Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

映画「レ・ミゼラブル」

2020-05-23 22:45:46 | 映画

高松のホール・ソレイユ2で、昨年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞したフランス映画「レ・ミゼラブル」を見ました。
有名なミュージカルと同じタイトルですが、歌ったり踊ったりはありません。あの映画も好きですけどね。

映画の舞台は、ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもある、フランス郊外のモンフェルメイユ。
この街は移民や低所得者が多く住む、危険な犯罪地域になっていた。そのモンフェルメイユの犯罪防止班に新しく配属されたステファンは、2人の仲間とともにパトロールに出る。ステファンは街で複数のグループ同士が縄張り争いをしていて、お互いに警戒し合う緊張関係が続いていることに気づいた。そんな中、イッサという移民の少年が起こしたある事件が波紋を呼び、大きな騒動へ発展してしまう。新参者のステファン、白人でリーダー格のクリス、アフリカ系移民のグワダ、3人の警官は騒動を終息させようと銃を手に市民と対峙するが…


はい、ポン・ジュノ監督の「パラサイト」とパルムドールを競ったというこの「レ・ミゼラブル」、監督のラ・ジリが長年ドキュメンタリーを手掛けていただけあって、「パラサイト」と同じく貧困を扱った映画ではあるけれど、フィクションでありながらドキュメンタリーを見ているようで、フィクションとしての“あそび”の部分がなくて、見ていてとてもヒリヒリしました。例えていうなら…NHKの教育テレビで昔やってた、道徳のドラマをもっとハードにしたような?うまく表現できないけど、「パラサイト」と違ってエンタメ性はほとんどというか全然ないので、同じ境遇にいる人には刺さりすぎるくらい刺さって、そうじゃない人には想像力が相当必要な映画だなと思います。日本映画だと「万引き家族」がこれに近いかなと思うのですが、もっとセンチメンタルで見る側に現実を見ずに済む逃げ道を与えてる気もするし。ちなみに私には「万引き家族」の樹木希林みたいな身内がいるので(あそこまで怖くはないけど)、あの映画は私にとってホラーです。今思い出しても怖い。

映画の中心になるのは、イッサという少年が起こした盗難事件でした。盗んだのはロマのサーカスで飼われているライオンの子供。名前はジョニー。ジョニーがさらわれたと、移民たちの親玉に食ってかかるサーカスの男たち。間に割って入る警官。さらわれたと騒ぐ男たちの話は要領を得ず、ようやくライオンの子供だとわかるまで相当の時間がかかりました。見てるこちらもストレスが溜まります。このもどかしさ、まだるっこしさもまた、モンフェルメイユの日常として実在しているのかもしれませんが。

警官のクリスは、このモンフェルメイユの日常に慣れているので、SNSを使ってすぐにジョニーをさらった犯人(=イッサ)を特定します。しかしここからが上手くいかない。警官に捕まったイッサは暴れ、一緒にいた子供たちはイッサを離せと警官を襲撃。そして悲劇が起き―ここで私はふと

これがSNSだったら、「最初にライオンを盗んだイッサが悪い、自己責任だ」って叩かれるんだろうな

と考えたのですが、実際のところ、この映画を見た人はSNSでなんと呟いたのでしょう?私自身は、イッサの安否よりも問題をもみ消すことに奔走する警官が恐ろしかったです。その恐ろしさを慰めてくれるのは、この街の新参者であるステファンが映画の中の良心の役割を果たしているところですが、モンフェルメイユに来たばかりだから、他の警官二人に比べて現実が見えてないだけだと冷笑する声が簡単に想像できるのが残念です。

警官たちもそうですが、この映画の大人の多くは、貧困の中で、暴力と犯罪に囲まれて暮らす子供達を顧みません。子供たちの未来のために、自分たちと同じ轍を踏ませないために、大人が何かをすることはほとんどありません。大人は大人で、精いっぱい生きていることはきちんと描かれているのですが。唯一、子供達や弱い人にとっての駆け込み寺のようなコミュニティもありましたが、そこに希望を託せるかどうかまでは、映画では描かれませんでした。信じたい気持ちはあるのですが。

ラストシーンは、一体どうなるのだろうとハラハラしながら見ていたら突然終わったので「おい!」と突っ込みそうになりましたが、良い方にも悪い方にも転びそうな状態で終わらせるのは、楽観はできないけど絶望もしなくていい現実そのものを意味してるのかなとも思いました。そして最後に出てくるユゴ―の言葉!この前見た韓国映画「神と共に」でもドンソクさんが同じこと言ってました(なんて言ってたのかは、どちらかの映画を見て確認してくださいませ)。

この映画について不満に思ったのは、女性の登場人物が少ない、いるにはいるけど出番が少なくて重要な役割を果たしてない、ということです。それだけモンフェルメイユという場所が、男社会だと表現したいのかもしれませんが。女性の登場人物で印象的だったのは、物語の重要なカギを握る、ドローンを操る少年バズを脅していた10代の少女3人組。とてもパンチが効いていたので、彼女たちをメインにしたスピンオフ作品を見てみたいです。

映画館で映画を見るのは2か月ぶりで、しかも重い内容の映画だったので、見終わってからちょっとしんどかったです。以前はこれを毎週、1日に2本見ることもあったのだから、昔の私はタフだったんですねぇ。今はまだ見たくても見られない映画ばかりですが、これから順次公開されるようになれば、また見に行く気力が湧いてくるのかしら。それともこのまま枯れてしまう…?いやいや、頑張らないと!ですね。