アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

DNA鑑定

2016-12-30 16:17:45 | 日記

書きたいことがたくさんあるのですが、時間がとれずに年末になってしまいました。ひとまずノートに書き溜めておき、今回は、どうしても書いておきたいことを記します。

北海道大学をはじめ、全国の12大学に個体ごとに特定出来るご遺骨が1636体あり、個体ごとに特定できないバラバラのご遺骨が515箱あると文部科学省の調査(2013年)で明らかにされました。その後も、調査が適当だったことで2016年8月に再調査を行いました(結果は未確認)。さらに、国内の博物館、研究施設にも遺骨があることが判明し、遺骨の数は増えています。

今回、問題にしたいのは、6大学に「保管」されていた「個体ごとに特定できない515箱」について。

東北大(1)、新潟大(17)、東京大(6)、大阪大(2)、天理大学(5)に、北海道大が484箱。

木製の箱に保管されている遺骨が508箱(約99%)、紙製の箱に保管されている遺骨が5箱(約1%)、プラスチック製の箱に保管されている遺骨が2箱。箱の大きさは各大学によりバラバラなので何人の方の遺骨かは不明。こんなずさんな「管理」と「保管」に怒りを覚えます。勝手に盗掘して研究材料にし、ずさんな管理をした大学は、まずは謝罪するべきです。バラバラにされたご遺体を元に戻せと要求するのは当たり前のことと考えます。

 ※ 『大学等におけるアイヌの人々の遺骨の保管状況の調査結果2013』参照 ここ

過日の道新に、保管されている515箱のご遺骨のDNA鑑定をするとの報道がありました。(北海道新聞 12/23 05:00、12/23 16:47 更新)ここあるいはここ

「有識者会議」とは何か不明でしたが、仲間が教えてくれたところによると、文部科学省の「大学が保管するアイヌ遺骨の返還に向けた手続等に関する検討会」ココのもとにある「DNA鑑定等の在り方に関する作業部会」のことか? しかし、いずれも議事録は見つかりませんので12月22日の会議がこの部会決定のことかは不明です。

この記事によると、515箱のバラバラのご遺骨を「できるだけ一体として特定」するためにDNA鑑定をするというのです。この記事は28日付で訂正が行われ、

「2019年度までに骨学的に同じ人のものであるかどうかを確認するとともに、これによる一体化が難しい場合に限り、アイヌ民族の同意を得てDNA鑑定の活用も検討するという方針を固めた」(24面)と。

人騒がせなものとなりました。23日から5日も経っての訂正で、しかも小さく謝罪もなし。

 

しかし、将来的にDNA鑑定をするとなると、いくつかの問題があります。

まず、バラバラな部位の中には「個体として特定出来ているご遺骨」の一部が混入されている可能性があるのなら、すでに個体ごとに特定出来ているご遺骨も一致させるためにDNA鑑定するということになりかねません。現在、大学等に「保管」されているすべてのご遺骨のDNA鑑定がなされることは大きな問題だと考えます。

まず、鑑定のためにご遺骨がさらに傷つけられバラバラにされることになります。遺骨の尊厳を傷つける行為です。たとえ、1グラムの半分の量であったとしても、です。※1

そして、再度、遺骨は研究材料にされるという問題があります。第14回アイヌ政策推進作業部会(2014年2月28日)ココでの議論で、こんな発言が(おそらく和人の学者?)から出されています。

○遺骨を一体にすることとアイヌ民族の起源などを知るために行う作業は、性別や年齢の特定や仮に行う場合におけるDNA鑑定なども同じ作業とになるので分けて考える必要はないのではないか。

DNA鑑定をしてしまえば知りたい情報が手に入るということでしょう。DNAの保管や管理の倫理はできるのでしょうか。遺伝情報をそっくり流用される可能性も多いです。

また、鑑定によって「遺骨承継者」に返すことが出来るようなことが書かれています。そうした場合、今、生きておられるアイヌ民族の方達のDNA鑑定が必要になります。

このDNA鑑定の議論は第11回作業部会(2013年4月19日)から行われています(※1の発言もココから)。そのときのやりとりでは

○四肢骨と頭骨がバラバラになっている骨については、これが一体になって初めて返還になるのではないか。遺族に返すには、遺骨を一体にする、掘った際の状況に復元するということを考えなければならないのではないか。そのために、DNA鑑定の手法を用いて一体に組み上げることは可能か伺いたい。

○理論的には可能だが、非常に大変な手間がかかるのが現状だと思う。

○骨学的判定だけでは個体特定できない遺骨の全部又は一部をDNA鑑定することによって個体特定できる遺骨が増える可能性があるが、そのための作業は膨大だということか。

○そういうことである。

また、第16回作業部会(2014年4月18日)ココでは、DNA鑑定の専門家として「東京歯科大学名誉教授水口清氏」が呼ばれて手法の解説をしています。水口さんは「(正確な鑑定は)簡単なことではない」と何度もクギを刺しています。それなのに、膨大なお金をかけて行うことの問題があります。

もうひとつ、ご遺骨の「研究資料として供する」という決定はアイヌ協会の理事会で決定されたものだとのこと(第18回作業部会議事)ですが、しかし、その部会でも「北海道アイヌ協会の会員全員の一致の意見ではないですね。一部の人たちがこういうものを出してきているだけで、これを読んだら怒るアイヌがいっぱい出てくると思う。」という意見が出るほど疑問の残るものであり、さらには、北海道アイヌ協会の会員ではないアイヌ民族の意見を聞いていない、すなわち、一方的過ぎるという問題があります。

訂正記事にある「アイヌ民族の同意を得て」は、北海道アイヌ協会という一部の同意ではいけないと考えます。

さて、バラバラの515箱のご遺骨の発掘・発見された場所は、北海道が410箱(約80%)であり、樺太(サハリン)が10箱(約 2%)、千島列島が16箱(約3%)、発掘・発見された場所が不明の遺骨が79箱(約15%)。ということは、436箱の発掘場所が確定出来るということでしょう。それは、杵臼の遺骨返還裁判の和解と同じく、各コタンに再埋葬が可能なご遺骨となり、DNA鑑定の必要のない返還となります。

遺骨訴訟の原告である浦幌の差間さんもバラバラになっているご遺骨の複数の箱を返還対象として引き受ける準備をされています。また、原告のおひとりである小川隆吉さんはこの度のDNA鑑定報道でたいへん怒っておられます。ご遺骨を一刻も早く元のコタンの土へと埋葬するべきだ、と。

 この一年、忙しかったり書けないこともあったりで、更新は少しでした。読んで頂いた皆さまに感謝。新年も皆さまに神さまの祝福が豊かに注がれますようにお祈りします。


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