軌道エレベーター派

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フネは宇宙船のフネ

2015-01-25 13:18:41 | その他の雑記
 宇宙船は、なぜ「船」なのか? 宇宙を行き交う乗り物に、なぜ船というメタファが用いられるのか? 今回はこの点について思うところを少々。宇宙エレベーター協会が発足して間もない頃、外部の人からこのような疑問が呈されたことがありました。この疑問に対し「航空機が船のルール(?)を踏襲していて、左側を接舷するのはそのため。宇宙船はその延長だから」といった意味合いの意見が出ました。
 私は、これは違うと思いました。航空機の登場は関係なく、そのずっと前から、宇宙を旅する乗り物はすべからく船に結びつく。これは神話レベルの時代から多くの人間に刷り込まれた、共通した連想ではないかと考えるのです。

 確かにスペースシャトルのオービターは左側にハッチがあります。しかしあんなヒコーキそのまんまの宇宙船は例外中の例外であって、ほぼすべての宇宙船は円筒形や球形、もしくはその集合体のようなもので、左右は関係ないような造りをしています。さらに言うと、宇宙開発においては「宇宙機」、英語では"Space Craft"などという言葉がよく用いられます。これは宇宙船だけでなく無人の探査機、衛星など全般を指しますが、有人機も英語だと"Ship"はあまり使われず、"Module"とか"Pod"なんて言われることの方が多い。現実問題として多段式ロケットブースターとのコンポーネントになっていて、再突入時にパージする部分もあったりするので、宇宙船本体もパーツの一部でしかなかったりするせいでしょう。つまり宇宙「船」という言葉の発想は、現実の宇宙開発とは必ずしも関係がない。むしろ想像力が物を言う世界の方が親和性が高く、そちらにルーツを求める方が自然に思えるのです。

 古代エジプトの太陽信仰では、太陽神ラーが船に乗るそうですし、日本でも古事記に「鳥之石楠船神(トリノイワクスフネノカミ)」という、神が乗る船が登場するそうです。七夕は中国が起源ですが、船で天の川を渡るのだとか。また、上弦の月を小舟にたとえる発想も古今東西古くからあります。
 なぜこういうイメージになるのか、それは宇宙が大海原にたとえられるからにほかならない。とりもなおさず、そこを行き来する乗り物は「船」もしくは「舟」と表現されるのが、極めて自然な流れだというわけです。航空機の発想自体がなかったから生じようもないのですが、私たちの文化や思考パターンにインプリンティングされた原初的なイメージとして、宇宙で乗るのは選択の余地なく宇宙船になるのではないか。

 それゆえに、1961年に有人宇宙飛行が実現する前に書かれたSF作品においても、有名どころではA.E.ヴァン・ヴォクトの『宇宙船ビーグル号の冒険』(1950年)のように、やはり船に帰結しやすい。また、19世紀にマクスウェルの電磁気学が登場するまで、宇宙は真空ではなく「エーテル」で満たされているという考え方がありました。真空を伝わる相補的な波、つまり電磁波の存在が解明されていなかったため、太陽など天体の光が地球に届く以上、光を伝える媒体があるはずという考えから仮定された架空の物質です。
 このエーテルが満たされた宇宙を行き来するということで、船もしくは潜水艦のような乗り物というイメージも出てきました。空気も流体ですが、上下左右のない宇宙を行き交うものとしては、船か潜水艦の方に先に行き着くのでしょう。古典SFはこの宇宙観に基づいて書かれたものもあり、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』シリーズ(1966年~。最初の短編は1940年代らしい)に登場する「コメット号」は涙滴のような流線形をした宇宙船です。
 もちろん宇宙船以外の手段もあって、有名なジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』(1865年)では月に砲弾を打ち上げるし(マスドライバーのはしりだね)、長山靖生著『日本SF精神史』によると、明治期に書かれた『宇宙之舵蔓』という作品では「電気気球」で月に行くんだとか。しかし目的地が月のような肉眼で見える「近場」だからで、恒星間飛行を舵取りしながら物理的に行う乗り物となると、船の方が連想しやすいのだと思います。くどくど述べてきましたが、平たく言うと、宇宙つったら、やっぱ船じゃね? なんとなく。ということですね。

 そんなわけで、概念としての宇宙船は、実際に航空機が空を飛ぶ以前から存在した。固定翼を装備した飛行機のフォーマットが、宇宙「船」にたどり着いたというのは、やはり違う。宇宙船という発想は、私たちの原初的な思考から、出るべくして出たイメージであろうと考えるわけです。広大な宇宙を旅するというのは、長旅になるであろうという思考もあるのだと思います。人生も航海にたとえられますしね。
 何よりも、飛行機より船の方がロマンがあると思うのですよ。天を渡る乗り物はやっぱり「船」が似合う。本当に長旅が可能になるような宇宙船の登場を望んでやみません。
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