記日きつい思れぐま気 from バンクーバー

2012年4月から妻の海外赴任に伴い主夫業と育児に励む30代男性の日常。バンクーバー関係ないことも多々あります。

従順なバカが出世する日本企業はどうしたらいいかという話

2012-11-20 20:15:26 | Weblog
あるお方に書けと言われたので書きますよ。

元はFacebookで「かわいいデザインのエコバッグは日本でも人気が出るはずなのに、ヨーカドーやイオンで見かけない気がするのはなぜだろう」というところから始まりまして、巡り巡って日本企業でよく見られる「従順なバカが出世する人事制度」をどげんかせにゃいかんだろう、という話になりました。(なんで?って思うかもしれないけどそうなったんです)

従順なバカ、つまり「上の指示を忠実に実行する兵隊さん」としては優秀だけど、自らが立案して指示を出し統率することは得意ではない人、って実際のところ結構多いですよね。これは日本の教育制度、もっと言えば日本の文化に端を発していると個人的には思うのですが、そこまで話を広げると収拾がつかなくなるのでおいておきます。

さて、「従順なバカ」が出世できない制度、というのはもちろん存在します。兵隊さんは一生兵隊さん、平社員は一生平社員、というものです。彼らは兵隊としてはとても優秀です。規律を重んじ、混乱を嫌い、死ねと言えば死ねる方々というのもこれはこれで貴重な存在なのです。なのでその能力を最大限発揮できるポジションを一生あてがうことは、できない仕事を与えて無能だなんだとみそクソに言うよりは本人にとっても会社にとってもとてもハッピーなことであります。

「すごく優秀な営業マンだったのに管理職になったら無能過ぎて泣ける」という悲劇もこれで防げます。ちなみにそういう事例を指摘したピーターの法則というものがあります。これは、「ある組織において人は最も能力を発揮できないポジションに落ち着く」というものです。つまり、能力を発揮していれば出世して上のポジションを用意されますが、能力を発揮できないところで「無能」の烙印を押され、その場に塩漬けされるということを意味しています。この場合、本人を前の役職などに戻してあげることが良いわけですが、前の役職にはもう他の人が座ってしまっているし、本人のプライドなども手伝ってなかなかことが上手く運ばないわけです。

話は戻って、このような制度においては上級職は他所から採用してくるという方法をとります。外資系企業がよく役員クラスを外から引っ張ってくるのはこういうことです。お金はかかりますが、MBAを取得した(おそらく)とても能力の高い人達を上に据えればまあそんな間違いはしないだろう、ということですね。この方法の問題点は、平社員の皆さんの出世欲を期待できないためモチベーションをあげることが難しいことと、ヘッドハンティングによるコストがとてもかかること、会社の文化とヘッドハントされた人自身(あるいはその能力)との相性がわからないなどがあり、必ずしも万能の方法ではありません。

外部から引っ張ってこなくても内部の優秀な人を引き上げればいいじゃんという案もありますが、それが簡単にできれば苦労はしないわけですね。ここが人事制度を設計するにあたってどこの会社も非常に苦慮しているポイントではないでしょうか。なぜならば、これはひとえに「上司の部下を見る能力」に依存せざるをえないからです。上記の営業スタッフの例のように、どんなに現職種で有能であったとしても、それが管理職で優秀であることを意味するわけではありません。「名選手名監督にあらず」というやつですね。さらに、「現時点では優秀とは言い難いが、管理職としては優秀」という人を管理職に抜擢するのはその能力を見抜くことだけでなく、周囲の理解を得るのもなかなかに難しいところであります。

じゃあどうすんのよと言う話ですが、管理職の教育を徹底して評価能力を高める。これしかありません(つまんない結論でごめんなさい)。上の「周囲の理解を得られない」問題も、管理職として優秀な人をきちんと引き上げることで自然と理解されるようになるという時間による解決を待つしかないでしょう。(※)

