Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム「ボックス21」

2019-08-14 20:08:26 | 読書感想文(海外ミステリー)

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムのグレーンス警部シリーズ第2弾、「ボックス21」を読みました。
実は1作目の「制裁」も読んでいるのですが、内容がヘビーすぎて感想が書けずにいました。なので、今回は頑張って感想を書こうと思って読み始めたのですが、ががが。。。


リトアニア人の娼婦リディアは、売春あっせん業者から激しい暴行を受け、病院へと搬送された。
治療後、病室で意識を取り戻した彼女はある意外な行動に出る。医師たちを人質に取り、病院地下にある遺体安置所に立てこもったのだ。
ちょうどその時、薬物依存患者の殺人事件を捜査していたグレーンス警部は、リディアの事件の指揮を執ることになるが…。
リディアの目的は?事件の真相に気づいた時、グレーンス警部が取った行動とは…?


自分であらすじを上手くまとめる自信がなかったので、文庫本の裏表紙に書いてあるのをほぼ丸コピしました。ごめんなさい。これが一番ネタバレを避けられると思ったので。たまに裏表紙にネタバレ書いてある文庫本もありますけどね。上下巻だと下巻の裏表紙で上巻のネタバレしてるのはよくありますよね。あれは業界的にセーフなんでしょうか。ぎりアウトなんでしょうか。

さて、感想。最後のページを読み終わった直後の私の感想は、

ちょっと待てここで終わるのかよおい!

でした。きっと最後にはカタルシスが得られるだろうと期待しつつ、フラストレーションためまくりながら読んだ結果がこれかい!と、怒りの持って行き場に困って本を床に叩きつけそうになりました。つまらなかったからじゃなくて、面白かったからこその怒りなのがよりもどかしくて。

だがしかし、少し気持ちが落ち着いてから小説を振り返ったら、確かに小説自体は明確に白黒つけずに終わっていたものの、結末以降の展開を匂わせる文章は書かれていたので、おそらく、いや絶対に、グレーンス警部たちは悪党どもを叩きのめしてくれているだろうと確信しました。そうすることで、グレーンス警部たちの心の傷が更に深くなってしまうにしても。いやほんと、悪役にも、正義の側であるはずの主人公たちにも厳しい、作者のドSっぷりにドン引きする小説でした。

小説の序盤を読んだとき、この物語の中心はリトアニア人の娼婦リディアが起こした立てこもり事件の顛末なのかと思っていたら、中盤から意外な方向に進んでいったので驚きました。ただ、リトアニアから騙されて連れてこられ、娼婦にさせられたリディアが、病院に立てこもることで被害者から加害者に変わっていった様子は、この小説の物語の象徴でした。加害者だと思っていた人は被害者でもあり、逆に被害者だと思っていた人が…。場面転換が多く、登場人物の視点もころころ変わるので読みづらい部分もありましたが、視点が変わるたびに新しい真実が明かされたり、見落としていたことに気づいたりするのはとても面白かったです。まあ、最後の最後に明かされる衝撃の真実のおかげで「この長い小説(文庫にして600頁近くある)をまた最初から読み直さないといけないのか?」と思った時には軽く眩暈がしましたが。

リトアニアからスウェーデンに渡ったとき、リディアはまだ17歳でした。それから3年間、彼女は毎日売春をさせられ、1日に12人の客をとらされ、屈辱的な日々を送っていました。リディアと共にスウェーデンに連れてこられたアレナもそう。彼女たちが、過酷な日々を追想する場面は読んでいて精神的につらいものがありましたが、こんなにおぞましくて醜いものを、ありのままに描いてくれている作者の誠実さを信じて、最後まで読みました。

ところで、この「ボックス21」や、グレーンス警部1作目の「制裁」だけでなく、北欧ミステリーには女性、特に若いあるいは幼い女性への性犯罪を扱ったものが
多い気がします。歪んだ性欲を持つ性犯罪者から、社会的地位のある、周りから認められた紳士まで、加害者のバリエーションも豊富です。こう書くと北欧ミステリは女性への性暴力を娯楽として消費しているのかと非難されそうですが、そうではなく、小説の題材として取り上げることで、性暴力は犯罪であり絶対許されないことだと声高に主張しているのだと思います。いくら美しくて大人びて見えるからといっても、10代の少女を性的に消費して憚らない、我が国のメディアや創作物とは違います。

一方、面白いのは、グレーンス警部の宿敵で、雇い主からの依頼があれば脅迫も殺人もいとわない悪党のラングでさえも、彼の視点から世界を見れば悪党なりの苦悩が伝わってくるということでした。それは、グレーンス警部の目からは、暴力で他者をねじ伏せ、好き勝手に生きているように見えるラングもまた、見えない首輪をしているのが見えるからです。まあ、だからといってラングに同情の余地はありませんが。グレーンス警部とラングの戦いは、この小説ではっきり終結したわけでもなさそうなので、もしかしたら3作目にラングは再登場するかもしれません…いや、ないかな?どうだろう?少なくとも3作目の冒頭では、2作目のその後について触れて欲しいですけど。

ストックホルムには旅行で行ったことがあるので、地名や駅名に懐かしさを覚えることがしばしばありましたが、小説の中で描かれているスウェーデンの闇の部分には、毎度のことながら軽いショックを受けました。でも、光だけを描いて闇をないものとするよりは、闇を闇として描くことのほうが大切だから、目をそらさずに受け入れるべきだなと思います。

調べてみたら、グレーンス警部シリーズ3作目の「死刑囚」は既に文庫版が出ているようなので、近いうちに読もうと思います。問題は、私のフトコロ事情…海外ミステリーは文庫本でもお高いのよね…よよよ。

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