Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

ハンナ・ジェイミスン「ガール・セヴン」

2016-08-30 23:57:45 | 読書感想文(海外ミステリー)



イギリスの25歳の新鋭作家、ハンナ・ジェイミスンが書いた「ガール・セヴン」を読みました。帯の紹介文によると、“徹頭徹尾、女子による女子のためのノワール。”だそうです。“女子による”はそのまんまだからともかく、“女子のための”っては余計なんじゃないのと思いましたが、まあ女性でも手に取りやすくするためなんでしょうね。

※若干ネタバレあります。要注意。




石田清美、21歳。両親と妹を何者かに惨殺され、クラブ「アンダーグラウンド」で働きながら、ロンドンの底で生きている。
清美の生活は、クラブにやって来た謎の男マークによって一変する。マークは清美に家族を殺した犯人を捜そうかと持ち掛けたのだ。
マークの申し出に迷う清美は、クラブのオーナーで清美の愛人でもあるノエルの周辺をさぐるギャングにも目をつけられ…





“女子のためのノワール”という宣伝文句から、読む前はなんとなく主人公の清美のことを「同性が憧れるクールな女」みたいにイメージしていたのですが、当の清美は予想外に自分の置かれた状況にあっぷあっぷしていて不安定でした。困難にぶち当たっても、状況を予想して用意周到に事をやりとげるのではなく、結構行き当たりばったりなので、読んでてハラハラしました。まあ、清美は護身用に武道の心得があるという設定ですが、そう特殊な訓練を受けているわけではないので、スーパーヒロインじゃなくて当然ですが。もちろん、主人公なので「それはちょっとうまくいき過ぎなんじゃないの?」とつっこみたくなる場面はありましたけど。

清美の家族を殺した犯人は誰か、その動機は何なのか、これこそがこの小説の肝でクライマックスにどどーんと明かされるのだろうと思いきや…一応明かされるんだけど、どどーんという衝撃もなくて詳しいことはわからずじまいのぼんやり加減の明かし方でした。小説の最後も、清美の物語がこれで幕を閉じるのはあまりにももったいない終わり方だったし。第一、清美は会いたがっていた親友の聖子とまだ再会(本当の意味で)できていません。おおげさにいうと、この小説全体が長いプロローグのようです。この状況で続編が書かれないというのは、ありえないんじゃないでしょうか。というか単に私が続編読みたいだけなんだけど。

家族が殺されてから、事件に巻き込まれて様々なことを経験し、変わっていく清美の様子を追っていくのは、正直最初の殺人事件の真相よりも興味深くて、「この先どうなるんだろう」と惹きつけられるものがありました。なので、このまま、清美というキャラクターが完結してしまうのはもったいないです。彼女はまだまだ不完全で、足りないピースもあるのだから。それに、主人公の清美以外にも同僚のデイジー、デイジーの恋人でマークの同業者のニック、心理学者のダーシといった、魅力的な登場人物ともお別れしたくないし。

作者のジェイミスンの、これまでに発表された作品はどれもクラブ「アンダーグラウンド」を中心に、そこに出入りする人物を主人公としているそうなので、今後発表される作品に清美が登場することはありそうです。主人公じゃないかもしれないけど、彼女が何らかの形で活躍する話が読めたらいいなと思います。でもその前にまだ未邦訳の、ニックが主役の"Something You Are"を翻訳出版してほしい…「ガール・セヴン」の中でも触れられてたけど、ニックの過去に何があったのか気になるので。

作中、絶体絶命のピンチに陥った清美が、「女であること」「女だからと見下されていること」を利用して男たちを欺き、切り抜ける場面がいくつかありました。「女の武器」という言葉はあまり好きじゃないけど、こういった「女の武器」の使い方は痛快です。使い方がかなり難しいと思いますけどね。そういう意味ではこの小説は確かに「女子のためのノワール」なのかも。

「女子のためのノワール」が映像化されたらどんな感じになるだろう、と想像すると面白いですが、主人公清美を誰が演じるのか想像できないのがつらいところです。父親が日本人で母親がイギリス人…ぴんとくる女優が思いつかない…はっ!ベッキーとか!?うーん、いくらなんでもそれはないかな(汗)。



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