三月の大震災、そして原発事故を受けて、たくさんの演奏家やダンサーが
来日中止、公演をキャンセルしています。
バレエだけ見ても、東京バレエ団に客演するはずだった
フリーデマン・フォーゲルやロベルト・ボッレがキャンセル、そして
「ニコラ・ル・リッシュと仲間たち」公演が延期と発表されました。
相次ぐキャスト変更に私たちの心は意気消沈してしまいがちですが、
このような状況の中、カンパニーそろって来日してくれた
バーミンガム・ロイヤル・バレエの皆様の温かい友情には
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。日本のバレエ・ファンは
彼らのことを一生、忘れないでしょう。
終演後、ロビーに出たところでバロン総裁に遭遇!
前回、びわ湖ホールでも言葉を交わしたから二度目。
日本公演を全て終えて、満足げに微笑んでおられました。
「私たちはここ(「here」東京?日本?)のファンが大好きなんです。
私たちの舞台を愛して、心から楽しんでくださるから。
またおそらく三年後に戻ってきますよ!」
さて、そんなバーミンガム(以下BRB)の日本公演、私はなかなか
スケジュールが合わず、最終日になんとか駆けつけることが
できました。
(チケットを取ってくださった
naomiさん、感謝です!)
前回の来日公演では、
「コッペリア」「美女と野獣」
という
二演目を観ました。佐久間さんとツァオ・チーさんとの完璧な
パートナーシップや、ビントリーの描くおとぎ話の世界はとても
楽しかった。
今回観たのはいずれもサー・フレデリック・アシュトンの振付による
「ダフニスとクロエ」「真夏の夜の夢」の二作品。
「ダフニスとクロエ」の音楽はモーリス・ラヴェルによるもので、
演奏会でも取り上げられる名曲。特に管楽器に聴かせどころの多い
美しい曲です。
作品として観た感じでは、なんとなく音楽に負けていたという気が
しなくもなく。派手な舞台装置があるわけでなく、第一場、第三場は
両サイドに海辺を表すらしい背景画。第二場は海賊の洞窟という設定で、
岩の中のイメージ。
海の精とかパンの神とか、神話との結び付きが強いはずなのに、
ダンサーの衣装は現代風。男性は白い襟つきのシャツにズボン、
女性は色違いのワンピース。
唐突にニンフが出てきて戸惑ったし、半神半獣のパンの神がいきなり
出て来るのも・・・?
振付としては、怒涛のアシュトン作品だなー、と。音を細かく捉えて
ステップを振付けていて、凄いと思わされる。
第一場では、人々がパンの神に祈りを捧げているところ。
色とりどりの女性ダンサーのワンピース、意外と喧嘩はしていないけど
なんとなく違和感。細かいステップを踏んでいくテクニックは流石だけれど、
田舎の羊飼いとしては垢ぬけすぎているのでは。
クロエ役オートレッドは可愛らしい人で、音の取り方も心地いい。
ダフニス役ボンドは少しキレが足りなかった?時折、回転軸が
ぶれるのが残念。
目を惹いたのがリュカイオンとドルコン。ドルコン役ローレンスは
この後、デミトリアスも踊っていたけれど雰囲気のある上手い
ダンサーだと感じた。リュカイオン役はヴァッロ。腕の使い方や
脚のラインが女性的で綺麗。「美女と野獣」でベル(主役)を踊っていた
ダンサーであることを思い出し、あの時はコケティッシュな魅力を
感じたけど今回は妖艶な女性イメージ。いいダンサーだと思う。
神話ですけど何か、な感じで唐突に出て来る三人のニンフたち。
衣装も神秘的で振付もエキゾチックなんだけど、残念ながらイマイチ
そろっていなかった。
海賊の首領、ブリュアクシスを踊っていたのはキャンベル。
この後、パックも踊っていたダンサー。ジャンプのキレがあり、
身体の使い方が上手い。なるほど、パックに向いている。
作品全体を通じて、ソリストはそこそこの実力があるけれどアンサンブルが
少し残念かな、と思った。それからやはり、音楽に負けている。
アシュトンなら、音楽を活かしきったもっといい作品を作れたはずなのに、と
ふと思った。
あと、オケは最悪。
ホルンは高音鳴らせてないし、ピッチも取れてない。
フルートやオーボエ、ブツ切れで色気もあったものじゃない。
プロとして、どうかと思わざるをえない。
「ダフニスとクロエ」
音楽 モーリス・ラヴェル
振付 フレデリック・アシュトン
衣装・装置 ジョン・クラクストン
照明 ピーター・テイゲン
クロエ ナターシャ・オートレッド
ダフニス ジェイミー・ボンド
リュカイオン アンブラ・ヴァッロ
ドルコン マシュー・ローレンス
ブリュアクシス アレクサンダー・キャンベル
パンの神 トム・ロジャース
ニンフたち ヴィクトリア・マール、ジェンナ・ロバーツ、
アンドレア・トレディニック
羊飼いたち、海賊たち バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
「真夏」はメンデルスゾーンの名曲。ただ、バレエでは曲順が
入れ替えられている。
Kバレエが上演したのを三月に観て以来。
ロイヤル・バレエを引退したプリンシパルで、ロイヤル入団以前は
BRBの前身であるサドラーズ・ウェルズに在籍していた吉田都さんが
ゲスト出演。
都さんはアシュトン作品を得意とする人で、今回も可憐な妖精の女王として
舞台にたたずんでいた。
役を完全に手中の物にしていて、細かいステップや位置取り、他の
ダンサーとの絡みなど全てにゆとりがあって優雅。
何より、本当の妖精のようにどこまでも軽い足捌きには称賛あるのみ!
