を連結したことから、数10000t単位の桁重量の揺れが、支持層を伝っていることが考えられる。

 震災後の民家は、ベタ基礎にプレハブという建物が多い。従来の基礎は、軟弱ゆえに地面の揺れを吸収しやすかった。また、建物の重量が大きいため、揺れにくいと言う長所もあった。ベタ基礎は頑丈である為に、地面の揺れをまともに受け、軽量であるプレハブは揺れに同調しやすい。震災後の振動被害の深刻さは、その様なところから来るのではないか。

3-7 道路振動のまとめ

 膨大な研究費用を持たない住民にとって、道路振動のメカニズムの解明は難しい。しかしながら、現実を知るのは住民だけである。被害の実態から、振動規制法の要請限度の見直しと共に、環境基本法において、振動の環境基準の要求をしてゆかねばならない。道路振動公害は独立して被害を及ぼすのではなく、あくまで他の被害と相乗効果の上で、精神影響・睡眠不足等をひき起こすのである。

4-1 次回の予告《騒音の話》

 道路振動の次は道路騒音に関して説明したい。しかしながら、騒音問題を扱うにあたり、騒音についての基礎知識を持って頂きたい。騒音も振動と同じくdB(デシベル)を単位にするのであるが、その数値の大小を言う場合、簡単に言えない事がある。

 振動の場合、数値を扱う以前のことが問題になった。しかしながら、騒音では数値の論議をせざるをえない。その為に《騒音の話》から始める事となる。

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