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辻内崇伸~8年目からの躍進のカギは。

2013-02-10 19:59:13 | 2013年シーズン

先日、宮國椋丞投手をテーマに高卒投手の期待値について書いた。
今年で8年目を迎える辻内崇伸も、かつて甲子園を沸かせ、
鳴り物入りでジャイアンツに入団した大注目の快速球投手だった。
その後の彼のプロ野球人生は今さら説明するまでもないが、
このオフほどスポーツ記事で「辻内」の文字を目にしたことはなかったろう。

ここ数年、ラストチャンス、という言葉が辻内のスローガンのようになっていた。
投げられなくなっていた150キロ台の速球は、いっとき140キロ前半がようやっとまでに落ち、
昨年には140キロ後半が常時出せるまでになって変化球の制球力にも磨きがかかってきたようだ。
高校のころからコントロールや変化球の精度が高かったわけではない。
150キロ台の速球なら、多少、ボール気味でも高校生なら通用する。
しかし、プロではそうはいかない。
それでもあのダイナミックなフォームから繰り出される150キロ台の速球には充分に魅力があった。
だからオリックスもジャイアンツもその将来性に期待してドラフトで1位指名したのだ。
いくらドラフト1位だったとはいえ、7年間、まったく1軍で投げていない高卒ピッチャーが、
いまだにクビを切られることなくいられるのは、やはりそれだけ期待があったからだと思いたい。
そして今季の背番号が示しているように、8年目を迎えた今シーズンが、
辻内にとって文字通りラストチャンスになるであろうと、
左腕王国になりつつある現状のジャイアンツを見ればそれは明らかだろう。

このオフ、辻内は同僚の野間口の紹介で日ハムの武田勝の自主トレに弟子入りした。
武田からは、力に頼りすぎた投球を指摘されたようだ。
キャッチボールから武田を真似て、脱力フォームや変化球の投げ分けなどを教わり、
「投げる間を意識する。リリースポイントを前にする」などの助言を受けた。
「自分のペースを守る」「力に頼りすぎない投球」をテーマに掲げ、これを期に「大人の辻内」への変化を誓った。
それはこのオフ、結婚して「守るものが出来た」という生活面での変化も大きく後押してのことだろう。

そして迎えた春季キャンプ。
今キャンプも当初は2軍スタートが決まっていたようだが、
左肩の違和感を訴えた高木康と入れ替えで1軍スタートを手に入れた。
しかし、8年目にしてようやくスタートラインに立てたと思った矢先、
1軍首脳陣に対する積極的アピールに欠くと、阿部や原監督からキツイ指摘を受ける破目になった。
自分に課したテーマと、あらたな投球スタイルへの布石を、
その控えめな性格ゆえか、ここまでそれが裏目に出てしまっている。

キャンプ初日に苦言を呈したのは阿部だった。
ブルペンで内海、高木京らの球を受けた後、隣で投げていた辻内に対し、
「立ち投げ30球くらいで終わっちゃった子がいるのが残念だった」と指摘。
その後、強い口調で「のんびりと調整している立場ではないはず」と辻内の姿勢を叱責した。
ただ、辻内には川口投手総合コーチが「左肩の開きが早いから、直球だけでフォームを固めろ」と指示が出ていたようで、
それでも辻内は「阿部さんから『もっと思い切り、強い球を投げろ』と言われました」と反省の弁。

2日目、その翌日のスポーツ新聞の記事に「辻内、原監督から公開説教」の見出し。
それもやはり、彼の控えめな性格ゆえか、あるいは8年目にしてようやく1軍キャンプという気遣いで恐縮したからか、
いずれにしても、強い気持ちで野球に取り組む姿勢を好む原監督には余りにも彼の態度が弱弱しく映ったのだろう、
必死さを欠くその姿勢に注文をつけた。内容はこうだ。
2日目、ブルペンを去ろうとした辻内を、原監督が呼び止め約5分間、説教をした。
「私の気持ちを伝えた。もう彼は若くはない。毎日が円熟期だと思って戦わないと。
これまで培ったものもあるんだから」と、大勢の報道陣やファンが見守る中でゲキを飛ばした。

まず、辻内がブルペンに入った段階で監督はその姿勢が気に入らなかった。
辻内は杉内と同じタイミングでブルペン入り。
気を使って客席寄りの一番端に向かった。だが、指揮官には消極的な姿勢と映った。
「辻内、真ん中で投げろ」と6か所あるプレートの左から3番目を指示。
「1軍のキャンプはオフの成果を披露する場所」が原監督の考え。
「アピールする立場なら、堂々と真ん中を選べ」との監督の言葉に辻内は、
「1日1日悔いを残さないようにとお言葉をもらいました」。

川口投手総合コーチのコメント「朝、2人でミーティングしたけど、
今までと同じではダメ。『あとはもうボールに聞いてくれ!』という腕の振りで投げるだけでいい。
ラストチャンスと(本人は)言っているけどものにしないと。チャンスをあげているんだから。
監督の親心なんですよ」そして11日の紅白戦に登板させることを示唆した。