管理職の仕事として、チームの仕事の方向性を決定しまとめあげるというものがありますが、同じくらい重要なこととして「部下の仕事をきちんと評価し、優秀な人材を適切なポジションに配置する」というものがあります。当たり前っちゃ当たり前なんですが、前者に比べて軽んじられがちなミッションであります。「評価・配置をちゃんとできる人」を管理職に据える、となるとじゃあ誰がそれを判断するのよ、という鶏と卵問題に発展してしまいますので、もういま管理職になっちゃってる人を教育するのがいちばん丸く収まるんじゃないでしょうか。いくら評価制度やキャリアパスなどの各種人事制度をいじったところで、評価がちゃんとできなければあまり意味がありません。逆に言えば人事制度はそのままでも、評価者の皆さんの評価能力をきっちり上げてあげれば、かなり改善するんじゃないかなと思います(まあこれがとにかく大変なんだけど)。実際のところは人事制度のあり方にも色々思うところはあるのですが、今回の件とはまた違った話になるのでそれはまた別の機会に。

最後に、こういう話をするとき、必ず頭に浮かぶのが貞観政要(じょうがんせいよう)という本です。この本は遣唐使でおなじみの国、唐を建国した太宗とその臣下とのやり取りをまとめたものです。「貞観」というのはそのときの元号で、「政要」というのはそのときの政治の仕方をまとめたもの、という意味です。貞観の時代は後の中国においても「あの頃は良かった」と言われ続ける最高の治世の一つで、北条政子や徳川家康も参考にしたと言われています。
もうとにかく参考になる話がてんこ盛り。例えば、六正・六邪というのがあります。六正とは進んで臣下にすべき人、六邪とは避けるべき人を指します。それでこの六邪っていうのが「ああ、こういう人、いるいる!」ってのばかりで面白いです。少し長いですが引用します。

六邪
1)官職に安住して高給を貪るだけで、公務に精励せず世俗に無批判に順応し、ただただ周囲の情勢をうかがっている。これが見臣である。
2)主人のいう事はみな結構といい、その行いはすべて立派といい、密かに主人の好きな事を突き止めてこれを勧め、見る物聞く物すべてよい気持ちにさせ、やたら迎合して主人と共にただ楽しんで後害を考えない、これ諛臣である。
3)本心は険悪邪悪なのに外面は小心で謹厳、口が上手で一見温和、善者や賢者を妬み嫌い、自分が推挙したい者は長所を誇張して短所を隠し失脚させたいと思う者は短所を誇張して長所を隠し、賞罰が当たらず、命令が実行されないようにしてしまう。これが姦臣である。
4)その知恵は自分の非をごまかすに十分であり、その弁舌は自分の主張を通すのに十分、家の中では骨肉を離間させ朝廷では揉め事を作り出す。これが讒臣である。
5)権勢を思うがままにし、自分の都合のよいように基準を定め、自分中心の派閥を作って自分を富ませ、勝手に主人の命令を曲げ、それにより自分の地位や名誉を高める。これが賊臣である。
6)佞邪を持って主人に諂い主人を不義に陥れ、仲間同士でぐるになり主人の目を晦ませ、黒白を一緒にし是非の区別を無くし、主人の悪を国中に広め、四方の国々まで聞こえさせる、これが亡国の臣。


どうです?そばにこんな方、座ってません?
貞観政要には他にも上に立つ者としてどうあるべきかなど目から鱗の言葉の数々が並べられた珠玉の一冊ですので、管理職におられる方あるいは管理職を目指される方は必読です。なお、僕が読んだのは山本七平の「帝王学」ですが、原書の和訳もありますのでお好きな方を読んでみられるといいと思います。

帝王学―「貞観政要」の読み方 (文春文庫)
文藝春秋


貞観政要 (現代人の古典シリーズ 19)
徳間書店


たくさん書いたら疲れた!最後まで読んでくださった方、ありがとうございました、お疲れさまでした。


おまけ
※人材の抜擢に成功したのが漢の高祖、劉邦です。股夫とバカにされ、項羽に見向きもされなかった韓信を大将軍に大抜擢したことで最終的には楚を倒すことに成功しました。「項羽と劉邦」には他にも人事的にとても勉強になる逸話が多数登場しますし、それ以前に読み物としてもとても面白いのでオススメです。

項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

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