アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

遺骨返還等請求第6回口頭弁論

2013-11-28 10:57:35 | インポート
さる、11月8日(金)に札幌地裁において、遺骨返還等請求第6回口頭弁論が行われました。
わたしは葬儀司式のため欠席しましたが、原告側から第4準備書面が提出されましたので、できるだけ分かりやすく説明します。
書面は北大開示文書研究会HP上「遺骨返還訴訟」ページに近くUPされます。詳しくはご覧下さい。他にも、裁判当日に配布されたニュースなどダウンロードできます。
http://hmjk.world.coocan.jp/trial/trial.html

第4準備書面では、はじめに、被告の遺骨返還に関する考えである「祭祀承継者に対して返還する」と述べるに留まっていることに関して、結局それは「返還しない」という意思の表明なのだと指摘。
それは国のアイヌ政策推進会議が昨年に全国の大学等におけるアイヌの人骨の保管状況等調査を実施報告しているが、それを見ると被告北海道大学(以下、北大)は、全国の大学で「個体として特定できた遺骨」1,635体のうち1,027体を保有、うち個人特定できる遺骨は19体と報告されている(さらに「個体ごとに特定できなかった遺骨」が何箱かは不明)。つまり、たったの1.8パーセントしか個人が特定できず、約98パーセントは誰の遺骨かがわからない。返還のために被告が述べる条件「祭祀承継者であること」が判明するためには、まず遺骨が個人として特定され「誰の遺骨」かが明らかになる必要があるが、個人特定されていない98パーセントを占める1,008体(さらには個体として特定も出来ない箱積めの遺骨)について、その返還方法は全く不明のまま。ゆえに、結局は「返還しない」ということなのだろ?と。

被告側のいい分をたとえで言うなら「盗人が所有者から盗品の返還を求められた時に、ほかの人の財物と混じっていてどれを返還するか判らないから、返還しない」と同じだ、と批判。盗んだ側が返し方を勝手に決め、その通りにしなければ返さないという主張自体が大問題だ、と(ずさんな管理も被告の問題)。

ただ、現時点では、幸いなことに、どこの墓地から「発掘」されたかは資料から明らかになっている。しかも、これらはアイヌコタンが存在し、そのコタンの支配領域内に存在した墓地からであったことも明らか。したがって、遺骨の返還は、「発掘」した遺骨の由来の明らかなコタンごとに返還することが正しい遺骨返還のあり方であり、原告等が最初から主張していることだ、と主張。
これに対し、国のアイヌ政策推進会議の第12回政策推進作業部会(部会長は被告北大の常本照樹法学部教授。以下、「作業部会」)において、以下のまとめの発言が示されています。
「一方、現実問題として、現在、コタンやそれに代わって地域のアイヌの人々すべてを代表する組織など、返還の受け皿となり得る組織が整備されているとは言い難い状況にあることも考慮する必要がある。」とし、「このため、返還が可能な遺骨については、まずは祭祀承継者たる個人への返還を基本とし、地域のアイヌ関係団体など、本来の祭祀承継者以外の方への返還については、法的な論点の整理も含め、今後の検討課題とする」。(P.3)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai12/gijigaiyou.pdf


これ(被告北大と同じ論理)について、当書面は以下の批判をします。
まず、作業部会や被告北大は、何らの調査もせず、根拠もない一方的、感覚的に述べているだけだ、と。作業部会や被告北大は、今まで杵臼におけるコタンの存在と、その構成員の子孫である原告らについて、かつてのコタンとのかかわりなどについて一切、調査はしていない。原告ら及び杵臼やその周辺に居住するアイヌの人たちに聞き取りすら行われた事実はない(杵臼以外の地域でもない)ことを指摘。

次に、原告の城野口さんは、母マツの遺言を引き継いで、死者となったコタンの人々の慰霊(イチャルパ)を行なっているし、杵臼の墓地に「フシコウタルの墓」(祖先の墓という意味)を建立し、和人的な墓参りも行なっている。それなのに、被告北大は、彼女に遺骨の返還を求める権限がないとどうして言い切れるのかを明らかにしていないことを指摘し、批判。

最後に、国や被告は、なぜ「祭祀承継者たる個人」に返還するのかの根拠も明らかにせず、主張していることに対して、それは被告による「差別行為」とし(第3準備書面)、仮に「返還の受け皿となり得る組織が整備されていない」と判断したならば、それに代わり得る組織ないし個人を探すなり、そのような組織を立ち上げる努力をすべきであると批判。

書面は以下の求釈明を最後に記載。原文のまま引用します。
1 個人が特定される遺骨19体の中に、原告らが子孫となっている遺骨は存在すると判断しているのか否か(祭祀承継者か否かではなく子孫か否かである)
2 杵臼について、「コタンやそれに代わって地域のアイヌの人々すべてを代表する組織など、返還の受け皿となり得る組織が整備されているとは言い難い状況にある」と判断しているのか。
3 もしその様に判断しているとすれば、その根拠を明らかにされたい。
4 原告城野口は、かつてのコタンに代わって遺骨の返還を受ける資格があると判断するのか。
5 もし資格はないと判断している場合はその根拠を明確にされたい。
6 特に前記したように原告城野口は、母親から引き継いでコタン全員の先祖の慰霊、供養をしているが、かかる事実では足りないとする趣旨なのか。
7 もしそうであれば、その根拠を明示し、どのような事実があれば足りるとする趣旨なのか、明らかにされたい。

裁判では、この求釈明に対して、被告側は12月13日までに書面で回答すると返事しましたので、回答後の報告は後日にします。
なお、今後の審理について、原告代理人の市川弁護士より、今回の杵臼コタンだけではなく、釧路、紋別、網走など各市のアイヌ民族らが、返還を求める訴訟を年内に起こす予定だと述べ、併合審査を年明けに行うことを提案し、被告側も了承しして、次回は2014年1月31日(金)午後2時からと決定。多くの傍聴を!


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