高校生のころはどちらかといえば体格のいい大型左腕というイメージだったが、
プロに入って数年後、度重なるケガから復帰して、ファームの練習でその姿を久しぶりに見た彼の印象は、
どことなく小じんまりしてしまったような、こんなに小柄だったかと思ったほど彼は小さく見えた。
なかなか思うような球が投げられないジレンマと、一向にあがってこない球速に、気持ちも萎縮していったかもしれない。
もともと気持ちを前面に出すようなタイプではないだろうし、人を掻き分けてでも前へ前へという性格でもなさそうだ。
プロのスポーツ選手としてはそれだけでハンディを背負っているようなものだが、
そんな彼の控えめな性格を表わしているエピソードがある。
ドラフト当時、辻内を1位指名したのはジャイアンツだけではなく、
オリックスも辻内を1位で指名、両球団のクジによる抽選が行われた。
クジを引いたのはジャイアンツが当時監督の堀内恒夫、オリックスがGMだったろうか中村勝氏(現タイガースGM)。
ここでちょっとした事件が起こる。クジを開いた瞬間、中村氏が封筒から出した用紙を高々と上げ、
交渉権をオリックスが得たと会場にもアナウンスが流れた。
外れた堀内氏は首をかしげながらどことなく納得のいかない表情でテーブルに引き上げる。
抽選を待ち構えていた記者会見場の辻内は無数のフラッシュの中、
「オリックスはとてもいい球団だと思う」といったニュアンスのコメントをして、緊張のためか少し表情がこわばっていた。

ところがドラフト会場ではなにやら不穏な空気。
ジャイアンツのテーブル席で出席していた球団関係者らが大会主催者側に必死に何かを見せながらアピールしている。
次の瞬間、「交渉権は読売ジャイアンツが獲得していました」とのアナウンスが会場に流れた。会場はざわざわとどよめく。
内幕はこうだ。封筒の中には当たり外れにかかわらず用紙が入っており、
あたり券には「交渉権確定」(だったろうか)の印が、
そしてはずれ券にも「日本プロ野球機構」の印(だっただろうか)が押してある。
この「日本プロ野球機構」の印を中村氏が当たり券と勘違いし暴走してしまったという、勇み足によるハプニングだったのだ。
ことが収まり数分後、会見場で会見のやり直しが行われたのだが、
ジャイアンツに交渉権が移った事を知らされて会見に臨んだ辻内は満面の笑みでこう応えた。
「小さいころからジャイアンツファンだったのでとてもうれしいです」
これには会場の記者たちも大笑い。記者会見場は微笑ましい雰囲気に包まれた。

この出来事の後日談として、辻内が小さいころからジャイアンツファンだったということは誰一人知らなかったことで、
両親でさえも一度も聞いたことがなかったと、辻内の「ジャイアンツファン」発言に驚きを隠さなかった。
ジャイアンツファンという思いを心に秘めたまま、現実にプロの世界が近づくにつれて、
更にそれを口にすることをばかるようになっていったのか、辻内の控えめな性格をよく表わしているエピソードといえよう。


プロ野球の世界に限らず、どんなスポーツの世界のおいても、
自分をアピールすることはある意味大事なことだろうし、
それは一般の社会においても前向きな姿勢として評価の得られるところだ。
一般の社会や生活の中では、度が過ぎるとそれは反感を買うし嫌味にも見える。
慎ましやかで控えめな態度との使い分け、そのバランスこそが最も理想的な姿勢であるかもしれない。

しかし、スポーツ界においては、ましてやプロの世界においては、そんな上品なことも言ってられない。
食うか食われるか、あるいは生き残れるか消え去るかの厳しい世界である。
そんな厳しい世界の中で、ましてやそのボーダーライン擦れ擦れのところにいるならばなおのこと、
人を蹴落としてでも前へ出て存在感を示そうとする必死さが求められよう。
何がしかの欠点やハンディを持っているならなおさら、多少荒削りでも気迫と闘志で押し切る力強さが欲しい。
”闘う意志”を自ら示さなければ指揮官の目には留まらない。
他者を気を遣い自分をアピールしきれない人のよさなどプロの世界では必要ない。
団結力であったり、チームワークであったり、それは闘える立場になってからの話だ。

結婚をして守るものが出来た、というならば、今までどおり守りの姿勢では何も変わらない。
どんどん攻めていかなければ例年通りのシーズンで終わってしまうのではないか。
「まだみなさんに(気持ちが)伝わっていないと思うので、それをどう伝えたらいいのかと思う。
日々、悔いのないように練習していくしかない」と語った辻内。
背水の思いを見せるならば、それは態度で示す以外ない。攻める姿勢を出してゆくしかない。

現在、ジャイアンツの左腕の競争は、過去になかったほど激戦を呈している。
過去の怪我や、手術や、制球難など、そういったことを乗り切るために、
彼にもっとも必要なのはなりふり捨てたがむしゃらさではないだろうか。

と言っている矢先、辻内の2軍行きが決まった。
”力を抜いた投球スタイル”であっても、攻める姿勢は貫かなければいけない。

先日書いた高卒投手の有効期限を当に過ぎている辻内である。
原監督が辻内に投げかけた言葉「悔いを残さないように」。
間近で見ている”プロフェッショナルな目”がおくった先見の言葉だろうか。