カンパニー全体の印象としては、「ダフニス」と同様。ソリストには
力があるけれど、アンサンブルとしてどうか。
コール・ドやユニゾンで動く場面など、思わず苦笑してしまうくらいに
揃っていない。Kで観た時の方がよほど揃っていた。
けれど、ソリストクラスの実力は圧倒的。
特に、オベロン役のモラレスは王としての威厳、気品も備え、
技術的にも確か。サポートも万全だったと思う。何より、終盤の
長いPDDを流れるようにこなしていた。彼は六月末に新国でロミオを
踊る。マクミランをどのように造形するのか?楽しみに待ちたい。
続いて、ボトム役のパーカー。前回来日時はサバティカルでBRBを
離れていたため、今回がはじめまして。
とても芸達者な印象。もちろんプリンシパルだし、王子役も
数多くこなしているダンサーだとは思うのだけれど、ガサツな
村人になりきっていてユーモラス。ロバの頭を被っているのに、
表情が見えて来るかのようだからあっぱれ。
四人の妖精たちの、ちょっとした表情や顔の動かし方は踊りなれているから
こその間の取り方なんだろうか。
Kのほうが動きは揃っていたんだけど、このあたりはさすがだと
思わされた。
主役を食わんばかりに縦横無尽に飛びまわるのがパック。
キャンベルは、「ダフニス」の印象と同様に身体の使い方が上手い。
身体能力の高さも目を瞠るものがあった。ただ、この役に関しては
哲也の役作りが一枚上か?
「真夏の夜の夢」
音楽 フェリックス・メンデルスゾーン
振付 フレデリック・アシュトン
衣装・装置 ピーター・ファーマー
照明 ジョン・B・リード
オベロン セザール・モラレス
タイターニア 吉田都
インドからさらってきた男の子 小林巧
パック アレクサンダー・キャンベル
ボトム ロバート・パーカー
村人 ロバート・グラヴノー、キット・ホールダー、ロリー・マッケイ、
ヴァレンティン・オロヴィヤンニコフ、ルイス・ターナー
ハーミア アンドレア・トレディニック
ライサンダー トム・ロジャース
ヘレナ キャロル・アン・ミラー
デミトリアス マシュー・ローレンス
蜘蛛の精 アランチャ・バゼルガ
エンドウの花の精 レティシア・ロサルド
蛾の精 ローラ・パーキス
カラシナの精 ジャオ・レイ
妖精たち バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
「ダフニス」では少し消化不良気味だったけれど、「真夏」は
文句なしに素晴らしいアシュトン作品。ソリストに備わった気品の
ようなものは、貴族社会が残るイギリスならではなのか?
アンサンブルが気になりながらも、日本人が死に物狂いにならなければ
ならない優雅さや気品が既に備わっていることを実感した一日だった。
また、そんな中で圧倒的なオーラを放っていたのが都さんであることに、
日本人として誇らしくもなった。
次回の来日時には、今のBRBの看板である佐久間さんとツァオ・チーの
ペアをまた観たいと切望する次第。
指揮 フィリップ・エリス(「ダフニスとクロエ」)
ポール・マーフィ(「真夏の夜の夢」)
演奏 東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団
合唱 江東少年少女合唱団(「真夏の夜の夢」)
2011年5月29日(日)15:00開演
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団来日公演
「ダフニスとクロエ」「真夏の夜の夢」
東京文化会館