Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

マーガレット・アトウッド「昏き目の暗殺者」

2020-05-16 16:22:10 | 読書感想文(小説)

みなさんこんにちは。
全国各地で緊急事態宣言が解除されてきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
私は土日を家で過ごす生活が体にしみついてしまい、この週末もダラダラ過ごしています。まあ、出かけたところで映画館も閉まってるし、本屋くらいしか行くところないんですが。というか、本屋が閉まってたらもう本当に、1か月もじっと引きこもれなかったと思います。

その本屋で、5月頭の5連休前に買ったのが、「昏き目の暗殺者」。ネトフリでドラマになった「侍女の物語」の原作者、マーガレット・アトウッドのブッカー賞受賞作品です。文庫で上下巻だったので、5日間かけてじっくり読むのにちょうどいい長さだと思って買いました。

タイトルに「暗殺者」とあるので、ハードボイルド小説なのかと最初は疑いましたが(←安直)、どんな内容かと言いますと


1945年、戦争が終わってまもなく、25歳のローラ・チェイスは車ごと橋から落ちて死んだ。それから半世紀の時が経ち、ローラの姉アイリスは妹の死は本当に事故だったのだろうかと思いを巡らす。ボタン工場で財を成した名家に生まれ育ち、死別するまでの姉妹の来し方をアイリスは綴っていく。ローラの死後に発見された小説「昏き目の暗殺者」、次々と亡くなっていく親族たちの死亡記事、年老いたアイリスの回想。それらが意味するものとはー


えー、上にも書いてありますが、この小説はアイリス視点で描かれた回想と現在(1998年)、小説「昏き目の暗殺者」の抜粋、アイリスとローラの親族の死亡等の新聞記事が割と短いサイクルで交代で出てくるので、読んでてちょっとややこしかったです。映画とかドラマだったら、場面ごとにがらっと雰囲気を変えたりしてわかりやすくできるんでしょうけど。「昏き目の暗殺者」の抜粋の中でも、登場人物が自分の書いてる小説の内容を語ったりするので、今読んでるのはどのパートなのか混乱しがちで、整理しながら読むのが大変でした。

とはいえ、読んでる最中はややこしいと思っていたことが、小説の終盤くらいになると霧が晴れたみたいにすっきりわかりやすくなり、最後の一文を読み終えた時、家族の歴史と社会の慣習に縛られ、つらい過去を持つアイリスが見つけた最後の居場所がどこかを知ったとき、胸が熱くなって涙がこぼれました。大げさかもしれませんが、行く場所もすることも制限されている時に読んだからこそ、アイリスの言葉が心に響いたのかもしれません。それが何だったのかは…えー、もったいないので書きません。気になる方は私同様、5日くらいかけて読んでください。

さて、「侍女の物語」もそうでしたが、この小説も出てくる男のほとんどが「さっそくだけど今から地獄に墜ちてくれないかな」と言いたくなるようなアレで、特にアイリスの夫リチャードは万死に値するほどのアレなので、読んでてかなりストレスでした。リチャードの妹のウィニフレッドは妹だから当然女性なんですが、これがまたアイリスに対して橋田壽賀子先生もドン引きするくらいの嫁いびりをするので、彼女が小説に出てくるたびに、(ごく一部で)心優しい人格者として通っている私でも「〇ねばいいのに」と思ってしまうほどのアレでした。最初はブラコンでアイリスに嫉妬してるのかと思ったけど、後に真相がわかった時はおぞましさに身の毛がよだちました。この頃には珍しくない話なのかもしれませんが、それにしてもねぇ。フィクションにはある程度、その時代の空気を逸脱する救いがあってもいいじゃないかと私自身が思っているせいかもしれませんが、ここまでひどくなくてもいいんじゃないかと。というのも、「この時代はこれが当たり前だった」という認識は「それに比べて今の若者は甘やかされている」にすり替えられてしまいがちなので。「どんな時代でも当たり前ではない、仕方ないで済ませちゃいけない」と、誰かにガスを抜いてほしいのです。リチャードとウィニフレッドが姉妹にしたことは、この先時代がどんなに変わろうとも許されることではないし、今の若者たちにはアイリスやローラの様な女性に「自己責任だ」と唾を吐きかける大人になって欲しくないからです。

回想に出てくる登場人物はほぼ全員不幸なので、読んでると気分が鬱々としてしまいがちだったのですが、齢80を超えたアイリスの、老いと格闘する日常を綴った1998年現在のパートはちょっとユーモラスなところもあって息抜きになりました。年老いて孤独に暮らすアイリスを、チェイス家のお手伝いだったリーニーの娘のマイエラと、マイエラの夫のウォルターが支えている場面もまた、読んでてほっとさせるものがありました。けして完璧なケアができてるわけじゃなくても。アイリスと彼女たちのつながりを感じることができるので。

最後まで読み終えてから内容を振り返ると、「あれはこういう意味だったのか」とか、「最初に読んだ時は〇〇の勘違いだと思ったけど、視点を変えると正解を言い当ててるともいえる」とか、気づくことが多々ありました。アイリスが娘のエイミーに会いに行く場面なんて、特に。ただ、それを再確認するために、もう一度最初から読み直すのはちょっとしばらく遠慮したいかな…なんせほら、読み終えるのに5日かかったし…。

「侍女の物語」のように、この作品も映像化されるのかしらと考えましたが、小説のパートで大掛かりなセットが必要になりそうなので、難しいかもしれませんね。予算ケチってしょぼいセットで作られても悲しいし。あるいは、小説の舞台はカナダだけと思い切って超力技で舞台を変えて、「お嬢さん」みたいに韓国で作ったら面白いものができるかもしれません。まあ、なんでもすぐ「韓国で映画化すればいいのに」と思ってしまうのは私の悪い癖なんですが。「きのう何食べた?」とか。あれは世界各国で作って欲しい…。

本の感想を書くのは久しぶりなので、あまり掘り下げて書けませんでしたが、今回はこれくらいで。ではまた。