おっさんノングラータ

魚は頭から腐るらしいよ。( 'ω`)

明日への遺言(★★★)

2008年03月04日 | 映画2008
日本空襲を指揮したルメイが勲一等旭日大綬章を授与された件について
goo映画(83点:投稿時)

邦画によく見られるお涙頂戴系の反戦映画ではなく、無差別爆撃を行ったB-29搭乗員を日本軍が処刑したことが罪に問われるか否かを問う法廷闘争劇。それに命令を下した岡田資中将の人となりが描かれ、静かな感動を誘う良作。

大戦末期、日本の主要都市はB-29の爆撃によって灰燼に帰した。軍需目標でない民間人を狙った爆撃は「恐怖爆撃(テラー・ボミング)」とも呼ばれ、映画冒頭で説明されているように、スペイン内戦のゲルニカ空襲、続いて日中戦争での重慶爆撃、第二次世界大戦ではドイツ空軍によるロンドン空襲と、連合軍によるドイツ各都市への爆撃、そしてB-29による日本空襲など。

恐怖爆撃のルーツは第一次世界大戦のツェッペリン飛行船によるロンドン空襲に遡ることができ、「空襲で市民の厭戦機運を高めればそれだけで戦争を終わらせることができる」という過てる発想に基づく。その戦略が成功した試しがないにもかかわらず、ベトナム戦争、そして湾岸戦争まで繰り返し信奉されてきたのは、兵器の進歩というバックボーンがあったからである。戦争を早期に終結させられるなら(主に自軍の)犠牲を減らすことができる、ならば空襲は正義であるとの論法でいたずらに民間人の被害ばかりを増やしてきたのは、歴史が示す通りである。

これはもちろん国際法(戦争のルール)違反。戦争に勝ったから裁かれなかったものの、アメリカ軍がやったことは、あまりと言えばあまりに酷い。

この、軍需目標/民間の区別ない無差別爆撃を指揮したのが、これも映画の中でちらっと登場するカーチス・ルメイ。戦後、日本の航空自衛隊創設に尽力したことにより、勲一等旭日大綬章を授与されたという、何とも信じ難い逸話が残っている。

それはさておき、映画におけるポイントは次の通り。

連日に及ぶ空襲で名古屋は壊滅。その際、脱出したB-29搭乗員は捕らえられたが、正式な裁判にかけられることなく東海軍によって処刑(斬首)された。それは、後の裁判では国際法違反が明白だったため、略式軍法会議を経ての処刑、命じたのは岡田中将ということだったが、当時の世相は「そんな連中は殺されて当たり前だろ、常考」だったことも事実。実際、脱出したB-29搭乗員が民間人によるリンチで殺された例は少なくなく、途中から「憲兵サンノトコロヘ連レテ行ッテクダサイ」と書かれたメモを常備していたという。

もちろん、捕虜を殺害するのも国際法違反である。しかしB-29搭乗員は国際法を無視した無差別爆撃を行っていたのだから、捕虜ではないというのが、岡田中将側の言い分である。岡田中将はこの裁判を「法戦」と位置づけ、また日本復興のためには若い力が必要であると、責任の一切を自身が負うと覚悟を決め、裁判に臨んだのである。

無差別爆撃の解釈をめぐる論戦は、直接的な描写なしに戦争の何たるかを物語る。また、まだ当時はアメリカにも法の正義が存在し、岡田中将を裁くことは自らをも裁くことにつながるという葛藤があった。そうした心理劇は、岡田中将の最後の発言をもってまとめられるが、それがまた清々しいものであって、余計に胸を打たれる。岡田中将を演じた藤田まことの演技も良かった。

エンド・ロールとともに流れる森山良子の主題曲も、ウェットになりすぎない良い曲。作品全体がきれいにまとめ上げられた印象。

にもかかわらず評価が★★★どまりなのは、竹之内豊のナレーションで(あくまで個人的な印象だが)雰囲気をぶち壊しにされたため。耳障りかつ寝惚けたような抑揚にイライラさせられ通しだった。それ以外は概ね満足できる作品だっただけに、残念。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。