Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

デレク・B・ミラー「白夜の爺スナイパー」

2016-07-30 17:25:48 | 読書感想文(海外ミステリー)



シェルドン・ホロヴィッツ、82歳。元海兵隊員のユダヤ系アメリカ人。
朝鮮戦争で戦い、息子をベトナムで失い、妻に先立たれたシェルドンは、息子の忘れ形見である孫娘夫婦と暮らすために、しぶしぶノルウェーに移り住んだ。頑固な振る舞いで孫娘のレアとその夫でノルウェー人のラーシュを振り回すシェルドンだったが、ある日、アパートの階上に住む女性が殺され、女性の息子の少年ポール(仮名)を連れて、逃亡する羽目になる。少年を追う謎の男、体の節々から上がる悲鳴、迫りくる尿意、幾多の困難と闘うシェルドン。彼とポールを待ち受ける運命とは―


デレク・B・ミラーの「白夜の爺スナイパー」を読みました。この作者のことは全然知らなかったのですが、ツィッターで某小説家の方が絶賛されていたので、気になって読むことにしました。
なんせ、「北欧、爺、ミステリー」という私の好きなものが3つも入っているのですから。しかも、帯の宣伝文によれば「映画化が決定」されているそうです。まあ、映像化が決まっただけでいつ映画が公開されるかはまったくわかりませんが。

老人と少年の逃避行、という設定から、最初はネビル・シュートの「パイド・パイパー」みたいな内容の小説なのかなと予想していたのですが、読み進めると全然違いました。どちらのほうが優れているというわけではなく、それぞれ違った意味で面白く、感動的な小説です。

主人公のシェルドンがユダヤ人なことから、この小説では“ユダヤ人とは”というテーマが何度も登場し、シェルドンの視点から、孫娘のリアの視点から、シェルドンの死んだ息子、ソールの視点からも語られます。それはシェルドンのアイデンティティーで、悩み苦しませる十字架でもあります。あまりにこのテーマが何度も語られるので、はて自分は何を読んでいるのだったか、ユダヤ人の歴史なのか、ミステリーじゃなかったのかとわからなくなることが何度もありました。

そしてもうひとつ、混乱させられるのが、シェルドンが見る夢または妄想の数々。もうこの世のにはいない友人との会話、過去への追憶と後悔、戦地の息子を訪ねるというありえなかった妄想。ただでさえ、シェルドンとポール、ポールの遺伝学上の父親、父親の仲間、シェルドンの孫娘のリア、事件を追う警察官のシーグリット等々、ころころと場面と視点が変わるというのに。過去と現在、夢と現実が入り混じって、読んでいるとシェルドン同様、こちらまで頭の中が混沌としてきます。

しかし、無軌道かと思うような老人と少年の旅が終わりを迎える時、その混沌はカタルシスへと昇華します。それは悲しくもあり、切なくもあるラストシーンに救いをもたらすものでした。終盤、クライマックスからエンディングまでの数十ページは、それまでの蛇行してるみたいな展開に比べるとあまりにスピーディでちょっと雑に感じるくらいで、作者が違う人に代わったんじゃないかと疑いました。でも、最後まで読むと、この小説が訴えたかったことはそこじゃないんだなと思いました。ただ、作中に出てくるいくつもの戦争や、ノルウェーとユダヤ人の関係を知っていれば、この小説をもっと深く理解できたでしょうから、そこは残念です。自分の知らないことに気がつき、知りたいと思えることはとても喜ばしいことで、海外の映画や小説に触れたときの楽しみでもありますが。

巻末の訳者あとがきで、作者がこの映画の脚本を書くことになった、とありました。本当に映画化が実現するなら、主人公のシェルドンを誰が演じるのか気になります。訳者の方はトミー・リー・ジョーンズがいいとのことですが、個人的にはもうちょっと年取ってる人のほうがいいなぁ。マイケル・ケインとかイアン・ホルムで見てみたいけど、2人ともイギリス人だからなぁ…配役が誰になっても、映画が日本で公開されたら見に行きたいですけどね。



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