Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

沼田まほかる「九月が永遠に続けば」

2011-11-20 18:10:08 | 読書感想文(国内ミステリー)


高校生の一人息子が失踪した。母親の佐知子は必死で息子を探すが、手掛かりは出てこない。
さらに息子がいなくなった翌日、佐知子の愛人が駅のホームで電車に轢かれて死亡する。
相次いで起こった出来事に混乱する佐知子は、別れた夫・雄一郎の娘の冬子が何か知ってるのでは
ないかと思い、冬子に会おうとするが…


ここから先はネタバレあります。要注意!!




財布も何も持たず、サンダル履きでゴミを捨てに行った息子が帰ってこない。何日も、何日も。
息子の身を案じる母親がどんどん憔悴していくさまは、現実味があってとても痛々しかったです。

その一方、別れた夫の雄一郎の妻・亜沙実の忌まわしい過去は、平々凡々な人生を生きてきた
私には何度咀嚼しても消化しきれないほど衝撃的で、正直最後まで読んでも理解しきれませんでした。
それと、出会った男たちを狂わせずにはいられない、美しいという言葉では言い表せないほどだという
亜沙実とその娘の冬子の「魅力」もまた、想像がつきませんでした。ただ、同性からは妬まれ、異性からは
自分たちに都合のいい幻想を押し付けられる「魅力」を持った人、というのなら少しわかるような。
それは「魅力」と呼んでいいものではないかもしれませんが。

失踪した息子・文彦はどこへ行ったのか。なぜ失踪したのか。電車に轢かれて死んだ愛人は、ほんとうに
事故死だったのか。事件そのものはシンプルなのですが、別れた夫の雄一郎やその妻亜沙実の過去や、
冬子の特異な異性関係などに気を取られて、なかなか真相に気づけませんでした。というか、
文彦が生きてるのかとかなんでいなくなったのかとか、途中でどうでもよくなってしまったんですよね。
登場人物がここまで濃ゆい人ばかりじゃなかったら、もっとすっきり、ミステリーとして楽しめたと
思うんですが。でもまあ、この非現実的なまでに濃ゆいキャラクターがこの作者の持ち味なのかも
しれませんし。

で、亜沙実と冬子のキャラクターにリアリティを感じなかったせいで、文彦が失踪した理由と、その後
文彦が取った・取ろうとした行動もあまり理解できませんでした。若さゆえの暴走なのかな、と思うくらいで。
もっと若くて、もっと未来に希望を持っている人なら、文彦に共感して応援できるのかもしれまでん。
でも、きっと文彦もまた、さんざん敵に立ち向かった果てに、苦い敗北を味わうことになる気がします。

この小説の登場人物は、複雑な過去を持ったひとくせもふたくせもある人ばかりですが、文彦の同級生の
ナズナとその父親・服部は、佐知子らに比べれば割と普通の人として描かれています。とくに服部は、
佐知子の目から見れば知的で高貴な人間である雄一郎と比べて、図々しくていかにもな俗物です。
しかし、その図々しさはいなくなった文彦を探す佐知子を助け、過去に押しつぶされそうになった佐知子を
現実を生きるしたたかさで救ってもいます。過去にとらわれ、悩み苦しんでいるとき、不安で胸が押しつぶされ
そうになったとき、必要なのは何なのか。強引で厚かましい服部に教えられたような気がします。

この小説には、片想いや未練や執着など、男女間のさまざまなドロドロした感情が登場します。
それらはどれもこれも不幸な結末を迎えるのですが、それゆえに自分自身になぞらえることができ、
考えさせられました。

「恋をする女はみなほんまは現実の男やなしにもっと遠いとこのなんかよう分からんものに焦がれてるんですな」

これは、冬子が自分のボーイフレンドと佐知子が関係していたことを知っていたと知り、混乱する佐知子に
服部が語ったセリフ(の一部)です。現在熱烈恋愛中の人にはミもフタもないと憤慨されそうですが、
私には「ああそうかも…」と、目の前の霧を晴らしてくれるような言葉でした。
いや、「そう、その通り!」とまでは思ってないんですけどね、まだ。

あと、この小説には女のほうがひとまわり以上年上のカップルが2組出てきますが、そこんところにも
現実離れした違和感を感じました。いったいどこのどんな需要を意識してるのよ、と。
まあ、「トシの離れたカップル」というキーワードが、謎を解くヒントの一つではあるんですけど、
それにしても、ね…。(←やっかみなので気にしないでください)


ところで、越智先生の過去の話、あれは必要なかったんではないのかな?ブラフにしても軽すぎたし。
それとも腐向けのサービスだったのかな?さすがにそれはないか。



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